第7話 虚ろ目のエンザリアの脅威

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 CTではないエンザリアの出現に日本軍は騒然となったが、仙台空港に現れた三人とは別に、名取市街地郊外南部でさらに二人が出てきた事は戦線にさらなる衝撃を与えた。

 Sランク能力者四人が袋叩きにして抑えた相手だ。エンザリアCTとは比較にならない戦闘力であるから戦線中央部の被害もCTの方とは比べ物にならないものだった。

 出現直後の初撃でまず戦車二両が吹き飛び、間髪置かずに放たれた第二撃で機動戦闘車一両が大破。周辺にいた数十名の兵士が負傷する。

 戦線中央部には既に仙台空港の件が共有化されていたことと、エンザリア出現に呼応してCTの攻撃が激しくなったこともあり前線指揮所は航空支援と榴弾砲による攻撃を要請。フェアル部隊と付近の砲兵部隊が即時受諾して徹底的に火力を叩き込むことにした。

 特務の第二のうち一個小隊と榴弾砲三門による攻撃が届くまで、地上はよく持ちこたえた。歩兵は近くの塹壕に隠れ、戦車などは回避機動を取りつつスラローム射撃にて反撃をするも、CTの突撃に混ざって放たれるエンザリアの連続的な光線系法撃で死傷者は続出する。

 それでも勇猛果敢に彼等は戦った。魔法兵科の魔法障壁が無ければ吹き飛んだ歩兵小隊があったし、他国に比して機動力に優れる戦車で無ければ直撃を食らっていた。彼等の奮戦があったから戦線は崩壊しなかった。

 出現から一分足らずでまずは榴弾砲が届いたし、その三○秒後にはフェアル部隊が到着した。個体攻撃力に優れる相手には、集団による優勢火力で反撃。これでようやく、エンザリア二体を倒すことが出来た。

 しかし、たった三分の間で戦車は二両被撃破、二両大破。機動戦闘車は一両が被撃破、一両が大破。陸、海兵、魔法軍の死傷者は一○○名近くと洒落にならない損害を受けたのもまた事実であった。



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 仙台空港の南でエンザリアと交戦しこれを撃破した孝弘は戦闘が落ち着いてから知花と共に璃佳へ戦闘の詳細報告をしにいった。知花はあの時、可能な限りデータを取っていたからである。

 知花の情報は璃佳だけでなく全戦線の指揮官クラスに歓迎された。戦線中央部での戦闘ではデータ収集どころではなくまともな情報は得られなかったが、知花は戦闘中に『賢者の瞳』の戦闘補助モードに加えて情報収集モードを並列起動しており、エンザリアの戦闘中から死ぬまでの行動を録画、法撃力や機動力の計測などを行っていたからだ。

 知花は璃佳に以下のような報告をした。


 ◾︎エンザリアの法撃力は低出力連続発射型で従来法撃を約五○パーセント上回り、高出力型に至っては従来法撃の約二○○パーセントから二五○パーセントを観測した。これは低出力型であっても一般的な能力者では魔法障壁が全損の上に死亡、さらには後方に貫通する水準にある。高出力型の場合、Aランクの魔法障壁が全損に近いダメージを受け、A+ランクでも半損以上全損未満のダメージを受ける。Sランクでようやく半損に近いダメージで済むといった水準である。


 ◾︎エンザリアの真の脅威は法撃射出までの秒数とリキャストタイムにある。エンザリアの法撃射出スパンは従来型を大幅に上回り、低出力型の場合僅か二秒から三秒で射出。短縮術式に至っては一秒程度である。高出力型でも約四秒から五秒で発射される。これはAからA+ランクの短縮詠唱、Sランクの準短縮詠唱と同等である。


 ◾︎リキャストタイムも大幅に短くなった。低出力型の場合、リキャストタイムは僅かに五秒から七秒。高出力型でも約一○秒であった。これはエンザリアCTの半分以下の間隔である。


 ◾︎魔法障壁密度もエンザリアCTに比べ向上している。個体差による差異を鑑みるには取得したデータが少ないためあくまで現時点における推測値であるものの、約四○パーセントから六○パーセントの向上を観測した。


 ◾︎反面、機動力については大幅な向上は見られなかった。地上機動での時速約一二○は十分に脅威だがこれは従来型の約八○から一○○に比べると控えめな数値であるといえる。飛行速度も飛行型エンザリアCTに遠く及ばない。ただし、空中機動戦がごく短時間であったことから本当に飛行型エンザリアCTに遠く及ばないかどうか、現時点で判断するのは危険である。


 ◾︎エンザリアが死亡の間際に「堕ちたワタシ達は逆らえない。同志を解放してくれ」と遺した点と、米原中佐が口の動きのみであるが「コロセ」と言っていたのを目撃した点から、CTではないエンザリアには洗脳等なんらかの手法が神聖帝国によってなされている可能性がある。天輪が黒色である事も関係しているかもしれない。


 知花の報告に、璃佳は一○一ですら大きな損害が生じかねないと頭を抱えたが、反面貴重な情報に強く感謝していた。敵の情報はあるとなしでは大違いであることをこの大戦の間に何度も体感しているからである。

 璃佳にもたらされた報告はすぐさま軍最上層部に出され、緊急性が高いと判断した軍は国内だけでなく国外にも包み隠さず情報共有した。

 だが、数時間遅かった。世界各地、特に米国と欧州で同様の事例が発生したからである。

 特に欧州戦線は酷かった。反転攻勢に出ていた北欧戦線ではエンザリアが一挙に二五人出現。一時的ではあるものの戦線が崩壊しかけ危うい状態になったのだ。

 幸い北欧戦線方面は重砲火力が充実しており、Aランク以上の高位能力者も集中配備されていた部分での出来事であったから最悪の事態を脱しつつあるが、後の攻勢作戦に影響が出るのは必須であり、せっかくの反転攻勢に水を差された形になってしまっていたのである。

 このように世界数カ所で姿を現したCTではない洗脳されている可能性のあるエンザリアは、大きな脅威として世界各国で認識されることになるのであった。

 そのような中で仙台の戦線もまた、一度ならず二度の脅威を味わうことになる。

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