第16話 結界の中で

 ・・16・・

「通信途絶。レーダーダウン。結界魔法の強度は不明だが、試しにぶつけたハイショットが弾かれた音からして皇居のヤツ以上の可能性がある。捨て身の作戦にしてやられたな.......」


 唯一の幸いは敵が玉砕覚悟で戦ってきて本当に玉砕したことくらいか。

 孝弘は目の前にそびえる薄黒い帳を前にして冷静でいようとしていたが、内心では焦りと後悔がじわじわと滲み出てきていた。


「孝弘、大丈夫か?」


「……ああ」


「あんま気にすんなよ。オレが隊長やっててもこうなってた。ほら、深呼吸」


「すぅ……。はぁ……」


「頭ン中はクリアになったか?」


「ありがとう、大輝」


「いいってことよ。んじゃ、知花に水帆達と合流しようぜ。ぶっちゃけイヤな予感がする」


「同感だ。ただ閉じ込められるだけならいいが、命をチップにしたヤツらだ。不測の事態に備えて戦力を集中させた方がいいだろうな。――皆、知花達の方に行くぞ。敵性体のキャッチは個別魔力探知方式に切り替え。レーダーは使い物にならないからな。全周警戒を維持」


『了解……!』


 孝弘達は水帆や知花達の方へ慎重な足取りで向かう。周りは不気味なくらいに静寂に包まれていた。


「先行させてたシノビが知花達を見つけたぜ。五○○メートル先だ」


「そう遠くなくて良かった。早く行こう」


「おう」


 辺りを見回しながら駆け足で向かうと、孝弘達はすぐに知花達と合流できた。


「知花! 無事で良かったぜ」


「大輝くんも怪我が無くて良かった!」


「その様子だと傷一つ無さそうだな。安心したよ」


「アナタもね。ほっとしたわ」


 特務小隊の面々は誰一人欠けることなく合流を果たせたのを喜び合ったがそれもつかの間のこと。結界の中に閉じ込められた事実に変わりはなく、何が起きたかの情報共有だけをすると、このまま立ち話をしていても仕方がないので近くにあった会社の事務所へ向かう。

 孝弘は鳴海兄妹を含めた六人を外の警戒にあたらせると、水帆・大輝・知花・慎吾・金山を呼んで会議室で解決策を話し合うことにした。


「状況を整理しよう。結界魔法の大きさは見たところ直径約四キロ前後。術式の性質上、大きさも強度も皇居より上と考えた方がいいだろうな。知花。結界内に敵性体はいそうか?」


「第一目標の護衛部隊は全員死亡してるからいないと思うけど、どこかに潜まれてたら分からないかな……。魔力探知方式はキャッチするまで掴めないから」


「となると不用意には動けないな。金山中尉、結界の強度からしてどれくらいの魔法をぶつける必要があるか分かるか?」


「皇居の結界魔法を基準とするなら、最低でも戦術級は必要かと思います。結界魔法は術者が死ねば解除されるシロモノのはずなのですが、今回はイレギュラー。シュレイダーが命と引き換えに展開したモノ。彼の持つ魔力増量が分かればある程度の予測はつきますが、死んでしまうと計測は出来ません。なので、最低でも戦術級としか返答が出来ません……。場合によっては準戦略級も視野に入れるべきかと思います」


「分かった。ここにいるのはSランクとAランクの高位能力者。二○人の総魔法量から計算すれば……、連結型術式なら戦術級は何発かいけるな。ただ、準戦略級となると……」


「私に孝弘、大輝に知花を主軸にしても二発が限度ね。準とはいっても戦略級はそもそも小隊規模でやるような術式じゃないもの」


 準戦略級魔法の威力は戦術級と比較しても桁違いだが必要になる人員も桁違いだ。戦術級であれば一般的に必要な人数はBランクの魔法能力者が一個大隊程度いれば可能と言われている。

 これが準戦略級になるとBランクの魔法能力者だと二個大隊程度で一発が打つのがやっと。Aランクの魔法能力者なら一個中隊いて一発である。

 今ここにいるのはたったの二○人だが、孝弘達四人がSランクであるから彼等を発動のメインとすればこの人数でも準戦略級魔法の発動は可能なのである。

 ただ、その発動に異を唱える者がいた。鳴海慎吾だった。


「米原中佐、私としては準戦略級の行使は最終手段とした方がいいかと思います」


「慎吾少佐。その理由は?」


「二つあります。一つ目は救出部隊が来る可能性が高いこと。通信途絶となった時点で司令部が非常事態に気付いているはずです。皇居の前例があるので結界魔法を破壊しての救出が考えられます。となると、我々が準戦略級魔法を発動して結界を破壊、その先に部隊がいた場合却って彼等を危険に晒すことになるでしょう」


「想像したくない光景だな……。二つ目は?」


「準戦略級魔法は消費魔力が多く、結界を破壊し外に出れたとしてもその後の対処が難しくなるからですね。一つ目で救出部隊が来るとは言いましたが何らかの事態によって来れなかった場合、我々は単独で対処しなければなりません。CTが少々だけならともかく多数いたらそれらと消耗した状態で交戦せねばならず、生きて帰れるかは分かりません」


「慎吾少佐の懸念は最もだな。じゃあ、こうしよう。結界への法撃は一発目が戦術級。それで破壊出来ればベストだし、破壊出来なくとも結界の強度は一発当てれば大体わかる。もし準戦略級魔法が必要なら使用もやむなしとしよう」


「良案ですね。それがよろしいかと思います」


 慎吾は孝弘の案に同意し、周りも了解の意味で頷く。

 方針が決まったのならあとは行動に移すだけ。孝弘達が外に出た時だった。


「……っ!?!? 高出力法撃反応多数!! 総員、障壁最大展開で緊急回避!!」


 孝弘は全員に聞こえるよう大声を出し、自身も回避のために身体強化魔法を付与して最大速力で走る。

 その直後、彼等がいた会社の事務所はいくつもの光線系魔法によって木っ端微塵に吹き飛んだ。

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