第2話 最小限の戦力で最大限の成果を得ることを目的とした作戦

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 二月五日に郡山の戦いを終えた日本軍第一戦線方面軍はすぐに北上することは無かった。ダブルベッドドラゴンに郡山郊外戦・市街戦と想定外の状況が発生し、考えられた以上に砲弾薬やミサイル類を使用したからである。また、郡山以北の情報を持っているとされるセルトラからの聴取を待っていた点もあった。

 二月八日。孝弘と璃佳がセルトラと話をしていたこの日には日本軍第一戦線方面軍は後方からの物資弾薬補給が続々と到着し、次の戦いへの準備を進めていた。郡山市の防御施設構築もこの日には徐々に進んでいた。

 二月九日から二月一一日にかけては目立った動きが無かった。日本列島には寒波が襲来し、郡山市内でもやや強い降雪があったからだ。よって日本軍は大幅に前進はせず、CTの数がかなり少なくなっていた本宮市までの進出に留まり、あとは物資の集積・砲弾薬の補給・郡山市の戦いまでで使用した兵器の修理や整備を行うに留まった。

 二月一二日。日本軍第一戦線方面軍は福島市攻略に向けて作戦会議が行われた。セルトラからの戦況聴取がある程度進んだからである。

 彼曰く、福島市にいる神聖帝国軍やCTと神聖帝国軍指揮官については以下のようであった。


 ◾︎福島市を拠点とする神聖帝国軍の数は約五〇〇〇。練度は郡山市域にいた神聖帝国将兵に比べると低く、士気もお世辞には高いと言えない。CTは約五〇〇〇〇。ただし郡山市が奪還されたことにより、兵力をさらに宮城県域に移している可能性は否定できない。また、エンザリアCTの数はセルトラが知る最新の情報(一月下旬)で約一〇。仙台方面の神聖帝国軍が一部を引き抜いた模様。なお、管轄する地域は福島市以外に国見町・伊達市域までに及ぶ。


 ◾︎神聖帝国軍指揮官は本国軍の大佐クラス。どうやら本国軍からもあまり評価が高くなく、二方面から攻撃を受ける可能性のある郡山市に比べて戦略重要性が低くなるから大した人物をあてるつもりは無かった模様。


 ◾︎セルトラによると、福島市方面神聖帝国軍指揮官の評価は、『無能』『臆病者』とのこと。彼のみの評価であれば齟齬の可能性があるが、郡山市方面で捕虜にした士官クラスも同様の評価をしている。加えて、関東方面で捕虜にした士官クラスからも類似の評価であったようなので、悪評高い人物のようである。


 ◾︎上記のような人物である為、将兵の扱いが下手。故に士気も低くなるのは火を見るより明らかといえる。本宮市まで我々が進出したにも関わらず手を出してこないのも、評価通りの性格であるゆえか。


 ◾︎セルトラからの聴取により福島市における敵軍司令部の位置と重要施設は特定済み。強行偵察によって裏付ける予定。


 以上のように福島市方面の敵指揮官の人物像や兵力数が判明した――セルトラだけでなく幕僚陣も同様の発言をした――為、日本軍第一戦線方面軍は下記のような作戦を立案した。


【福島市方面奪還作戦】

 ◾︎本作戦は福島市方面を最小限の戦力と最小限の損害で最大限の成果を得ることを目的とした作戦である。


 ◾︎セルトラ、郡山市方面神聖帝国軍幕僚陣、関東方面にて捕虜とした神聖帝国軍士官クラスからの聴取により、福島市方面敵指揮官が『無能』かつ『臆病者』である点を利用した作戦を実施する。


 ◾︎作戦内容は福島市街地に存在する神聖帝国軍福島方面司令部及び物資弾薬集積基地、市街地や郊外部に存在する防衛拠点などへのピンポイント爆撃である。作戦決行日は二月一六日。


 ◾︎投入戦力は空軍戦闘機一八機・空軍爆撃機四機・海軍艦載戦闘機一二機に加え、フェアル部隊三個中隊(西特大・北特団・第一特務からそれぞれ一個中隊ずつ)である。また、特定済みのマジックジャミング装置の破壊後には無人攻撃機一二機も投入する。

 なお、これとは別に前段作戦としてフェアル部隊による福島市方面への強行偵察を実施する。投入戦力は第一特務より精鋭の二個小隊とする。


 ◾︎空爆と同時に降伏勧告を実施する。さらにフェアル部隊によるビラ散布も実施。


 ◾︎本作戦にて福島市方面神聖帝国軍が降伏を受け入れればCTを掃討しつつ前進。福島市域を制圧し奪還する。


 ◾︎本作戦は最小限の戦力で最大限の成果を得ることを目的としており、作戦が成功すればそれでよしであるが、もし福島市方面神聖帝国軍が降伏しなかった場合は従来より立案していた作戦に沿って行動するものとする。



 以上が福島市域ピンポイント爆撃作戦の概要である。

 日本軍第一戦線方面軍が本作戦を立案し速やかに実行が決定されたのは、郡山市方面での戦闘が予想外に長引いたのが一番の原因であり、損害が少なく済むのならばそれに越したことはないという心理が大きく働いたからである。もちろん、セルトラを捕虜にして多くの情報を引き出せたという点も見逃すことは出来ないといえるだろう。


 福島市奪還に向けて、日本軍第一戦線方面軍は動き出す。激戦が予期される、来るべき宮城県南部及び仙台方面奪還作戦で全力を尽くす為にも。


 なお、補足であるが日本軍第二戦線方面軍はいわき市を無事奪還し、第一戦線方面軍より先行して浜通りを北上。二月一四日時点で富岡町まで到達していたことを加えておく。

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