第5話 道央アースドラゴンバトル(2)
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地龍三体が再出現。
この通信を耳にした者達は大きな衝撃を受け、司令部要員達は頭を抱えた。
西特大の討伐部隊が数名戦死傷し、今川自身も魔力を半分も消耗してようやく二体を討伐したのだ。その上で三体もの地龍を対処するのは、いかに西特大といえども午前中から連戦していたから荷が重かった。
(まだ戦える者だけ残して、入れ替わりで来てもらう部隊を支援要請。これなら、なんとか……。)
今川の判断は常識的なものだった。だから司令部も、何もなければイエスと言うつもりだったし速やかに交替の部隊を手配するのだが、得てして悪い事態は重なるものである。
今川が部下達と一時的に着陸して支援要請を司令部に出していた時だった。
『――は、なんて!? 嘘だろ!?』
「苫小牧FHQ、何があったんですか」
『失礼しました、ウェストウィザード。白老町方面にエンザリアCT一五〇とゴブリンやオークなどの召喚生命体約五〇〇〇が出現しまして……。召喚士達による伏兵です』
「間の悪い……。そうなると地龍は……」
『魔法軍からは厳しいとのこと……。空軍もドラゴンの撃ち漏らしを潰しに向かっており無人機一個小隊と有人戦闘機一個小隊ならなんとか。海軍艦載機部隊にかけあってみますが補給途上の部隊が多く、上がっている部隊が丁度今少なくて……。今、連絡が来ました。海軍からは一個飛行小隊なら出せると』
「海軍さんも午前中から出ずっぱりですからね。一個飛行小隊だけでもありがたいです」
『手が空いたフェアル部隊は必ず向かわせます』
「頼みましたよ。それまでは我々で食い止めますから」
『はっ!』
(とは言ったものの、疲弊した部隊でどこまでやれるか……。マト弾は在庫切れ。戦闘機部隊やフェアル部隊もあっちこっちに出ていたところへ白老町方面の伏兵で残った予備が向かうことになった。地龍三体の現在位置から前線までの距離は約四〇キロだからざっと四五分で到達ですか。…………仕方ない。隊員達には無茶をしてもらいましょう。)
「ウェストウィザードより各員へ。大休憩はお預けで、貴官等にはもう少々無茶をしてもらいます。文句は地を這うオオトカゲにぶつけましょう」
『了解。恨みをぶつけまくります』
『迷惑な外からのお客さんにはくたばって貰わないとな』
『三体で来て気が大きくなってるんでしょう。ぶっ飛ばしてやりますよ』
今川のジョークに隊員達は冗談で返していたが、内心では死を覚悟している者が多くいた。
地龍が一体ならともかく三体。エンザリアCTが放つ光線系魔法の威力を大きく上回るにも関わらず、それを極短時間詠唱で発動するのだ。いかに西特大の精鋭達とはいえ、消耗した今の状態では苦しい戦闘になるのは間違いなかった。
「その心意気や良し。…………今回の戦闘、撤退は認められません。もしもの時は私も一緒です。いいですね」
『はっ!!』
万が一にも備えた決意を表す今川。
部下達も共に進むと心を決めた。
ただ、そのような悲壮な決断を許さない人がいた。
『貴官等の様な最精鋭をむざむざ死なせるわけがないだろう。こちらMG1。雷雲がそちらへ向かう』
「え、え、ええMG1?!?! どうしてこちらに?!?!」
あと二分もしないうちに目標地点に到着する頃に、予期していない相手からの通信があり今川は驚愕する。
『最終決戦でSランクの軍人能力者が前に出んなど戦力の出し惜しみだ。危急の時なら、なおさらな』
「では、既に離陸を……?」
『ああ。俺直轄の部下達と共にな。五分だ。それまでに地べたを這いずり回るクソトカゲの魔法障壁を出来るだけ剥がしておけ』
「了解っ! 支援、感謝申し上げます」
『これは世界の命運を握る戦。当然のことをしたまでだ。気にするな。通信終わり』
「…………。聞きましたね、皆さん。やりますよ」
『サー、イエッサー!!』
今川は通信でやり取りした相手がこちらにやって来ると分かり勝利を確信した。満を持しての登場といっても差し支えない。今最も欲しい援軍だった。
最強の上官が来てくれるとなれば、力は滾り漲る。自分達がするのは地龍の魔法障壁を破壊するだけ。それだけなら残存魔力でも十分に果たせるだろう。
「総員、徹底的に地龍へ法撃をぶつけなさい。後先は考えなくてもよろしい。ケリは閣下がつけてくださるでしょうから」
『了解!!』
一分半後。今川達は地龍三体と接敵する。
開幕早々に地龍は特大の光線系魔法を発射。首を振り回すかのようにして光線を放った為に射線はめちゃくちゃで、回避出来ず蒸発した隊員が六名いたがそれでも彼等は怯まなかった。
『小隊統制法撃。風属性貫通術式用意! 撃てェ!』
『各個法撃用意。炎属性爆発系! 撃て!』
「風の刃は身を包む盾さえ壊す。『
今川が、隊員達が地龍三体の魔法障壁を削っていく。
『地龍01、障壁破壊率四三パーセント』
『地龍02、障壁破壊率四七パーセント』
『地龍03、障壁破壊率五一パーセント』
「まだまだ!! もっと、もっと削りなさい!!」
『サー!!』
魔法障壁を徐々に削られる地龍達も当然ながら抵抗する。敵召喚者達の能力が優れているからか、先の二体の地龍より全体的に動きに無駄がなかった。
法撃にもそれが現れており、三体は絶妙な連携をはかる。
『光線系魔法で三名ロスト!』
「怯むな!! あと一分半!! 攻撃の手を緩めないで!!」
『警告。極短時間詠唱発動確認。即時発射』
『今川大佐っっ!!』
「分かってますっっ!!」
滝山の声に返答しつつ今川はギリギリのところで光線系魔法を避けてみせる。にも関わらず魔法障壁は半分が破壊されていた。
「掠った程度でこれとは本当におっかないですね。ですが、当たらなければいいだけっ!」
今川達はひたすらに法撃を放ち続ける。その成果は着実に出ていた。
『地龍01、障壁破壊率八一パーセント』
『地龍02、障壁破壊率八〇パーセント』
『地龍03、障壁破壊率八八パーセント』
『西特大の諸君等、よくやってくれた。指定空域から退避せよ。
無線から男の低い声が聞こえた。今川はすぐさま部下達へ指示を出す。
「了解しました! 総員退避!」
『警告。指定空域から退避してください。法撃発動まで、あと一八秒』
今川達は半径数百メートルの範囲に広がる赤透明の指定範囲からすぐに離脱。全員が範囲外に出た。
『
男が詠唱を紡ぎ終え、右腕を振り下ろした瞬間。辺り一面を白い光が支配した。
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