第17話 二つ目の置き土産は虚ろ目のエンザリア
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大量の光線が事務所周辺を直撃した瞬間、『賢者の瞳』の隊内間限定通信は無情な宣告を孝弘達に告げる。
『SA17、18、19、20ロスト』
『SA3ゴーレム2、4、5蒸発』
ロスト。賢者の瞳が物理的に消えたのを表しており、つまり四人は即死だった。最精鋭と名高い特務小隊の一個分隊が、一瞬で。加えて警戒にあたらせていた大輝のゴーレムも三体が瞬殺されてしまう。
「クソがっっ!! ゴーレム悪ぃ!! 守ってくれ!!」
「第二波来るよ!! 皆避けて!!」
知花が警告を発した直後、十数本の光線が彼等の周囲に着弾する。
「あああぁ!?!?」
「ぐぁぁぁ!!!!」
『SA14、SA15システム異常。負傷判定』
二回目の攻撃はSA14の上野少尉とSA15の坂井曹長の魔法障壁のほとんどを破壊し、二人を遠くに吹き飛ばした。
「総員散開!! 二か三名で分散しろ!! まとまっていたら吹っ飛ばされるぞ!! 死にたくなければ身を守れ!!」
四人が死に、二人が負傷したがアレコレと考えている暇などない。孝弘は矢継ぎ早に命令を出していく。
「鉄壁よ、我等を守護せよ!! 続けて発動、土を抉れ穴を生じろ!!」
孝弘の命令通り、最大でも三名単位で分かれていく。法撃の性質上、単独行動は極めて危険だからだ。
小隊の全員が散らばって後退する中でも大輝は極めて短い詠唱で次々と壁を作り地面を抉って簡易的な塹壕を作り出していく。極短縮詠唱であるから防御力に期待は出来ないが無いよりはマシだった。
住宅と田畑が疎らにある地区とはいえ遮蔽物は幾つかある。孝弘達はそれらにようやく身を隠すことが出来た。
「水帆、牽制目的でかいのぶちかましてくれ。このままだと身動きも取れない」
「分かったわ」
「知花、敵の数と距離は? この威力は洗脳されたエンザリアだろう?」
『うん。エンザリア。数は五五で距離は約七○○。散らばってこっちに少しずつ迫ってきてるよ。魔力反応からして、今回のはこれまでのより強い可能性が高いかな……』
「了解。大輝、後方に出来るだけ多く壁と塹壕を。結界内であと二キロ下がれない。数を減らしたら機動戦に移りたいけどその前に――」
『隠れる場所がねえとな。分かったぜ』
「頼んだ」
孝弘が指示を出す間にも数本の光線が飛んでくる。幸いどれも
(まさか対物ライフルを持ってこなかったのが仇になるなんてな……)
孝弘が今携行しているのは魔法拳銃二丁。七○○メートル先にいる敵を狙うのはいくら孝弘とて愚策だ。高速機動戦になるまで彼の出る幕は限られる。孝弘は命令を出しつつまずは負傷判定の出た二人を探すことにした。
「炎の礫は空より落ち、哀れな天使を焼き尽くす。『
水帆が発動した術式は上級火属性魔法。その中でも面制圧型の法撃だ。
上空に幾つか魔法陣が現れると、多数の炎石がエンザリアに向かって降ってゆく。
『敵八を撃破! 残り四七! 私もすぐに法撃に移るよ!』
「分かった!」
「ちっ。分散してて思ったより潰せてないわね……。知花の法撃からすぐもう一度……!」
「それが終わったら上野少尉と坂井曹長の救出に移る。援護を頼めるか?」
「了解よ。二人の怪我は?」
「イエローだ。早く助けてやりたい」
「そうね……。任せなさい」
「よろしく。慎吾少佐、有都大尉、華蓮大尉。俺と水帆で上野少尉と坂井曹長を救助しにいくから、その間できるだけ多くの火力を敵に叩き込んでくれ」
『了解しました』
孝弘は三人への指示を終えるとその直後、知花は詠唱を完了し上級光属性の面制圧型を発動。レーダーがダウンしており従前の命中率は期待できないが、探知魔法をフルに利用してなるべく敵が多く収まる範囲を選択した。
それからすぐ、水帆の二回目の法撃がエンザリアを襲う。他の小隊員達の懸命な法撃もあり残ったエンザリアは三二まで減った。
「今だ。行くぞ」
「ええ!」
「米原中佐を援護しますよ!」
「はいっ!」
「はーい!!」
孝弘と水帆は塹壕から飛び出す。要救助の二人は随分吹き飛ばされてしまっていて、孝弘達のいた所から二五○メートル先に倒れていた。
二人が塹壕から出てきたことで、明らかに射線はそちらに向かおうとしていた。
「させませんよ!」
「やらせてたまるかよ!」
「吹っ飛べー!!」
慎吾達三人の法撃は狙いを向けていたいくらかのエンザリアの気を逸らし、孝弘と水帆のもとに放たれた光線は三発で済んだ。
「光線が少し太いが、これなら避けられる! あと、あと少しだ!」
「二人とも、待ってなさいな! 今助けるわ!」
孝弘と水帆の声が届いたのか、脚からかなり血を流している上野少尉が二人の方に視線を向けた。坂井曹長は意識を失っているようで、動きが無かった。
あと一五○メートル。身体強化魔法を施した脚力ならすぐに届く距離だ。ところが。
『距離三○○の奥の建物から新たな高出力法撃反応!? 二人とも、すぐに避けて!!』
「させるかよっっ!!」
「やらせてたまるもんですか!!」
孝弘は二丁の拳銃を連射し、水帆は準備詠唱までしておいた炎属性爆発系の法撃を発動する。
二人の攻撃は新たに現れた五人のエンザリアを貫き、建物ごと吹き飛ばして難を逃れる。
「あと五○メートル!!」
『続けて高出力法撃反応! 既存の三から!』
『撃たせは、しないっっ!!』
法撃の主は宏光だった。発動したのは火と闇の複合属性上級魔法。紫色をした炎球は発射直前まで詠唱を終えていたエンザリア三体を消し尽くした。
「よくやった金山中尉!」
宏光の法撃によって貴重な間が生まれ、その隙に二人は上野少尉と坂井曹長の救助に成功する。
「救出完了!」
『よぅしっ!! 孝弘、急ごしらえもいいとこだがお前のとこから八時方向、距離六五○先に壁と塹壕を作った!! 向かってきてくれ!!』
「分かった! 二人をそこに置いたら態勢を立て直して高速機動戦に移るぞ!」
「助かるわ!」
大輝からの通信を受け取ると、上野少尉を抱える孝弘と坂井曹長を背負う水帆は走る速度を最大限まで上げる。
「米原中佐……、すみ、ませ……」
「気にするな。部下を助けるのも上官の役目だ」
「あ……、とう、ござ……ま……」
孝弘の背後でぽそりと口にした上野少尉は、そこから先の言葉が途切れる。意識を失ったようだった。
「上野少尉と坂井曹長、まずいな……」
「ええ……」
『二人とも二時方向に一旦転換! あと二秒で進路の先に来る!』
「ちぃ!!」
「ああもう!!」
知花の警告からすぐに十数メートル左に光線魔法が直撃する。彼女の警告が無ければ危なかった。
『ここまでして、許すわけ無いでしょっっ!!』
数秒後、知花の光属性上級魔法がエンザリア数人にヒット。知花がデータを送り続けているエンザリアの残数表示は一八まで減っていた。
彼女の攻撃で生じた隙は孝弘と水帆が大輝の作った応急防衛拠点にたどり着くには十分だった。
ここまで戦死四名。重傷二名。息つく暇なく、孝弘達は反撃へ移ることになる。この場から生き残り脱出する為に。
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