第9話 会津盆地を奪還しても
・・9・・
翌日、二三日。雪が止み曇り空の中で、日本軍は早朝までに会津若松市中心部を包囲する形にまで前進していた。西部方面は阿賀川西岸を押さえ、北部方面は磐越自動車道会津若松インター付近まで到達。この包囲は会津盆地及び猪苗代湖方面からやってくるCTと神聖帝国軍を遮断する為であった。
CTの掃討は続いている。会津盆地南部に残るCTは西部方面の部隊が、猪苗代湖方面から流入してくるCTは北部方面が担当していた。いずれも数はそう多くはない。特に猪苗代湖方面のCTは流入数が露骨に減っていた。主戦線たる第一戦線軍が福島県南端の白河市まで到達し、そちらの対応に割かざるを得なくなったから。とは、参謀本部の見立てだった。
前日深夜から翌明朝まで続いた夜間攻撃はあくまでハラスメントであり、夜明けと同時に本格的な砲爆撃が始まった。本命たる郡山での戦闘を踏まえて攻撃は三時間程度で終わったが、投射された火力は凄まじいの一言に尽きていた。会津盆地は早々に占領。第一戦線と足並みを合わせて、自分達は横っ腹から郡山にいる神聖帝国軍とCTを殴るために会津若松での戦闘を早めに終えたい意思の表れだった。
午前九時には全部隊が包囲した会津若松中心街へ突入を開始。ここから会津若松市街戦が始まった。
・・Φ・・
1月23日
午前11時過ぎ
会津若松市・西若松駅周辺
「SA1よりセブンスへ。特務小隊は西部方面諸部隊と共に西若松駅周辺を確保。当初の作戦通りこれより鶴ヶ城方面に突入します」
『セブンスよりSA1へ。了解。こっちも会津若松駅周辺まで到達した。抵抗は激しいけれど、数は優位だからすぐに終わらせられる。特務第一や北特団第二には伝えてあるけどそっちは二大隊と共同で敵の本拠を押さえなさい』
「SA1了解。このまま向かいます」
『よろしく。北部方面はまだちょっちいる猪苗代湖方面からのCT対処に数を幾分か割いてるから、西部方面の方が先に城に着くと思うよ。ちゃちゃっと済ませて』
「はっ。承りました」
孝弘は璃佳との通信を終えると特務小隊全員に通信の内容を伝え、鶴ヶ城方面に向かう。
夜間攻撃と朝からの砲爆撃は
だが、全ての神聖帝国軍がこの選択肢を取ってきたわけではなかった。
『距離三〇〇、二区画向こうから神聖帝国軍小隊出現! 高魔力反応! SA1、自爆攻撃と推定!!』
「クソッ……! 総員各個法撃!」
孝弘達は即時攻撃の為に短縮詠唱で初級魔法を放つ。自爆攻撃小隊は魔法障壁を全力展開していたが、特務小隊の一斉法撃で瞬く間に障壁を失い、宏光が放った法撃の直撃を受ける。
直後、対地爆弾が着弾したような大爆発が巻き起こった。その振動は激しく、魔法能力者達は陸軍や海兵隊の兵士達を守る為に魔法障壁を追加展開した。
「何度経験しても後味が悪いぜ……」
「全くだ。降伏してくれた方がいいけど、ヤツらの方針は玉砕覚悟の徹底抗戦。指揮官は愚かだけど、時間稼ぎが目的なら取れうる選択肢だ」
「自爆攻撃はどの世界でも共通ですね。僕は大嫌いなやり方ですけど」
「誰だってこんな攻撃は好まないさ、金山中尉」
「そうでしたね。失礼しました、米原中佐」
「いや、いい。その思考は大切にしててくれ」
「はっ」
孝弘達は各々の思想はどうであれ淡々と任務をこなしていった。西若松駅周辺からたった四〇〇メートルの間に同じ攻撃を二度ほど受けたがいずれも冷静に対処していく。
各所でも同様の攻撃は散発的に行われているようで、ごくわずかだったが防ぎきれなかった部隊からは悲惨な報告が届いていた。
それでも第三戦線の各部隊は着実に包囲を狭めていく。
空軍戦闘機部隊による爆撃が。
魔法軍による空陸問わない法撃が。
砲兵隊による砲撃が。
機甲部隊による砲撃が。
陸軍や海兵隊将兵による銃撃が。
日本軍の徹底的な攻撃によって神聖帝国軍はみるみるうちに数を減らしていく。
そうして、午後四時半。
会津若松市街戦は神聖帝国軍の自決と思われる鶴ヶ城の爆発で組織的抵抗を終えた。
続けて、夜に入った頃には猪苗代湖方面からのCTの流入もほぼ停止。会津盆地南部方面も九割方のCTが片付けられていた。
ここに会津若松周辺での戦闘は予定より早く終結。第三戦線は、翌日には先遣部隊を猪苗代湖方面に向かわせようとしていた。
第三戦線だけみれば奪還作戦は順調に進んでいたし、第二戦線も着々と前進していた。
第一戦線も白河市を確保して拠点化。さらに北へ進み須賀川へ、そして郡山へ向かおうとしていた。
だが、相手は突如として異世界から現れた侵略者である。有り得ないは有り得ないを時折繰り出してくる侵略者である。
それは翌日に発生した。璃佳達や孝弘達は仮とはいえ強化型と思われるCTの解析結果――後にCT二型と正式名称が付けられることになる――についてミーティングをしようとした頃だった。
会津若松市に置かれた臨時司令部内。この通信が入った時、通信部の警戒度は最大限まで上がった。
「エマージェンシー!! エマージェンシー!! 第一戦線司令部より緊急通信!! 郡山方面から高速飛翔体が接近中!! 当該個体は速度約一〇〇〇で南進中!! 無人偵察機から映像入ります!!」
数秒後には破壊される無人偵察機が映し出したソレを目の当たりにして、彼等はこう思った。
ある者は、ファンタジーも大概にしろよ。と。
ある者は、ファンタジーどころか怪獣映画じゃねえか。と。
そしてある者は、不謹慎だが三つ首でないだけまだ良かった。と。
郡山方面から南進する高速飛翔体の正体。それは、二つ首の巨大なドラゴンだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます