第2話 作戦第二段階

 ・・2・・

 二○三七年四月二三日。

『オペレーション・ブレイクドア』は作戦第二段階へ移行した。

 午前六時過ぎ、苫小牧市西部沿岸からむかわ町西部沿岸にかけて先発部隊が上陸。海軍、空軍の援護を受けながら先発部隊は複数箇所の橋頭堡を構築していく。この時も海軍の艦砲射撃やミサイル攻撃、空軍の地上支援攻撃は執拗という言葉が似合うほどに続けられていた。

 苫小牧・白老・むかわ・千歳方面に展開していた神聖帝国軍は五個師団。CTが約二五○○○だったが、第一段階における攻撃で大打撃を負っていたから抵抗はさほど激しくなかった。


 朝から午前中にかけて、戦車部隊を含む重火力戦力を伴った第二波、第三波部隊が続々と上陸する。

 苫小牧は海からそう遠くない距離に山地が広がっているから、第二波や第三波が到着すると日本軍上陸部隊はあっという間に制圧領域を広げていく。海軍や空軍が苫小牧周辺の神聖帝国軍部隊やCTを徹底的に火力で叩いたというのも大きかった。


 二三日昼過ぎ。日本軍苫小牧方面上陸部隊は苫小牧市街地の大部分と苫小牧東港方面(浜厚真方面)及びむかわ町の沿岸部を奪還。北へ北へと、日本軍上陸部隊は進撃を続けていく。


 この頃になると、日本軍の砲爆撃が比較的少なく苫小牧方面から距離が近い北広島・恵庭方面から南下してきた神聖帝国軍部隊二個師団とCT約一○○○○が上陸部隊と衝突する。

 一時的に数的優勢を確保した神聖帝国軍及びCTであったが、航空優勢は日本軍側が確保したことで沿岸の攻撃は叶わず上陸部隊は第四波・第五波が北の大地を踏んだ。


 神聖帝国軍サイドが虚ろ目のエンザリアやエンザリアCTを投入してもなお反撃がままならない理由は他にもあった。


 それは、『西特大』を含む精鋭フェアル部隊の存在だった。



 ・・Φ・・

 2037年4月23日

 午後1時過ぎ

 北海道 新千歳空港南東部近郊


『海兵第二師団第一一旅団HQよりウェストウィザードへ。新千歳空港周辺に新たなエンザリアCTが出現。数は約三○。加えて虚ろ目の方も出現。こちらの数は七。旅団麾下部隊の北進が困難になるため、支援を要請』


「ウェストウィザードより海兵第二師第一一旅HQへ。支援要請を受け取りました。約一二○秒から一八○秒後に周辺へ対地魔法攻撃を実施します。ただし虚ろ目が厄介なので牽制が必要です。そちらの方は?」


『既に海軍艦艇へ支援攻撃を要請済み。約九○秒後から一○○秒後に攻撃予定です。一時的に対空法撃の穴が開くかと』


「了解しました。なら問題ありません。今潰してる相手を片付けたらそちらへ向かい、終わったので向かいます」


『助かります。よろしく頼みます』


「お任せあれ。その為の我々です」


 今川が率いる西特大は午前中から苫小牧周辺空域に投入されていたが、正午を過ぎると上陸部隊の北進に伴って彼女らがいる空域も千歳方面へと移っていた。

 彼女は支援要請先との通信を終えると、本部中隊を率いて今いる場所から新千歳空港東部へ向かう。


 約九○秒後。ほぼ時間ぴったりに、海軍艦艇から放たれた巡航ミサイル三発が虚ろ目のエンザリアやエンザリアCTのいる一帯に着弾して大爆発を引き起こした。


「本部中隊、第二中隊。対地法撃用意! 属性・風! 貫通系術式!」


『了解!!』


 今川達はフェアルを加速させ新千歳空港周辺へ到達する。


「三、二、一、法撃開始!!」


 今川が命令した直後に風属性中級魔法の刃が多数、虚ろ目のエンザリアやエンザリアCTを襲う。


『報告。虚ろ目のエンザリアを五体撃破。エンザリアCTを一五体撃破』


「本部中隊、第二中隊。反転。再度対地法撃用意。虚ろ目などの反撃に注意しつつ法撃してください」


『了解!!』


『第二中隊了解!!』


『警告。虚ろ目のエンザリア二より魔力反応。光線系射出まで五秒』


「各自回避の後に法撃開始!」


 何度もエンザリアと交戦してきた西特大の隊員達であったから、少数に減った相手のまばらな法撃ならば対処は容易だった。

 虚ろ目のエンザリアやエンザリアCTの光線系魔法を回避すると、それぞれが目標をロックし法撃をしていく。今川達はそう経たない内に空港周辺に現れた敵エンザリアを撃破した。


「ウェストウィザードより海兵二師一一旅HQへ。空港周辺のエンザリア群を撃破。周辺地域の危険度低下を確認しました」


『海兵第二師団第一一旅団HQよりウェストウィザード。エンザリア群撃破感謝します!! ありがとうございました!!』


「どういたしまして」


 旅団司令部要員からの明るい声音が返ってくると、今川は微笑んで彼等との通信を終える。


 こうした支援要請は西特大に限らず各フェアル部隊でも見受けられたが、今川達への要請回数は他より多かった。彼女らが精鋭部隊で一つ一つの支援を他部隊より早く終えたからであったが、二度目の補給と小休憩へ入る頃には今川はある違和感を抱いていた。


(虚ろ目のエンザリアやCT二型はともかく、神聖帝国軍部隊の練度が本土のソレより低いように思えるのは気のせいでしょうか……。北海道への上陸攻撃は全く予想していないわけじゃ無さそうですからある程度の数はいましたが、質の面では仙台の方が非常に厄介だったような……。)


 今川の予想は半分当たっていた。

 北海道にいる神聖帝国軍は本州に展開している部隊に比べて練度に劣っており、戦闘で投入する部隊も二線級ほど低くは無いが一流とまでは言えない水準のものだった。

 加えて二線級部隊もいたが、これらは北海道を占領してから復旧活動や入植活動にあたっている者達であった。そもそも戦闘を主任務としていないのだから二線級部隊でも問題は無かったのである。

 もう半分は外れているのだが、その真相を今川達はまだ知らなかった。


 いずれにしても、『オペレーション・ブレイクドア』は第一段階と第二段階のこの時点までは日本軍優位でことが進んでいた。


 ただ、神聖帝国軍とてやられっぱなしでは無い。まがりなりにも大戦初期に全世界へ多面的に侵攻し、日本国内の約半分を占領せしめた軍隊である。日本軍の上陸から約半日が経過した午後四時半頃にはこの日初めての大規模な反撃が始まろうとしていた。


『苫小牧FHQ《前線司令部》より各部隊へ緊急通報! 帯広方面より高速で接近する飛行体を探知! 数は二○○から三○○で苫小牧・千歳空域への到達まで約六○○! レーダーが探知した大きさと速度からドラゴンと思われる!』


「やはり来ましたか。ですが、それで構いません。我々が戦力を誘引すればするほど、目的は達成されるのですから」


 今川は東の空を睨む。


『大隊各員へ!! 迎撃準備!!』


『はっ!!』


 空を翔ける魔術師達は次々と上空へとのぼっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る