第5話 仙台空港奪還の戦いで現れたのは

 ・・5・・

 孝弘が前線の戦況からもしかしたらと感じていた、敵司令部機能は喪失していないのではないか。という予想は夕方になると益々それが色濃く現れていた。本来なら総崩れになっていてもおかしくない神聖帝国軍とCTの各戦線は、その気配をあまり現れていなかったからである。

 名取方面は本当に前線司令部の機能が喪失したようで統制が一時取れていない様子だったが昼過ぎには致命的な状態を脱しており、夕方前には小マト弾で失った穴を残存部隊でどうにかして埋めようと後方から移動させたり配置転換を行ったりする動きまで見られていた。

 仙台方面も司令部と思わしき施設群とその周辺にいた部隊が吹き飛ばされたにも関わらず生き残った部隊は潰走する気配はなく、日本軍の予想に反して負傷した戦友達の救出をしたり戦線の立て直しを行うなど、とても指揮機能が喪失した軍とは思えない動きを見せていた。

 軍事衛星や各種レーダーからそれらの動きを目にした参謀本部は夜に入る前の時点で孝弘達前線組と同様の予想に至り、その見解は上級指揮官達にも共有された。

 ここまで状況証拠が揃ってしまうと上級指揮官も現実を認めざるを得なくなる。そうして前線各部隊に通達されたのは以下のような内容であった。


 ◾︎第一段作戦『小マト弾投下作戦』は小マト弾そのものは正しく効果を発揮し敵軍に多大な損害を与えたものの神聖帝国軍は潰走せず数カ所において戦線の再構築が見られることから、神聖帝国軍司令部は機能を喪失していない可能性が高い。


 ◾︎この事から四目標の一つであった神聖帝国軍仙台方面司令部は偽装されたものであったと推定される。なお、現時点において本来の敵司令部の位置が何処に所在しているかは不明。調査中。


 ◾︎よって敵司令部の位置が判明するまで仙台中心市街地方面への攻撃は、小マト弾効果範囲外におり現在戦線を再構築中である敵各部隊に対しての攻勢妨害及び敵各部隊間連絡線の寸断を目的とした空爆と艦砲射撃のみとし、地中貫通型爆弾等の特殊兵装は判明まで使用しない。


 ◾︎名取方面においては当初の想定に反して神聖帝国軍に退却行動が見られず一部で戦線再構築の行動が見られるが、軍事衛星及び各種レーダーでの解析によれば神聖帝国軍部隊・CTに対して大きな打撃を与えたのは間違いなく、現戦力での名取川南岸までの機動攻撃は十分に可能であることから作戦は継続とする。


 ◾︎石巻方面においても同様に作戦は予定通り決行とする。神聖帝国軍が指揮機能を失っていないと考えるのならば戦力の一部を喪失した仙台・名取方面に石巻方面の戦力を一部移転させる可能性は高く、石巻方面へ第二戦線を構築することはより一層必要となるからである。


 このように日本軍は敵司令部機能を喪失させた上での攻勢、という前提条件を崩されながらも小マト弾で与えたダメージは神聖帝国軍やCTにとっても無視出来るものはないと判断したことから、重火力投射量を当初より増加させ前線を支援する形で作戦を継続させる事とした。


 作戦初日が明け、翌一六日早朝。

 この時点で日本軍は機甲部隊と随伴歩兵部隊、快速展開が可能な魔法軍を矛の鋒として機動攻撃を継続。戦線西部では名取駅西方まで到達し、名取川南岸まであと一歩の地点まで前線を押し上げていた。

 対して孝弘達のいる東部方面では敵の数が西部方面に比べ多かった上に抵抗も段違いに激しかったこともあってか前進速度はやや低調だったが、それでも早朝には神聖帝国軍が拠点化しており日本軍にとっても要奪還施設である仙台空港の目の前まで迫っていた。



 ・・Φ・・

 2037年3月16日

 午前6時半頃

 仙台空港南付近・交戦地帯



 作戦初日から激しい戦闘を強いられた事で思った以上に魔力を消費した孝弘達は夜が深くなってからようやく身体を休めることが出来たが、戦争というものは彼等に十分な休息を与えることを許してくれなかった。

 夜の間も神聖帝国軍とCTの抗戦が続き、これらは他部隊が攻撃の役割を担っていたが、早朝になると孝弘達特務小隊は作戦行動を再開する。

 夜が明ける前には機甲部隊、陸軍や海兵隊に魔法軍の随伴歩兵部隊と共に仙台空港の滑走路南側まであと一キロまで到達。後方に展開している榴弾砲による火力支援と特務連隊フェアル部隊や攻撃ヘリに戦闘機からの上空支援攻撃に助けられながら、孝弘達は確実に戦果を積み上げていた。

 それでも敵はキリが無いといえる程に現れ続けていた。

 孝弘達の行き先を阻むのは空港の手前に掘られた塹壕。空港方面から絶え間なくCTが現れ、神聖帝国軍将兵が法撃と銃撃で行く手を阻む。既に二、三波は蹴散らしたはずなのだが、大型CTも突っ込んでくるから中々思うように進めない。そこで孝弘は空からの支援攻撃を要請。司令部の返答は早く、すぐに駆けつけると連絡があった。


「SA1よりSA各員へ。三○秒後に友軍無人攻撃機の支援攻撃が始まる。近接組、一旦後退」


『了解!』


『分かりました!』


「SA1より追加報告。特務BT2の一個小隊が支援法撃をしてくれる。無人攻撃機、BT2の法撃が完了次第、空港南側に吶喊する」


『ひゅー!! 待ってました!!』


『了解!』


『BT2も来てくれるなら頼もしいですな!!』


 特務第二大隊の一個小隊も支援に加わってくれる事で、特務小隊だけでなく付近にいた機甲部隊や随伴歩兵部隊からも喜色の声音が上がる。ここ十数分ほど、密度の高い法撃と大型CTの突撃などのせいで前へ進めなかったからだ。

 きっかり三○秒後。無人攻撃機は上空に現れミサイルを発射し、直後には機関銃も放って神聖帝国軍の一部隊に打撃を与える。

 遅れて二○秒後、特務第二の一個小隊が上空数百メートルから小隊統制法撃を行った。大型CTはまとめて吹き飛ばされ、近くにいた中型以下のCTも巻き込まれて爆発四散する。

 二つの航空支援攻撃によって敵部隊の防衛線に穴が開く。


「SA1より各員、突撃! 後方・中衛組は近接組の支援!」


『了解ッッ!!』


 待ってましたと言わんばかりに、戦車が陸軍と海兵隊の歩兵部隊が、魔法軍部隊が、そして孝弘達特務小隊が突っ込んでいく。

 孝弘と水帆は前へ進みつつ互いの攻撃箇所を手短に打ち合わせ、大輝はゴーレムの突撃先をマップにマーク。知花は大輝と行動を共にしつつ光属性魔法の法撃準備に入る。

 戦車部隊がようやく心置きなく主砲を空港付近の敵陣地にぶちこめると意気込んでいた時だった。それはあまりにも、突然だった。


『警告。光属性光線系魔法。発射まで二秒』


「は?」


 たった二秒。それは回避行動を取るのには短すぎて、魔法障壁などの防御手段を行使するには不十分だった。


 光線は孝弘達の正面。空港滑走路の中央にある海保の航空基地がある辺りから発射された。光線は三本。

 一本は孝弘達の右方にいた戦車を貫き爆発炎。

 二本目はそのさらに右にいた魔法軍一個小隊の魔法障壁を貫通して直撃。一瞬で一個小隊の半分が死んだ。

 三本目は歩兵部隊を咄嗟とっさに庇おうとしたゴーレムの右腕にヒット。全壊こそしなかったものの、堅固で知られている彼のゴーレムの右腕が吹っ飛んだ。

 たった三発の光属性光線系魔法が、あと少しで仙台空港を奪還出来るという雰囲気を一変させてしまったのである。

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