第11話 金髪の男が語るは

 ・・11・・

 2037年3月7日

 午前中

 宮城県大崎市古川地区某所


 日本軍が大河原・柴田・亘理方面の奪還を終え、遂に時は来たれりと意気揚々に仙台奪還作戦の準備が進むなか。日本軍最前線地点から約七五キロ離れた大崎市古川地区のある屋敷では、貴族らしい所作で紅茶を嗜む金髪の男性がテーブルの上に並べられている報告書の数々を眺めていた。むろん、ただ見ている訳では無い。茶髪の青年軍人から届けられた報告を含む めいくつもの情報を整理した上で、自分なりの分析をしていた。


「愚かな勇者は保険が発動し爆死。第九席は定時連絡が無く、帰還予定日を過ぎても前線に戻ってきていない。大方暗殺に失敗したのだろう。戦線はオオガワラ、シバタ、ワタリを取られ、次はナトリ。となればセンダイなぞ奴等の砲撃圏内となる、か。ふむ.......」


 金髪の男は戦況報告書を手に取ると、ぽそりぽそりと何やらを呟きながら、今度は宮城県全体が見渡せるタイプの地図に視線を移す。そこには岩沼や名取まで日本軍に奪われた場合の攻撃射程を表す半円が羽根ペンのインクで書かれていた。


「空を飛ぶ魔法使い。空を飛ぶ機械、ヒコウキかセントウキだったか。長大射程砲だけでも厄介だというのに、空からの攻撃はいかんともし難いな.......。トウキョウで確認されたとてつもない爆弾の威力も気にかかる。あんなもの、我が帝国では戦略級魔法に匹敵するぞ。そう何度も使えるモノでは無いと思いたいが.......。海も気になる。高速飛翔する機械槍に空全体を覆うほどの銃弾。雷属性の砲撃に至ってはにわかに信じ難いが、アレで並のドラゴンは消し飛んだと聞く。あぁ、コオリヤマで二つ頭のドラゴンを失ったのが手痛いな.......」


 金髪の男性は極めて冷静に自身が置かれた状況を分析する。自軍のどこが足りておらず、どこが敵に対して不利なのか明確に認識しているのは、軍人はともかく貴族としては貴重な存在だった。彼はこれが出来るから、部下達に持つ血統以外でも敬意を評され、茶髪の青年も難しい専門用語を少々噛み砕いて説明する程度で話せるし、何より躊躇せずに意見することが出来ていた。


「兵は足りる。異形の数も十分だ。だが、未だにこの国の兵士達の質的劣化が中々見えてこんのが末恐ろしい。いや、違うな。本来ならそろそろ兵士の質が落ちるくらいまで叩けた所を超高位魔法使いにひっくり返されているのが現実か.......。あちらからしたら英雄が四人も増えているのだ。我が帝国に置き換えれば強力な切り札が四枚も増えれば敵にとっては悪夢だろう。悪い夢を見ているような気分のこちら側としてはたまったもんじゃないがな」


 金髪の男は部下達の前では毅然と振舞っているが、人払いを済ませている今は弱気になっていた。ここが帝国なら約七五キロという距離はまだ余裕がある。しかしこの地は帝国ではない。日本国だ。マジックジャミング装置が破壊されれば最後。探知だけでは説明がつかない水準で、針に糸を通すような攻撃で叩き潰されるのだ。陸から、空から、そして自分達の認識圏外たる沖合から。


「参謀長の彼も私と話す時だけに漏らしていたが、本国の戦力分析が見誤っていたのだろうな。初期に上手くいきすぎたとも言える。何がニホンは平和ボケの国で、侵略を良しとしない国家だ。馬鹿言え。エンシェントドラゴンの尾を踏んだの間違いだろうよ。.......ったく。陛下もお人が悪い。ここ数年仕える側近に唆されおって。.......いや、愚痴はやめよう。聞き耳は立てられておらんだろうが、聞かれでもしたらいくら私とてどうなるやら」


 金髪の男は独り言の後半はかなり声のトーンを落としていたから誰にも聞かれるわけがないのだが、頭を小さく左右に振って思考を切り替える。


「ホッカイドウの門はまだ健在だ。この国にしては広い大地に兵士が、異形がごまんと配置できる時間は確保出来た。物資はいつでも運べるし、その体制も構築出来たろう。それにあの大門なら飛行戦力は補充可能。まったく、この世界へ侵略する前にドラゴンの住処を手にしておいてよかった。魔法研究所が改造ドラゴンの研究を済ませておいて良かったともいえる。チョウシの門は破壊せざるを得なかったから陸上戦力の補充は叶わなくなったが、飛行戦力なら関係あるまい。ホッカイドウにいるヤツに支援を伝えるか。向こうも必要な状況だと認識しているだろうしな」


 先ほどとはうってかわって、金髪の男の瞳に自信が満ちていく。戦いようはまだいくらでもあるのだと言わんかのように。


「やはり持つべきモノは親友ともと血統と権力だな。そうでもせんと対抗し難い国に来てしまったのはハズレクジと言えるが」


 金髪の男はぬるくなってきた紅茶を口につけて

 から、さらにこう言った。


「だが、エンシェントドラゴンが如くの国よ。貴様らはいつまで国力と軍事力を維持出来るかな? 我々には無尽蔵の異形がいる。未だ多くの兵がいる。そして、ドラゴンに堕ちた天使族とてまだまだ尽きておらん。切れるカードは、いくつもあるぞ。それに、我が帝国は全世界を侵略している。いずこかの国が力尽きれば、いずれ貴様らの首が真綿で締められるようになるだろう。それまで持たせられればいいが、我が帝国は決して手を緩めん。これは、戦争なのだからな」








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