第8話 二度目の虚ろ目エンザリアとの交戦も、刈谷大尉達は諦めない
・・8・・
三月一七日。エンザリアの出現という脅威を拭えないまま、日本軍は前日からの攻勢を継続し徐々に戦線を押し上げ、石巻方面では上陸作戦も始まった。
主戦線の西側は遂に名取川南岸まで到達。速やかに渡河作戦を実施し午前中に北岸に到達。橋頭堡を構築した後に徹底的に火力を叩き込み、富沢地区や太子堂駅周辺を奪還。長町を至近距離にまで収めることとなる。高所からの砲撃を可能にするため、那智が丘方面にも攻撃を敢行。これを奪還し榴弾砲や自走砲部隊が昼にかけて展開していき、午後過ぎには砲撃が可能となる。
孝弘達のいる東側の戦線も西側に呼応して攻勢を強めていた。仙台空港から
名取川北岸を越えた各部隊は名取・南仙台方面で未だ頑強に抵抗する神聖帝国軍とCTを包囲すべく、攻勢の手を緩めずただひたすらに敵への攻撃を行っていった。
しかし、神聖帝国軍とてカードを温存することはなくむしろ積極的に場に手札を繰り出してくる。
それは東側戦線に比べて平地の面積に乏しく、比例して兵力の展開が少ない西側の戦線で発生した。
一度起きたのだ。当然、二度目も起きたのである。
・・Φ・・
2037年3月17日
午後1時過ぎ
宮城県立農業高校付近
『警告、高密度光線系術式五。射出まで推定三秒』
「エンザリアだ!! 回避!! 回避!!」
攻撃は突然だった。
『賢者の瞳』が警告を発してすぐ、魔法軍の刈谷大尉は自身の部下達にめいいっぱいの大きい声で叫ぶ。
光線系術式は賢者の瞳の警告通り三秒経って発射された。凄まじい速度で進む光の筋は五本。
一本は機動戦闘車に直撃し爆発炎上。もう一本は那智が丘に移動させようとしていた自走砲に直撃し弾薬ごと大爆発を巻き起こした。
残り三本も刈谷大尉がいた陣地周辺に命中し、土属性で補強された防御豪や魔法障壁を容易く貫通して数十名の兵士が吹っ飛んだ。
「機動戦闘用意! 機動戦闘用意! その場に留まってたら堕天使共のいい的にしかならねえぞ!!」
刈谷大尉は身体強化魔法をかけつつ部下へらとにかく動き回って攻撃することを命じる。
とは言うものの、エンザリアの魔の手から逃れるのは困難だった。
『警告。CT接近。二個大隊規模。加えて警告。神聖帝国軍部隊接近。一個大隊規模』
「だろうな!! エンザリア単品で引っ掻き回してくるわけねえ!!」
「大尉! 我々がエンザリアを引き付けましょう! そうでもしないと陸軍や海兵隊が持ちませんし、エンザリア以外の攻勢に集中でき、危ない、大――」
彼の部下である少尉が血相を変えたかと思うと、刈谷を思いきり突き飛ばす。瞬間、エンザリアの光線系術式が彼を襲い、魔法障壁をあっという間に貫通。少尉は上半身が吹き飛んだ。
突き飛ばされた大尉は光線系術式にいたものの魔法障壁の半壊で済むが、閃光をモロに受けて視界が半ば奪われてしまう。
「がぁ、く、そ.......」
「刈谷大尉.......!! 聞こえますか.......!! 見えますか.......!?」
彼の視界が元に戻ったのは二分近く経ってからだった。どうやら部下が大尉を抱えて近くの広めの塹壕に入ったらしく、そこには魔法軍の兵士が数名、陸軍と海兵隊の将兵も十数名いた。
三半規管までやられたか、いや、大丈夫だと感じた刈谷は口を開く。
「状況.......、状況は.......!」
「良かった.......! 状況は良くありません。たった三分で引っ掻き回されてます。付近にいた戦車と機動戦闘車が応戦中で、我々魔法軍が機動攻撃しつつ盾役も引き受けてます。ですが、戦車二、キドセン二がやられました」
彼が報告を受けている間も光線系術式は放たれていた。応戦しているからか頻度は落ちたものの、頭上にエンザリアの術式が通過していく。
「.......CTじゃないエンザリアは悔しいが俺達じゃ荷が重い。一○一のフェアル部隊の支援は?」
「間の悪いことに太子堂方面でもエンザリアが七体も出現。そっちにかかりきりです。こっちにはもう少しかかると.......!」
「クソッタレ.......!! ..............いや。打つ手はある。俺達で時間を稼ぐしかねえ。このまんまじゃ戦車とキドセンがどんだけぶっ壊されるかわかんねえし、対法撃装甲なんてエンザリアのアレにゃ気休めにもならん。かといって好き放題させてたら戦線が寸断されて名取川の向こう側が孤立しちまう。.......
「了解!」
「任せてください!」
「痛いのをぶっ食らわせてやりますよ!」
「助かる。――さぁ、行くぞお前ら。身体強化魔法を二重付与したら三、二、一でゴーだ。――三、二、一、ゴー! ゴー! ゴー!」
刈谷大尉達魔法軍将兵十数名は塹壕を飛び出して機動戦闘を開始する。
CTや神聖帝国軍将兵でも奇襲を受ければ厄介な相手だというのに、エンザリア五体は未だに一体も倒せていない。かといって、今いる魔法軍将兵では決め手に欠ける。にも関わらず刈谷大尉が飛び出したのは何も捨て身では無かった。彼は『賢者の瞳』から出されていたとある通信文を見逃しておらず、部下達もまた彼と同様その文面を目にしていた。
「いいか! 一分半だ! 一分半引き付けまくって被害を減らしつつ隙あれば法撃でいい! 総員散開!」
「了解ッ!!」
「各個法撃、タイミングは自由!」
刈谷大尉が命じると、やや散らばっていたエンザリア目掛けて短縮詠唱ではあるものの中級魔法が飛んでいく。
「くそっ、報告通り硬ぇな!!」
「エンザリアCTならこれで魔法障壁が割れるのに!!」
法撃を受けたエンザリアは刈谷大尉達の方へ向きを変え、魔法陣が現れる。
「加速だ加速!! 全身吹っ飛んじまうぞ!!」
刈谷達は魔法能力者でないと出せない速度まで増速させると、ギリギリのタイミングで光線系術式を回避する。三本が射出され誰も死ななかったのは見事といえるだろう。
「射出直後が狙い目だ! ぶっぱなせ!」
刈谷達は各個法撃。魔法障壁を貫通しやすい風属性や爆発によって破壊力の期待できる火属性爆発系の術式で反撃する。
五体それぞれに法撃したいところだが、法撃が分散しては撃破の期待が出来ないからと一体に集中させた。
集中法撃を食らったエンザリアの一体は魔法障壁が一枚を残して破壊される。これを友軍が見逃すはずがなく、必殺の一撃を与えようとしたのは後方にいた戦車だった。
「魔法軍ばっか危ない目に遭わせるわけにはいかない! 撃てぇ!」
電子制御されロックオンが完了した一二○ミリの戦車砲が火を噴いた。高速で発射された貫通力に優れる砲弾は魔法障壁を貫きエンザリアに命中。出現から四分経ってようやく一体を撃破した。
「しゃおらぁ!! 見たか、これが戦車魂じゃい!!」
無線から喜色に満ちた声が聞こえる。刈谷達もやっと口角を緩められる状況になったが、それもつかの間だった。
『警告。光線系術式反応二。射出まで四秒半。戦車一三と含め、射線上にいます』
「車長! マズイ、避けろ!」
刈谷が警告を発しながら自身も回避行動に移る。彼の部下が射線から逃れようとしつつ、法撃の準備を始めるが間に合いそうもない。
ぬか喜びなんざするもんじゃねえな。と刈谷は後悔し、されど死にたくはないと魔法障壁を全力展開した直後だった。
『風属性、貫通力向上付与。ハイチャージ。ショット!』
『これは浄化の炎。堕天使を貫き焼く炎。さあ、燃えて消えなさい。『
それは上空から地上に降ってきた。
一つは風属性の弾丸。エンザリアの硬い魔法障壁を紙でも破るかのように次々と破壊していき、堕天使を貫いてみせた。
もう一つは猛火の矢だった。八つの炎矢がエンザリアに降り注ぎ、五本が魔法障壁を全損させ三本が堕天使を浄化するかのように燃やし尽くした。
圧倒的な魔法射撃火力と法撃火力。わずか一撃で二体のエンザリア撃破。こんな芸当が出来るのは、この戦線で僅かしかいない。
(最も望んでいた、いや期待してた以上の援軍が来てくれた!)
刈谷は瞳に希望の光を灯して空を見上げる。
そこにいたのは、一○一の英傑。そのうちの二人。
米原孝弘と高崎水帆だった。
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