第14章 仙台方面奪還作戦編Ⅱ

第1話 2037年3月初旬現在における世界の現状に関するレポート(軍統合参謀本部情報参謀部作成)

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『《乙級機密資料・閲覧可能階級尉官以上》二○三七年三月初旬現在における国外動向及び戦況報告』


 ※詳しくは各項詳細を参照のこと。


 1,現在、神聖帝国との世界的大戦において我が国は一〇月の反転攻勢以降、旧首都東京奪還を果たして以降、戦況を優位に進められつつある。しかし、現時点で当初より作戦は半月以上の遅延となっている。また、ダブルヘッドドラゴンやキラービークイーン及びキラービーなど特殊生命体や召喚生命体による奇襲、強化型CTの登場などにより、前線では想定以上の砲弾薬や魔力回復訳の消費が生じており、死傷者数も当初想定の約一○パーセント超過の状態にある。これにより現戦力を維持しての継戦可能とされる期間は二○三八年秋から二○三八年春から夏までと下方修正。我々に残された期間は約一年半と、決して余裕があるといえない状況にある。現在我が軍は準総動員体制にあるが、今後の作戦次第では北海道奪還作戦の為の総動員体制移行も十分にありうる。

 国内における神聖帝国軍勢力圏は宮城県南部以北・岩手県・青森県の一部と北海道全域(千島列島南部北方四島部を含む)を残すのみとなったが、北海道における神聖帝国軍兵力数は不明である。

 海外の動向及び戦況は決して無視する事は出来ず、我が国の食糧事情ひいては安全保障に大きく関わる為、ここに国外の戦況等を記録する。



 2、アジア方面

 敵の転移門を中心とする拠点はクウェート、インド・ムンバイ、ベトナム・ホーチミン、中国・マカオ、ロシア・ハバロフスク。



《西アジア》

 クウェート起点の神聖帝国軍は暑さに慣れつつあるとはいえ、高温であるからかCT含め侵攻は他地域に比べ比較的低調。ただし未だにイラクは全土を占領されており、イランの西半分に加えて中南部も占領された。犬猿の仲だったイスラエル・エジプト・サウジアラビアに加えトルコが中東方面多国籍軍が対抗中。

 正面に立たされているイスラエル・サウジアラビア・トルコ軍が現在も奮戦しているが、後述するアフリカ戦線の危機的状況につき戦線はやや不利な状態にある。これに対して中東方面多国籍軍は既に総動員体制であるイスラエルに加え、トルコ軍も総動員体制へ移行した。サウジアラビアも間もなく総動員体制に移行すると思われる。数には数で対抗するのであろう。

 イスラエル及びイランによる核兵器使用は確認されていない。



《南アジア》

 インド・ムンバイを起点とする神聖帝国軍は西アジアと同様に暑さに慣れられず引き続き侵攻が低調。インド軍・パキスタン軍及びネパール軍が交戦中。アジア方面の転移門拠点と比較して同戦線はCTの数がやや少ない為、戦況はインド・パキスタン・ネパール連合軍が反転攻勢に出始めた。神聖帝国軍最大進出線から約二割を奪還。早期の大増員が功を奏している。

 ただし大増員の影響でこれ以上の大規模増員は難しくなりつつあり、予断を許さない状態に変わりは無い。



《東南アジア》

 ベトナム・ホーチミンを起点とする神聖帝国軍は高湿度の暑さに慣れつつあるものの、ベトナム軍、タイ軍、マレーシア軍、インドネシア軍などで構成されるアセアン連合軍がさらなる増員体制を構築して反転攻勢に出始めている。乾季に入ったことで神聖帝国軍は身動きが取りやすくなったが、アセアン連合軍はこれに対して反撃。ベトナムの南半分のうち一割を奪還。カンボジアのほぼ全土とラオスの南半分を制圧された状況に変化は無い。タイは一時バンコクから東約一○○キロ地点まで迫られたもののこれを押し返し、現在はバンコクまで約一八○キロまで押し返し善戦している。

 ただし東南アジア方面も大規模増員したものの予備兵力が乏しくなりつつあり、最悪の状況は脱しつつあるものの油断は出来ない状態は続いている。



《中国方面》

 マカオを起点とするCT及び神聖帝国軍は中国軍の数で敵を抑える作戦を前に侵攻領域は西南地区南部・中南地区南部に留められている。華東南部は中国軍による大規模攻勢で奪還を成功した。しかしアジア州内で最も神聖帝国及びCTの数が多い状況は変わらず、神聖帝国軍制圧地域では一進一退の攻防が繰り広げられている。現時点では大規模穀倉地帯は中国が確保しているものの、大規模増員による軍全体の質的低下が見え始めており、強化型CTの登場も相まって決して有利とまではいえない状況にある。

 とはいえ、他地域に比べれば日本と並んで戦況を有利にしつつあるのは間違いないといえるだろう。



《極東ロシア方面》

 ハバロフスクを起点とするCT及び神聖帝国軍については、中露国境付近に転移門が開いたこともありロシア軍極東軍管区と中国軍北部戦区軍が引き続き交戦中。

 当地ではまだ厳寒期の最中にあるからか、CTの動きは低調で戦線は膠着状態に移った。二月に入りロシア軍極東軍管区と中国軍北部戦区軍が反攻作戦を開始。三月に入るまでに一割程度の領域を奪還した。


 3,『欧州方面』

 敵の転移門を中心とする拠点は、スウェーデン・ストックホルム、ポルトガル・リスボン、ウクライナ・キエフ。



《北欧方面》

 ストックホルムを起点とするCT及び神聖帝国軍は一一月時点ではスウェーデンの南半分、ノルウェーの南半分、フィンランドの南半分、デンマーク全土とエストニア全土を侵略し、現在の最前線はドイツ・ハンブルクと、ラトビア北部、サンクトペテルブルク北西一五〇キロとなっていたが、マジックジャミング装置の特定技術の進展により反転攻勢が容易になり、現在は攻勢の途上にある。主に対応にあたっているのはドイツ軍、ポーランド軍、ロシア軍、イギリス大陸派遣軍などであるのは変わらず。

 三月初頭で時点では、ドイツから神聖帝国軍を追い出すことに成功した。バルト三国地域も奪還作戦が続いている。北欧三国地域も最悪の状況は脱したようである。

 ただしこちらでも強化型CTの存在が軍を脅かしており、ドイツ軍やイギリス軍は長期戦には耐えられないと感じており、両軍ともにあと二年で終わらせねば現戦力を維持出来ないとしている。現在、欧州各国軍全体での反攻作戦を立案中だが、後述するアフリカ戦線の状況もあり、実現できるかどうかは不確実性が強い状態にある。



《西欧方面》

 リスボンを起点とするCT及び神聖帝国軍はポルトガル全土を侵略後、スペインのバルセロナ地方を除く全土に侵攻。スペインは年末を待たず失陥した。

 しかし年明けより反転攻勢作戦が始まり、ピレネー山脈を越えて南進中。ただし神聖帝国軍及びCTの抵抗が激しく、最大進出線でも山脈から南に約八○キロしか進めておらず、最悪の状況は脱したものの、このまま攻勢が続けられるかは不明。フランス軍とイタリア軍ともに大規模増員をかけたが、後述するアフリカ戦線の戦況もあり、アフリカからの戦力流入次第では再攻勢をかけられる可能性も捨てきれない。

 核兵器の使用は確認されていない。



《東欧方面》

 ウクライナ・キエフを起点とするCT及び神聖帝国軍はウクライナ及びモルドバ全土、ルーマニア北東部、ハンガリー東部、スロバキア東部、ベラルーシ南部に侵攻。現在は主にロシア軍とポーランド軍、ルーマニア軍等が対峙している状態にある。

 一時はルーマニアやベラルーシ全土が失陥する恐れがあったが、年明けより始まった大規模反転攻勢作戦により、神聖帝国軍最大進出時より三割の地域を奪還成功。ルーマニアは全土奪還を果たし、現在は東欧各国軍がベラルーシ及びウクライナ奪還作戦を実施中。ウクライナ西部は六割まで奪還を果たせており、比較的戦況は明るい状況にある。

 しかし後述するアフリカ戦線の状況次第で反転攻勢作戦が縮小される可能性もあり、やはり予断を許さない状態にある。

 こちらも核兵器の使用はなされていないもよう。



 4,『南北アメリカ方面』

 敵の転移門を中心とする拠点は、南米がベネズエラ、ブラジルサン・パウロ州、チリ・サンディアゴ。北米がアメリカ合衆国ボストン、同シアトル、メキシコ・ロスチモス。


《南アメリカ方面》

 ベネズエラ、ブラジル・サンパウロ方面、チリ・サンティアゴを起点とするCT及び神聖帝国軍は南米全体の約七割の領域に侵攻。チリは年明けに全域を失陥した。アルゼンチン軍、ブラジル軍が南米で抵抗可能な数少ない軍となっている。南アメリカの北半分と中部の一部をCT及び神聖帝国に占領されている戦況は変わらず、アルゼンチン軍及びブラジル軍は戦況が好転しなければ来年春まで組織的抵抗を維持出来るかどうかという悲観的な観測も出始めている。既に両軍は総動員体制へ移行。兵力は増強出来たものの、資源地帯を神聖帝国軍に奪取された影響は大きく、一か八かの大規模攻勢作戦に出ねば戦況を好転させられない危機的状況となっている。



《北アメリカ方面》

 アメリカ合衆国ボストン、同シアトル、メキシコ・ロスチモス各地点を起点とするCT及び神聖帝国軍であるが、メキシコについては同国北部及び中部まで侵攻を受けており、南アメリカ方面から迫る敵軍勢力もあり危機的状況が続いている。ただし北米方面からのCTの流入量が減少し、一部では中部地域の奪還作戦が行われておりこれが成功したとの報告があった。

 なおパナマ運河周辺部はアメリカとメキシコによる死守が続いており、なんとか海運物流は維持が出来ている。危機的状況が継続中とはいえ、南米の戦況を除けば最も危険な水準から脱しつつある模様。


 アメリカ合衆国に関しては最悪の状態は脱したようである。総動員体制移行による兵力大幅増強が要因。東海岸方面では一時、神聖帝国側がワシントンまで約一〇〇キロ、ニューヨーク方面はニューヨークまで約六〇キロまで迫っていたが、戦術核ではなく非核大威力爆弾(日本のマト弾に類似した兵器)を使用し、神聖帝国軍及びCTを撃滅させてみせた。これにより、現在の神聖帝国軍及びCTはワシントンまで約二○○キロ、ニューヨークまで約一○○キロまで押し返している。現在、やや賭けの要素があるもののボストン転移門破壊作戦及びボストン奪還作戦が計画されているものの、まだ作戦実行までにいくつもの地域を奪還する必要がある。

 西海岸については不利な状況が続いているが、ようやくCTの流入量に頭打ちが見えてきており、かつてのような増加量では無くなっている。

 とはいえアメリカ合衆国に展開しているCT及び神聖帝国軍は他地域と比してかなり多く最大規模であることに変わりはなく、数はかなり減らしたものの我が国のCT及び神聖帝国軍展開数の約六倍の相手をしているという厳しい戦況は続いている。

 西海岸での戦況からなのか、核兵器の再びの使用は無い様子。この大戦に勝ったとしても汚染された土地しか残らなかったら復興がおぼつかなくなるという理性的な思考は残っているようである。破滅的な戦況にならなければ使用しないのではという観測もある。

 なお米国からの情報通信は年明けに入ってようやく安定化した。



 5,『オセアニア方面』

 敵の転移門を中心とする拠点は、オーストラリア・パース。各州の中で最も戦況が良い状態であるのは変わらず。

 神聖帝国軍及びCTに南西部を奪われたままではあるものの、当初の予定通り神聖帝国軍やCTを南中部に誘引した上で反転攻勢作戦を開始。ジワジワとではあるが、押し返しているようである。オーストラリアに派遣しているニュージーランド軍はその数をさらに増やし、一一月比で約二倍となっている。



 6,『アフリカ方面』

 敵の転移門を中心とする拠点は、ケニア、ガーナ、南アフリカ共和国・ポートエリザベス。

 各州の中で最も悪い戦況にある。

 二月末、遂にアフリカ全土からの通信が途絶。極わずかな抵抗はあるとみられるが、全土失陥が濃厚である。

 この状況が欧州及び西アジア方面に悪影響を及ぼすのは間違いなく、今後の激戦地はスエズ運河近辺になるのは必須である。

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