第2話 仙台・名取・石巻奪還作戦会議

 ・・2・・

 2037年3月10日

 宮城県丸森町

 第101魔法旅団戦闘団司令部

 仮設建設物内・会議室



 東北地方南部もようやく春の匂いが微かに感じられ始めた三月一○日。仙台奪還作戦の正式発動日がいよいよ決まったことで、第一○一魔法旅団戦闘団の大隊長クラス以上(特務第三大隊は長浜が負傷離脱につき副隊長が参加)が集まり作戦確認の会議が行われていた。

 会議室の一番前には璃佳がいて、説明用に展開したAR画面を確認しながら孝弘を含む各面々に説明をし始めていた。


「遂に仙台奪還作戦の発動日が正式に決定された。別方面の調整で少し時間がかかったけど、作戦開始日は三月一五日朝。複数の段階によって作戦は行われる。ただ、その説明の前におさらい。互いの戦力の確認から。別方面の話にも絡んでくるからね」


 璃佳は息を一度吐くと、再び口を開いた。彼女が説明した自軍戦力と敵軍戦力は以下の通りである。


【日本軍仙台奪還作戦・戦力内訳】

 ◾︎第一作戦軍(仙台・名取方面主力部隊)

 ・陸軍/海兵隊/魔法軍

 九二五○○名


 ・空軍

 三個航空団(有人機)/一個航空団(無人機)


 ・海軍

 一個空母機動艦隊/空母艦載機戦闘機部隊(有人機・無人機)

 ※海軍作戦担当エリアは後述第二作戦軍と作戦エリア重複する。ただし主担当エリアは後述の第二作戦軍。


 ◾︎第二作戦軍(石巻方面強襲上陸部隊)

 ・陸軍/海兵隊/魔法軍

 二○五○○名


 ・空軍(上陸部隊支援航空部隊)

 一個航空団(有人機)/一個航空団(無人機)


 ・海軍

 一個空母機動艦隊/一個輸送護衛・支援艦隊/空母艦載機部隊(有人機・無人機)


 ※海軍は強襲上陸部隊の支援を主任務とし、強襲揚陸艦を含む一個輸送護衛・支援艦隊も第二作戦軍の作戦エリアを主任務先とする。


 ◾︎第一段作戦航空部隊

 ・空軍

 爆撃機:四機/護衛戦闘機:八機

 ※フェアル部隊一個小隊が近隣地域にて即応待機。



【神聖帝国軍 仙台・名取・石巻方面展開兵力(推定)】

 ◾︎名取方面

 CT:約一一○○○○

 神聖帝国軍本国軍:約一五○○○


 ◾︎仙台方面

 CT:約一二○○○○

 神聖帝国軍本国軍:約二五○○○


 ◾︎石巻方面

 CT:約三○○○○

 神聖帝国軍本国軍:約一○○○○


 ◾︎推定総戦力

 約三一○○○○


 ※強化型CTの割合はこれまでの作戦からの推定で三割から三割五分程度。

 ※強行偵察においてエンザリアタイプCTの攻撃は少数確認。しかし全容不明。これまでの作戦における出現率から、推定約一五○○程度。

 ※現時点で飛行型CT及びドラゴン等の飛行生物は未確認。ただし捕虜からの尋問によりこれまでの討伐数と保有頭数の辻褄が合わない為、最低でも推定数十は存在するものと思われる。


※捕虜からの尋問により召喚士の存在も確認。仙台方面に推定一個大隊程度はいると思われ、召喚生命体による戦力増強は確実。


「――以上が彼我の戦力だよ。敵軍は我々の三倍もの戦力を有していて、厄介な事に強化型CTの割合もそれなりと思われる。旧首都・東京奪還作戦よりCTは強力になっているものと思うように。エンザリアCTも要警戒対象。名取・石巻・仙台方面にそれなりの数を隠し持っているのは確実だろうね。また、神聖帝国軍本国軍の数もかなり多い。一般火器はともかく、貴官達が今まで体験してきた通り魔法系技術は我々と遜色ない。近距離戦闘では十分に気をつけること」


(CTや本国軍の数がこれまでの強行偵察で判明しててマジックジャミング装置の場所も割れてるのは戦果の一つだけど、やっぱりエンザリアの数やドラゴンの数までは確定出来なかったか……。東京の前例や郡山の前例もあるし、特務小隊には対空警戒も伝えておこう。こうなると、俺自身も武装を考えなきゃな……。ドラゴンが現れる事を想定すると、試製三六式は用意した方が良さそうだな……。持ち運びが出来ないから、同行部隊に預けておこう。対物魔法ライフルと二丁拳銃は携行するとして……、決戦だけあってフル装備だな。)


 璃佳のここまでの説明を聞いて、孝弘は資料を見ながら早速頭の中で敵戦力の分析と自分達の対抗手段として何を持っていき何をすべきかを考えていた。

 孝弘が説明を聞きつつ自分の役割に思考を巡らせる間も、璃佳の話は続く。


「じゃあ、次に作戦の進行について。作戦は四つに分けて行われる。一つずつ説明するよ」


 日本軍が仙台を奪還する為に行われる作戦は以下の通り。


【仙台奪還作戦・作戦進行】

 ①第一段作戦『小型マト弾投下作戦』

 三月一五日朝六時。爆撃機四機により仙台・名取方面に小型マト弾を投下。投下目標地点は仙台マジックジャミング装置ポイント、神聖帝国軍仙台方面司令部推定ポイント、名取方面マジックジャミング装置ポイント、名取方面敵司令部ポイント。

 本作戦はマジックジャミング装置の破壊が本命ではなく、敵司令部機能破壊による敵指揮機能喪失を目的とする。

 なお、小型マト弾を使用となるのは北海道方面奪還作戦の際に大量投入する為の弾数確保のためであるが、小型マト弾と言えど本作戦範囲であれば十分効果を認められると判断である。

 補足であるが、本作戦決行直前に空母機動艦隊及び東北地方日本海側各所よりブラフとして、同地点へのミサイル攻撃(マジックジャミング発動中につき、座標特定での発射を行う。命中精度に期待をしないよう注意)を実施する。



「仙台奪還は今後の戦争の趨勢を握ってるから上もかなり本気でね。北海道奪還作戦で使用予定の一部を捻出してくれたよ。ただ、発数も限られるマト弾だからさ、小型弾になったのはそれが理由ってとこ」


 小型とはいえマト弾の使用に会議室内にいた面々は喜色の笑みを浮かべる。この爆弾の威力は旅団戦闘団のいくらかが東京で目にしているからだ。


 ②第二弾作戦『侵攻準備空爆・艦載砲攻撃・砲撃作戦』


 マト弾による爆撃直後から戦域全体に空爆、陸上展開の重砲による砲撃及びミサイル攻撃、空母機動艦隊各艦による艦砲射撃及びミサイル攻撃を実施。ただし次段以降に使用する弾薬量を実施時間は三時間程度とする。

 第二作戦軍が強襲上陸する石巻方面への空爆・艦砲射撃もこの時に開始する。


「第二段は侵攻準備の攻撃だね。東京奪還作戦と同程度の火力投射を実施予定とのこと。今回の作戦にあたって日本海側の部隊もミサイル攻撃を担当するのはこれも理由の一つ。個人的にはこの攻撃でCTの数がある程度減らせればいいかなって思ってる。ほら、私達が少し楽になるしさ?」


 会議室内から「違いない」「戦場の女神よ、我らを助けたまえ。ってとこだな」「艦砲射撃にはレールガンもあるのか。こいつぁありがたいな!」「アレの威力すげえんだよなあ」と賑やかしい感想が聞こえてくる。璃佳が「んんっ」と喉を鳴らすと静かになったが。説明はまだまだ続く。


 ③第三段作戦『名取・仙台方面奪還作戦』

 第二段作戦の終了直前から開始。

 第一作戦軍を投入。先鋒は機甲師団一個師団と展開速度に優れる機械化歩兵師団二個師団、海兵隊一個師団、各機甲部隊に追従可能な第一○一魔法旅団戦闘団や機動攻撃が可能な魔法軍一個師団を中心とする前衛部隊。これらの部隊は戦闘機・攻撃ヘリ・フェアル部隊による航空支援と榴弾砲等の砲撃支援のもと戦域東西より名取川南岸まで打通し敵軍を包囲する。

 前衛より後方に位置する各師団(陸軍二個師団、海兵隊一個旅団、魔法軍一個師団を中心とする部隊)は戦線の押し上げに伴って前進し、前衛部隊が包囲した敵部隊を殲滅。また、前衛部隊が消耗した際には交代して攻撃を続行する役目も持つ。

 名取方面奪還後、仙台方面に向けてさらに前進。優勢火力及び魔法火力、機動攻撃にて敵部隊を駆逐し、仙台方面の奪還を作戦の最終目標とする。

 なお本作戦では召喚生命体など敵追加戦力、エンザリアCTなど重魔法火力戦力の追加投入に備え第一作戦軍参加兵力の内、二個師団を後方予備とし、作戦軍戦力内の後方予備でも手に余る場合に備えて福島方面に温存している一個師団をさらなる予備戦力として投入も可能である。ただし、この一個師団の投入は最終手段であって基本的に作戦に投入されるものではない。


「私達はこの第三段作戦に参戦することになる。役目は槍の矛先。詳しくは作戦資料の通りだけど、簡潔に言っちゃうと機甲師団と共に進撃し、バケモノと侵略者共を地上と空からぶっ飛ばす。基本的には機動攻撃にて率先して敵部隊の撃滅をしてくけど、時には友軍の支援を行い、時には危機に陥った友軍を救う。いつも通りっちゃいつも通りの仕事だね」


 璃佳はあっさり言ってのけるが、槍の矛先とはすなわち最も危険な役回りである。とはいえその役目は開戦以来いつもの事で、危険でない役回りなど無かったからこの場にいる誰もが余裕のある表情をしており、むしろ冗談を言うくらいであった。

 ここで璃佳は孝弘を含む隊長格に作戦の詳細を伝えていくが、まだ話は続く。もう一つ作戦があるからだ。


 ④第四段作戦『石巻方面強襲上陸作戦』

 第三段作戦開始翌日に決行。

 本作戦は仙台方面に我が軍が進出することで仙台の後方地帯である石巻より敵軍が援軍を送る可能性が高いことからこれを妨害。加えて石巻及び東松島方面を奪還することで仙台方面の神聖帝国軍の後背地を脅かすことが目的である。

 参加兵力は陸軍一個師団、海兵隊一個旅団、魔法軍一個師団に加え、西特大も本作戦に参加。これらは新たに追加された戦力である。

 強襲上陸作戦部隊は一個艦隊(輸送艦隊護衛・支援艦隊)援護のもと、野蒜東部・東松島方面に上陸。速やかに空軍松島基地を奪還した後に石巻方面市街へ進出し当該地域を奪還。北方より敵軍の増援が現れた場合はこれも撃滅する。


「石巻方面への強襲上陸は私達第一作戦軍の支援の意味合いが強いけど、松島基地の奪還も任務に含まれてる。ココを奪還すると今後の作戦が楽になるし、何より仙台空港と並んで早期に復旧させておきたい基地だからね。ちなみに石巻方面の部隊は兵力が二○○○○とそう多くは無いから、作戦資料にある通り進むのは桃生方面と前谷地方面と松島町方面を結ぶラインまで。私達第一作戦軍が塩釜手前まで到達したら合流する感じだね」


 璃佳による説明はこの後もう少し続いたが、第四段作戦の詳細と作戦全体の補足事項について話が終わると、おおよその話が終わったからか作戦会議の結びに入る。


「以上が仙台方面奪還作戦の内容になる。以前から貴官達には伝えているからよーく覚えていると思うけど、仙台方面奪還作戦の成功するかしないかで我が国の命運は決まる。成功すれば後は盛岡を残すのみで、遂に北海道方面の奪還に光が見えてくる。だけど、失敗したら我々は東北地方を敵の手に渡したままとなり、北海道奪還作戦など夢のまた夢。穀倉地帯を押えられたままのこの国は、私達は緩やかな死を待つことになる。それは絶対に、絶対に許されない」


 璃佳は真剣な面持ちで会議室内にいる全員を見渡す。

 彼女が言うことは真実だった。人は食べなければ生きていけない。だが、残念ながら今の日本には開戦以来多くの死者を出してもなお食糧自給率を一○○パーセントにするだけの農業生産力は無く、農業に必要不可欠な肥料の原料類の一部を輸入に頼っていたから、今の戦況では先細りしか見えない。最低でも今年中か来年の春が明けるまでには北海道を奪還せねば破滅の道へ歩みを進めることになるのだ。それは何としてでも、避けねばならない。

 七条家の情報網と軍人として得られる情報で事の深刻さを知っているからこそ、璃佳はさらに語気を強めてこう言った。


「今回も我々は勝つ。いや、勝たなければならない。そして、連中に奪われた地を、バケモノがのさばる地を取り返さなければならない。だから貴官らもいつも通りに全力を尽くせ。そして、北海道を奪還し戦勝を迎えよう。生きて、終戦を迎えよう。――作戦会議は以上。決行日までまだ少しあるから、十分な休息も取っておくようにね。しばらく休む暇は無いよ?」


『はっ!!!!』

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