第10話 郡山ダブルヘッドドラゴン(1)

 ・・10・・

 1月24日

 午前10時20分


 二つ首のドラゴンが出現した。この急報は瞬く間に全戦線に広がっていった。

 ファンタジーも大概にしてくれ。二つ首とか怪獣映画かよ。などといった悪態混じりの混乱は僅かな間のみで、これまでドラゴンや飛行型エンザリアCTとの戦闘で培われた経験が活きたからか、すぐに冷静さを取り戻していた。


『エマージェンシー!! エマージェンシー!! 郡山方面から接近の高速飛翔体は郡山市を通過!! 速度約一〇〇〇!! 白河上空到達まで約三分!!』


『二つ首のドラゴンの名称をDHDと仮決定。これより全通信に適用する』


『横田コントロールよりファルコ隊全機。現空域にて対処可能な全機はDHDの対処にあたれ』


『ファルコ1了解。現在展開中のファルコ2から6とDHDを撃墜します』


『那須HQより白河FHQへ。DHDを対処可能なフェアル部隊を速やかに上げさせよ。目標脅威度は不明だが、サイズは地龍と同等かつ速度はこれまでのドラゴン以上であることからA+は確定と思われる』


『白河FHQより那須HQ。西特大選抜二〇名がスクランブル。間もなく離陸。第三戦線、一〇一魔法旅団戦闘団にも支援要請中』


『割り込み失礼。こちら一〇一魔法旅団戦闘団、セブンス。特務より一〇名、北特団より一〇名の計二〇名を選抜完了。間もなく離陸する。選抜人員データを送信中。完了』


『白河FHQよりセブンス、要請受諾感謝します。SA1及びSA2のSランク二名にあと八名も全員がA+。北特団は全員AもしくはA+! 助かります!』


『セブンスより白河FHQ。ただし到着まで一〇分はかかる』


『白河FHQ了解しました』


『ウェストウィザードよりセブンス。増援感謝します。来て貰えると分かれば、全力で怪獣モドキを叩きます』


『頼んだよ、ウェストウィザード』


『了解しました』


 通信でやり取りをしている間に状況は刻一刻と変化していく。

 まず福島南部空域にいたF-3Aのファルコ隊六機が北上し、今川率いる西特大選抜二〇名も空に上がる。

 増援も着々と離陸の準備にかかっていた。急報が入電した新潟空港のF-35部隊一二機(エアゴースト隊)の内スクランブルの三機が離陸。茨城県沖で展開していた空母艦載機部隊のうち即迎撃に上がれる三機も間もなく離陸しようとしていた。これはファルコ隊が先程まで航空支援攻撃にあたっており、燃料とミサイルが限られていたからである。

 まずDHDと接敵したのはファルコ隊だった。


『ファルコ1、敵をレーダーで捉えた。距離約二〇〇〇〇。この距離それなりに近づいても曇天のせいてで目視しづらそうだ。まずは敵を白河から遠ざける』


『横田HQよりファルコ1。了解』


『ファルコ1より、2、3へ。同時に対空ミサイルを発射する』


『ファルコ2ラジャー』


『ファルコ3了解』


『カウント、三、二、一。ファルコ1、フォックス2!』


『ファルコ2、フォックス2』


『ファルコ3、フォックス2!』


 三機から放たれたミサイルは二つ首の熱源を捉え飛翔していく。

 ミサイル三発はこれまでのドラゴンなら必中かつオーバーキルともいえる攻撃だ。

 しかし、敵はとんでもないことをしてみせる。


『おいおいマジかよ! ミサイル二発、撃ち落とされる! 光属性光線系を確認! いや、まだ一発がある!』


『ミサイル命中! …………効果が薄い!?』


『魔法障壁だ! 対魔法探知レーダーで確認! DHDは地龍と同様魔法障壁がある!』


『迎撃能力だけじゃなく防御力も怪獣かよ! DHD、こちらを向いた! ファルコ1より全機、四時方向に反転! こっちに敵を引きつけろ!』


『了解!』


『ファルコ4、5、6やれ!!』


『了解! ファルコ4フォックス2』


『ファルコ5、フォックス2』


『ファルコ6、フォックス2!』


 さらに三発のミサイルが発射され、直後にファルコ隊全機は南東方面に方向転換する。


『ファルコ4、発射したミサイルが迎撃された!』


『ファルコ5、同じく!』


『ファルコ6、命中するも効果が薄い! つーかなんですかあの機動力! 戦闘機じゃ絶対無理なヤツじゃんか!』


『ファルコ1より全機、DHDの魔法障壁が破壊されるまで俺たちじゃどうにもならん。ウェストウィザードが法撃しやすいよう引きつけろ! なあに、燃料はまだあるし全速力ならこっちが上だ!』


『ファルコ2よりファルコ1。そうはいっても敵の回避機動はイカれてます。接近する際には気をつけないといけませんね』


『フェアル並じゃドッグファイトはきっついな。ファルコ1よりウェストウィザード』


『こちらウェストウィザード。ポイントを指定しますから、怪獣モドキを引き付けてください。近接航空戦になっても速度一〇〇〇であれば私達ならまだ速度的にどうにかできます。一三〇〇越えられるとやや厳しいですが』


『ファルコ1了解。ポイントはそこだな』


 今川が指定したのは白河市から東北東の位置にある石川町付近。戦闘機からすればすぐにたどり着ける距離だが、白河市からかなり離れた場所だった。

 針路を変更したファルコ隊は今川達が向かっている方角に向けて速度を上げる。時速一三〇〇キロ。音速の世界だ。だが、スピードアップしてきたのは二つ首も同じだった。


『DHDさらに増速! 速度約一二〇〇!』


『音速じゃねえか! っっ!! DHDから熱源探知!! 対魔法レーダーが反応したぞ!!』


『横田HQよりファルコ隊こちらでも探知した!! 推定火属性!!』


『この距離でか!? 約一三〇〇〇あるんだぞ!!』


『まさか映画よろしく火炎弾じゃないですよね!?』


『DHDより法撃あり!! 高速火炎弾!!』


『もうなんでもありだなちくしょー!!』


 ファルコ3がポロッと漏らした言葉。本人は全くそのつもりは無かったのだが現実となってしまい、彼は悲鳴じみた悪態をつく。

 火炎弾はミサイルのごとく高速でファルコ隊に迫っていた。


『回避!! 回避だ!!』


 ファルコ隊は迫る火炎弾を高速機動で回避する。しかし、この火炎弾が曲者すぎた。


『追尾式だとぉ!? ファルコ4狙われてるぞ!!』


『オレかよ!! クソッタレェ!!』


 ファルコ4は自身が駆る戦闘機と同等速度で迫る火炎弾を避けようと高速回避機動を繰り返す。


『いつまでついてくんだよこんちくしょー! フォックス2! これで残弾無し!』


 全方位視認可能なヘッドマウントディスプレイで火炎弾をロックすると、ミサイルは火炎弾の方に向かう。幸い命中したのだが、この行為は正解であり不正解だった。

 火炎弾にミサイルが命中すると、直径二メートルのそれは大爆発を引き起こしたのだ。あまり距離が取れていなかった機体に火炎弾の散らばった火の粉が命中。ファルコ4の機体は煙を上げ始める。

 それを見越してか、二つ首はファルコ4に迫ろうとしていた。


『させるかよ!! ファルコ5、フォックス2!!』


『ファルコ6、フォックス2!』


 戦友を殺されるなどたまったものでないとファルコ5と6が放ったミサイルは一発が迎撃されるも、もう一発は命中。ファルコ4から気を逸らすことに成功する。


『ファルコ4離脱しろ!!』


『機体が持たない!! ファルコ4、ベイルアウト!!』


 僅かな隙だったが、これを見逃さずにファルコ4はベイルアウト。無事にパラシュートが開く。二つ首は攻撃された二機の戦闘機に視線が向いていたから狙われることなく降下できるだろう。白河FHQもすぐにフェアルの救出部隊を向かわせるよう動いていた。

 ファルコ隊五機と二つ首の龍の戦闘は続く。狙いはファルコ5とファルコ6だった。

 ファルコ1から3が牽制も含めて放つミサイルや二〇ミリ航空機関砲の支援を受けつつ、二度の光属性光線系魔法をギリギリの所で回避するも、完全に乱戦状態に陥っていた。


『ウェストウィザードよりファルコ隊、そのまま全速で引き付けてください。法撃準備完了。こちらから行きます!』


『ファルコ1よりウェストウィザード、ありがたい!! こっちはそろそろミサイルが無くなる! そちらの統制法撃と同時に離脱させてもらう!』


『ウェストウィザード、了解しました!』


 今川は通信を終えると隊を率いてさらに加速。統制法撃で狙える距離まで近付こうとする。二つ首の龍はまだ五機の方を狙っている。

 距離九〇〇〇。統制法撃の中でも長射程の攻撃を選択した今川は、今が狙い時と判断すると、


『総員、統制法撃!!』


 一斉に風属性魔法が放たれた。

 数多の鋭利な刃が迫るが、魔力を感知した二つ首の龍はその巨体からは信じられないような身を捻る機動で避けていく。だがいかんせん数が多い。放たれた風刃の三割程度は命中し、魔法障壁の破壊音と咆哮が彼女達の耳に入る。


「まあ、これだけで倒せるなら苦労しませんよね……」


 しかし、二つ首の龍は墜ちない。滞空したまま今川達を睨む。退避途上のファルコ隊は既に眼中に無く、視線の先にいる彼女らにしか興味は無いようだった。

 今川は少しも臆さず、むしろ口角を曲げて笑ってみせた。


「ここからは私達の出番です。さぁ、かかってきなさい。相手になってやりますよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る