第9話 最終決戦はすぐそこに
・・9・・
2037年4月22日
午後4時半過ぎ
釧路方面上陸部隊輸送艦隊
旗艦 強襲揚陸艦『若狭』・艦内会議室
遂に『オペレーション・ブレイクドア』が全世界的に始まった。
日本を含む各国では門への直接攻撃から目を逸らすために、まるでここが本命だと言わんばかりの攻撃を始め、例えば日本では苫小牧・千歳方面への徹底的な砲爆撃が始まっていた。
その中で、本命の釧路転移門に向けて進む『日本軍釧路方面上陸部隊』は二二日午前に出港。敵の索敵網にかからないよう、東へ大回りしながら釧路沖へ向かっていた。
釧路方面上陸部隊の主戦力が一つ、第一○一魔法旅団戦闘団は輸送艦隊旗艦・強襲揚陸艦『若狭』に乗り、夕方を迎えた今は来たる作戦に向けて指揮官級会議を艦内会議室で行っていた。会議室の中央にはホログラムタイプの地図がある。上座あたる場所には璃佳が立っていた。周りには囲むように旅団戦闘団の大隊長達がいる。
この中で孝弘は特務小隊改め、大崎の戦闘を生き残った小隊の隊員達で構成されている『本部中隊付特殊戦闘分隊』の隊長として参加していた。
全員が集まり電子資料の配布が終わると璃佳は、作戦の中で旅団戦闘団がする行動の説明を始めた。
「皆も知っての通り、『オペレーション・ブレイクドア』は既に作戦第一段階を開始。苫小牧周辺部と千歳方面は開戦以降最大の火力投射が行われていて、明日から始まる上陸作戦に備えて敵地となった作戦対象地域を耕しにかかってる。まるで苫小牧や千歳、その先にある札幌を目標としていると錯覚させるくらいにね。でも、それらは全て私たち釧路方面上陸部隊が最大効果で奇襲出来るようにするため。ただそのためだけに、日本軍は多数の物資弾薬に将兵をあの地に注ぐ。だから私達に失敗は許されない。まあ、失敗したら日本どころか世界も滅ぶことになるからね。許されないどころの話じゃないわけさ」
いつも通りのトーンで口角をやや上げて璃佳は語るがその瞳は笑っていない。少なくとも今は冗談を言って息を抜くようなタイミングでは無かった。
それから、璃佳は淡々と説明を始めた。地図は苫小牧・千歳方面から釧路方面へと変わる。
地図には青い矢印がいくつか現れる。その上には、神聖帝国軍釧路方面展開部隊約二五○○○。CT推定約四○○○○と表示されていた。
「四月二五日午前六時半。我々一○一の中でも一部を除いた釧路方面上陸部隊は釧路市大楽毛から益浦にかけての海岸に奇襲的上陸を開始。上陸直前から上陸時にかけて海軍の艦砲射撃と空軍の航空支援を受けることになっているけど、マジックジャミング装置などの最優先破壊目標や敵司令部などの大規模目標。加えて重火力目標を潰すことが彼らの任務だから、近接航空支援は攻撃ヘリ部隊やフェアル部隊と一部の戦闘機部隊が担当だからそのつもりで」
「ウチの部隊でこっちを担当するのは本部中隊の一部と工兵大隊に後方支援大隊。北特団の本部中隊もここに含んでて、指揮は蓼科大佐に任せることにした。北特団第二大隊と第三大隊に、特務第一大隊と第三大隊。地上戦に強く一部の隊員はフェアルも使えるこれらの部隊は、上陸部隊の先鋒として戦ってもらう。上陸直前砲爆撃で敵は何が起きるか勘づくだろうから、上陸直後は激しい抵抗が想定される。一人漏らさず張っ倒せ」
「もちろんです」
「奴らのケツに穴を開けてやりますよ」
「松阪中佐、川崎中佐。よい威勢だ。頼むよ」
「上陸直前から上陸直後にかけての艦砲射撃や航空支援はどれくらいの密度になりそうっすか? この後の本命中の本命もあるでしょうし」
「ド本命は別枠だから、上陸前後の艦砲射撃やミサイル攻撃、航空支援攻撃は大盤振る舞いだよ。私達の後ろに砲弾薬の輸送艦艇が続いているから、心配必要ないって」
「それは気前がいいっすね。安心しました」
「私もその点はホッとしてる」
上陸前から上陸直後までの説明が終わると味方の領域である薄青色が釧路市街に広がっていく。上陸してからの作戦行動が表示されていた。
「上陸からの動きは非常にシンプル。釧路市街東部方面から上陸した部隊は市街中央部へ。市街西部方面から上陸した部隊は西部方面から迫る敵を抑える部隊と北北西へ進出する部隊と市街中央へ進み東部方面上陸部隊と合流するのに分かれながら進んでく。本中と後方支援・工兵大隊に北特団第二と特務第三は西部方面へ。北特団第一と特務第一は東部方面から上陸し、いつも通り、敵制圧地域を食い破って浸透するように進むこと。この際、北特団には道案内役を頼むことになる。釧路が故郷のヤツもいると思うから、細かい進出経路は北特団におまかせってとこだね」
「了解致しました」
「…………了解です」
ここまでの流れを璃佳が説明がし終えると、地図の表示する場所が変わった。釧路ゲートが存在する阿寒町付近だった。門を表すマークがあり、その周辺には門を守る神聖帝国軍二個連隊とエンザリアCT(虚ろ目のエンザリア含む)推定約二○○〜三○○と表示されていた。
友軍つまりは孝弘達を表す薄青色の矢印は白糠町方面から阿寒町方面に伸びていた。
「さて。こっからはド本命のゲート奇襲部隊だ。担当するのは私や熊川を含む本中でも戦える人員と本部中隊付特戦分。北特団第一に特務第二。奴らにとってはSランク五人の大サービスだね。ただし私達はとある貴賓客のシークレットサービス。貴賓客は急ごしらえでマト弾を抱えたF-3戦闘機が二機。彼等は護衛の有人戦闘機部隊と無人戦闘機部隊のエスコートでやってくるけど、門周辺は最重要施設相応の部隊配置がされてるらしい。私達はこれらの部隊を吹っ飛ばし、どうせいるだろう堕天使共もぶっ飛ばし、F-3には無事誘導弾型のマト弾を配達してもらう。それが、私達の任務だ」
璃佳は一旦話すのを止めると、深く息を吸いそれからゆっくりと吐き、再び話し始めた。
「釧路ゲートが破壊出来るかどうかで、私達の国が。私達の故郷が。大切な人の生死が決まる。今回動員された兵力は門破壊成功後も見越しての数だけど、失敗してスタンピードのバケモノ共が流れてきたら、我々に抵抗する術はない。たかだか十数万の兵力でどうにか出来る数じゃないからね。だからこそ、陸軍は攻勢に使える戦力の大部分を北海道に派遣し、海兵隊や我々魔法軍に至っては第一線級部隊のほぼ全てを北海道に集中させた。軍人として前線で戦える戦えるSランクは全員が北海道にいて、そのうち五人がたった一箇所。だけど一番重要な門破壊の任務につくことになった。今までも我々は重要な作戦ばかり関わってきたけれど、今回は皆の人生で一番の岐路を迎える作戦になる。それほどまでに、この作戦は重要なわけ」
璃佳は会議室にいる面々へ視線を送ると、こう言った。
「だから、今回だけは、生き残ることを作戦の最優先目的にしろとは言えない。不測の事態が重なれば、我々が死んでも対処しなければどうにも出来ない状況が起きれば、私は貴官等のうち誰かへ世界のために死んでくれと命令する。世界の命運がかかっているから。守るべき人達を守らなければならないから。だから、貴官等には死んでくれと命令する。それが私の役割だから」
大切な人のためにも生き残れとよく言っていた璃佳がここまで語るのだ。会議にいる誰もが、分かっていたとはいえ息をのむ。
「って言ったけどさ。私はやっぱしんみりした言い方は好きじゃないし、今言ったことは最後も最後の手段。だから、今から皆に伝えることは決して忘れないでほしいな」
「総員、七条璃佳閣下に傾注!」
熊川が言うと、全員が璃佳の方を向いて直立した。
「いきなり他人の
『サー、イエッサーッッ!!』
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