第6話 虚ろ目のエンザリア
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『総員防御姿勢!! 魔法障壁最大展開!!』
『戦車全車後退!! 後退!! 魔法軍の誰でもいいっ!! 魔法障壁を!!』
大輝のゴーレムを腕部とはいえ一撃で吹き飛ばした法撃だ。ただ事では無い。孝弘含め各部隊長は防御姿勢か後退のいずれかを選んだ。
身を隠す所があればいいのだが、あいにくあまりに頼りない瓦礫と窪地しかなく、塹壕は三○○メートルほど後方。背中を晒して逃げるのは死ににいくようなものだ。
孝弘と水帆、大輝と知花は二組ほど魔法障壁を最大展開して戦車の後方に。特務小隊の面々も魔法障壁を最大展開しつつ手近な障害物や少しでも地面が凹んでいる部分に行こうとしていた。
その中で素早く行動して敵の分析にかかろうとしたのは孝弘だった。
エンザリアCTにしては発射タイミングが早すぎる。ギリギリまでどうやって隠し通した? 色々と考えが浮かんでくるがそれよりも優先すべきは敵の正体の特定。法撃回避を優先してたからほとんど姿を捉えていなかった相手を見るため、視線を空港の方へと移す。
そこにいたのは戦場では見慣れた、しかし明らかに違和感のある姿だった。賢者の瞳は孝弘のそれに答えるようにこう言った。
『敵性生命体、エンザリアCTと外見が酷似するも魔力波長に相違あり。警告――』
「まずい、水帆!」
「分かってる!」
「小隊総員統制魔法障壁!」
孝弘は水帆に法撃を促しつつ、小隊の部下達には共に行動する部隊を守るために魔法障壁を小隊単位で展開するよう命令。自らは詠唱準備をしておいた術式を短縮化してエンザリアCTらしき相手を狙う。水帆が左右にいる二体をロックオンしていたから、孝弘は中央のを狙っていた。
「――なっ、飛んで!? 詠唱割込追加、追尾式付与。ショット!」
孝弘が目にしたのはエンザリアCTらしき何か
が宙に浮いている姿だった。彼はすぐさま術式に追尾系を付与し、対物ライフルの弾丸を放つ。水帆も同様の判断を取ったようで、風属性の術式には追尾系が付与されていた。
二人が放った銃撃と法撃は三体を狙うが、一度回避してみせる。だが術式は追尾式。避けた先で直撃し魔法障壁が割れる音がする。
「ちっ、障壁密度が高いか……!」
「孝弘、あいつらただのエンザリアCTじゃないわよ!」
「だろうな! SA総員、周辺部隊を守るよう配置転換! こいつらの対処はSA2、3、4でやる。2、3、4は俺の所へ!」
「了解!」
「おう」
「分かった!」
敵が態勢を整える前に自分を含むSランク四人で相対する。不明体以外の敵は他の部隊に任せる。それは得体の知れない敵性体へは現状取れうる最善の対処法といえた。
四人が集まる――後方の部隊を守るように――と、銃撃と法撃の砂煙が晴れた先にそれらは立っていた。魔法障壁の半分以上が割れていたが、敵は健在だった。
先程は相手の攻撃で正体を見いだせなかった賢者の瞳が、今度こそ敵の正体を孝弘達に伝える。
『敵性生命体、法撃パターンよりエンザリアCTの可能性を否定。ただしエンザリアCTと外見は類似。ただし光輪は黒。推定、エンザリア族』
「ここに来て、バケモノにならなかったエンザリアか……」
「けど変だよ。CTでなければ意思疎通が出来るはずなのに……。それにズーム映像からしてあの三人、目が虚ろだよ」
「確かにな……。妙だぜこいつぁ。とっとと殺っちまった方がいいぞ」
妙な間が戦場に広がるが、僅かな均衡はすぐに崩れる。四人が詠唱を始めた途端、エンザリア三体も行動をみせた。
二体は孝弘達の方へ高速で迫り、一体は上空へと舞った。
「時速一二〇、早いっ!」
「近づけさせるかっての! 近接は任せろ!」
「大輝くんが防いだら、その後やるよ!」
「頼んだぜ!」
「上空は一旦私が! すぐにフェアル部隊も来るはずだし!」
「じゃあ残り一体は俺だな!」
彼我の距離は一一〇〇。瞬時に役割分担を決めると、まずは水帆が上空に行ったエンザリア一体の迎撃に入り、もう一体は大輝が食い止めることに。三体目は孝弘が一人で迎え撃つことになった。背後には多数の法撃準備反応がある。少数残った他のCTと神聖帝国軍を相手にしながらこちらを援護してくれるらしい。
安心して背中を任せられる。孝弘は頼もしく思いながら武装を二丁拳銃へ変更。水帆の多重法撃の音を片耳で聞きながらエンザリアを迎え撃つ。
「属性変更。風属性切断系。射速向上術式付与。さぁ、来い! ダブルショット!」
孝弘が身体強化魔法もかけて駆け始めると弾丸二発を放つ。エンザリアは一発回避するも巧みに撃たれたもう一発は回避出来ず魔法障壁が二枚破壊される。
『警告。光線系魔法。射出まで二秒』
「段違いに早いな! 『
孝弘は光線系術式を火の壁で防ぎ、フェアルを起動して回り込むような機動を取る。車がドリフトで急カーブを回るような動きはそれなりのGが孝弘を襲うが、この程度は身体強化魔法をかけている環境下なら慣れたものだった。
「これならどうだっ!! クアッドショ――」
『警告。短縮術式。射出まで一秒』
「―、―、―」
「なあっ!?!?」
孝弘が背後を取った瞬間、エンザリアは後ろを振り向く。光線系術式の魔法陣が数メートル先で光り輝く景色は普通なら必中距離だ。しかし孝弘は驚愕しつつもフェアルの魔導エンジンをふかしてエンザリアの死角に急速回避行動を取る。
直後、孝弘がいた場所には光線系術式が射出されその先にあった瓦礫が吹き飛んだ。
(口の動きだけだったが、コ、ロ、セってなんだ!? 意味がさっぱり分からない……! 理由が聞きたいが、それどころじゃない!)
『警告、短縮術式。射出まで二秒』
「リキャストタイムが早すぎる! どうなってんだ!」
孝弘に銃撃の隙を与えまいとエンザリアCTの比では無い法撃間隔で光線系術式を放ってくる虚ろ目のエンザリア。
コ、ロ、セの真相を聞きたくてもこの法撃速度ではそんな悠長な暇はない。孝弘は味方に光線系術式が飛ばないよう気を遣いながら二度、三度、四度と回避を続ける。
(これじゃあキリがない! 仕方ない、一か八かだけど!)
孝弘は必殺距離に入り込む決心をし、やや距離が離れた所から身体強化魔法を二重がけして一気に駆け始める。
身体が軋む音がした。長くは続けたくないからこれで決める。と、孝弘は一気に加速する。
『警告。射出まで一秒半。警告。命中斜線上』
「んなこと分かってるって!」
光線系術式が放たれる直前、孝弘はフェアルの魔導エンジンを再起動。身体を右に捻って光線系術式を傍目から見れば華麗に避けてみせ、数発の銃弾を一度に撃って魔法障壁を完全破壊。一気に間合いを詰めた。
そうして孝弘はエンザリアの眼前へ。右手に持つ魔法拳銃はエンザリアの顎下に突きつけていた。
「殺せというなら、お望み通り堕天から救ってやるよ」
「ア――」
タァン。と発砲音が聞こえ、エンザリアの顎部から脳髄へ銃弾が入り込み貫通した。当然即死であった。
「エンザリア撃破!」
孝弘が宣言すると、周りから歓声が巻き起こった。
「こっちも一体撃破よ! 海軍がミサイルの援護をくれたおかげで倒せたわ!」
『SA4よりSA1へ。SA3と協同撃破! ただ、死に際に気になることを言ってたの……』
「SA4へ。何を言った?」
『翻訳が不完全で部分しか訳せなかったけど、『堕ちたワタシ達は逆らえない。ドウシを解放してくれ』って……』
「………………分かった。この後すぐに報告する」
突然現れた虚ろ目のエンザリア。エンザリアCTと比べ物にならない程に強力だった彼等が内の一人が残した謎の言葉。
仙台空港奪還の戦いという局地戦の中で、戦争の渦中で、新たな謎と不穏な遺言は孝弘の不安をより深まらせるのだった。
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