第3話 『小型マト弾投下作戦』

 ・・3・・

 三月一五日。仙台方面奪還作戦は予定通り決行された。

 午前五時半。百里基地より爆撃機四機と護衛の戦闘機八機が離陸した。彼等の任務は仙台・名取方面への爆撃。仙台中心市街地に存在すると思われる神聖帝国軍司令部と名取方面にあると思われる神聖帝国軍前線司令部の破壊と、両地周辺に設置されているマジックジャミング装置の破壊。そして、爆撃予定地点付近に展開するCTや神聖帝国軍将兵の撃滅である。

 彼等こそが第一段作戦『小型マト弾投下作戦』の参加者達。

 一五日はよく晴れた日だった。空に舞い上がった戦士達は一路、仙台・名取方面へ向かっていた。



 ・・Φ・・

『百里HQよりBSTF《ボマー・スペシャル・タスクフォース》、ボマー1へ。Sマト弾投下地点まであと一〇分。編隊はそのまま飛行ルートを維持せよ。第一段作戦初撃、投下地点に対する多数のミサイル攻撃まであと三分』


『ボマー1より百里HQ。了解。針路をこのまま維持する。』


『百里HQよりボマー1へ。ミサイル攻撃によって異常事態が起きない限り任務は続行とする。各員、心してかかれ』


『ボマー1より百里HQへ。了解。最終チェックを実施する』


『百里HQよりボマー1へ。了解。通信終わり』


 BSTFの隊長でありボマー1と呼称されている爆撃に搭乗している阿漕あこぎ中佐は百里HQとの通信を終えると、小さく息をつく。彼自身ボマー1の一人として、爆撃任務における隊長は二度目――一度目は旧首都東京奪還作戦の時――だが、今回は小型とはいえマト弾を投下する今回の作戦に背筋を固くして緊張していた。

 何せ今回の作戦地点にはエンザリアCTの出現は確実視されていて、ドラゴンが出る可能性があるという。爆撃機がマト弾を投下するのは高度八〇〇〇メートルからでエンザリアCTの光線系魔法は脅威ではないが、飛行型エンザリアCTが出てきたら機体高度まで上がれなくても空中からの攻撃は脅威であるし、ドラゴンに至っては郡山のような上位種が出現したら時速一〇〇〇キロがせいぜいな爆撃機では逃げられない。戦闘機に命運を託すしか無いのだ。緊張しない訳がない。

 だが、阿漕は隊長である。自身の感情を極力まで抑えて、爆撃機隊に小型マト弾の最終チェックを行うよう指示を出していった。


「阿漕中佐、陸と海からのミサイル攻撃が始まったようです。.......こいつぁすげえや。ブラフって事前に知っててもビックリするくらいかなりの量って感じです」


「これが本命の奇襲攻撃だと思って貰わなくちゃ困るからな。俺達の存在はギリギリまで悟られたらいかんのだ」


「まったくもってその通りで。どうかドラゴンが出ませんように.......」


「俺もそう思うよ、さかき中尉」


 二人の心配はともかくとして、陸上では山形や新潟方面に福島方面から。会場では空母機動艦隊の駆逐艦や巡洋艦から次々とミサイルが放たれていった。

 ミサイルはマジックジャミング装置圏内に入るとレーダーが届かなくなるから誘導が出来なくなる。大雑把にしか座標が指定出来ないからGPS等の誘導方式のそれに比べれば着弾地点の誤差は酷いものだが、それでも攻撃を受けた神聖帝国軍は蜂の巣をつついたような大騒ぎになっていた。


『百里HQよりボマー1。偽装攻撃は順調。現在第二波が発射。BSTF、投下地点まであと四分。現在の高度・針路を維持し、投下体勢に入れ』


『ボマー1より百里HQ。了解。小型特殊弾、安全装置を解除する』


『百里HQよりボマー1へ。安全装置解除を確認した。投下直前よりマジックジャミング装置破壊までは無線及びレーダーロストとなる。貴官等の健闘を祈る』


『ボマー1より百里HQへ。ギリギリまで誘導を頼んだ』


『百里HQよりボマー1へ。もちろんだ。通信終わり』


 阿漕は百里との通信を終えたあと、レーダーコンソールを確認する。ここまで問題は特に無し。後は小型マト弾を投下して、最大速力で戦域を離脱するだけ。

 たった三分。されどその三分が長く長く感じられた。

 投下まであと一分。いよいよ地上が陸地と海の境界線になる頃だ。幸いにして今のところドラゴンは出てきていない。地上ではエンザリアCTげ迎撃を始めているらしいが、目標はミサイルの方で自分達ではない。飛行型エンザリアCTも確認されていなかった。


(よしっ。これならいける!)


『ボマー1よりBSTF総員へ。投下四五秒前。投下座標入力完了。護衛戦闘機隊、頼んだぞ』


『了解。背中も正面も任せてください』


『ボマー2、投下座標入力完了。いつでもいけます』


『ボマー3、こちらも投下座標入力完了です』


『ボマー4、投下座標入力完了です』


『よし。――投下まであと二五秒だ』


 今回の任務でもサポートしてくれるAR画面の情報には、投下時間がカウントダウンされている。

 一五秒。一〇秒。五秒。

 四、三、二、一。


『小型特殊爆弾、投下!!!!』


 小型マト弾は爆撃機四機から空へ放たれた。

 高度八〇〇〇から投下されたマト弾には座標が入力されており、誘導方式が使えなくとも直上を飛んでいたのだから正確さはある程度保証されている。あとは途中、迎撃されないことを願うだけだ。

 爆撃機は腹に抱えたものを下ろしたとなれば、あとは離脱するのみ。彼等が出せる最大速度で友軍がいる方角、南西へとアフターバーナーを噴かせてその場からはなれていく。

 小型マト弾四発は高度三〇〇〇まで誰にも捕捉されることなく落ちていっていた。ブラフであるミサイル攻撃に誰もが気を取られていたのである。

 高度二〇〇〇の頃になると、神聖帝国軍の兵士が空から何かが降ってくることに気づく。

 だが、その存在を知るには余りにも遅すぎた。

 高度二〇〇〇から地上付近などあっという間である。

 高度一〇〇。それが小型マト弾に指定されていた起爆高度。それぞれ起爆地点から十数メートルの誤差はあれど、小型とはいえこの爆弾の威力を踏まえれば誤差であった。

 起爆したマト弾四発は、即死直径内にいた命を、バケモノとヒトの区別なく奪っていった。死亡直径内では即死した者もいれば、運良く瀕死で済んだものもいるが、すぐに死へと誘われるであろう。この範囲内では魔法障壁など意味は成さなかった。

 殺傷直径内にいた者達は死んだのと、じきに死ぬのと、負傷で済んだのがいて、極めて運が良かったり機転の効いた者は軽傷で済んだのもいたが、その後に彼等が目にする光景は地獄そのものだろう。

 消えたのはもちろん命だけでは無い。仙台と名取に設置されていたマジックジャミング装置は隠蔽の努力も虚しく蒸発。直後に日本軍のレーダー類全般が復活する。


『百里HQよりボマー1。小型マト弾、全弾爆発! マジックジャミング装置は破壊されレーダー及び無線の全てが回復した!』


『よし、よしっ!! BSTF、これより帰投する!』


 BSTF部隊は任務を果たした。

 小型マト弾四発は、その威力を発揮し多くの神聖帝国軍将兵とCTの命を奪っていった。

 作戦は確かに成功した。

 しかし、日本軍は一つ読み違えをしていた。

 仙台の神聖帝国軍司令部はそこにあったが、ホンモノは存在していないことを。

 日本軍の誰もが、当然ながら孝弘達も知るわけがなく。

 敵HQ機能を喪失させたにも関わらず神聖帝国軍が、多少の混乱はあったにしても統率力を完全に失っていないことに日本軍が勘づくのは、少し後のことであった。

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