第11話 郡山ダブルヘッドドラゴン(2)

 ・・11・・

「総員散開!! 白河方面にヤツを近づけさせないように!!」


『了解!』


 二つ首の龍が再び咆哮を上げた直後、今川に向けて突っ込んできた。口角を歪に曲げた特異なニンゲンに何を思ったか今川達には分からない。ただ、真っ先に狩るべき存在だと視認したのは間違いないだろう。


「賢者の瞳、DHDを精密解析。弱点を探し出しなさい」


『承認。精密解析を開始します』


 今川は高度を上げながら、二つ首と効率良く戦える手段を得るために賢者の瞳に解析をさせる。

 その間にも龍は今川に狙いを定め光属性光線系魔法を放とうとする。


『警告。高濃度魔力反応』


「知ってますよ、っと!!」


「ボアアアアア!!!!」


 二つ首の両方から光線魔法が放たれる。今川はフライエンザリアCTとの経験から、光線がかするだけでも魔法障壁のかなりを持っていかれるか最悪全破壊されることを知っているから、魔力探知をフル稼働して光線の射線を器用に躱していく。

 さらに今川は空中で急回転機動を取り、二つ首の背後を取る。狙うは翼に近い胴体部とその周辺だった。


「ゴァ!?」


「次は私の番ですよ。『風槍ウィンドスピア八重射出オクタインジェクション』」


「ンギャアァ!!」


 戦闘機の機動を凌駕するドラゴンとて、今川の法撃を回避することは出来なかった。八つの風刃は今川の目測通りの位置に全てが命中する。


『命中。双翼周辺胴体部の魔法障壁破壊率、推定一二パーセント。他部位よりダメージ若干大』


(バケモノじみた硬さですね。骨が折れる戦いになりそうです。次の一手はどうすべきか……、が、考えてる余裕は無さそうですねっ!)


「ギャゴォォ!!」


『警告、DHD急速反転。高濃度魔力反応。火属性』


「ちぃ!!」


 今川は急加速をし、光線魔法より厄介な火属性魔法を発射しようとするドラゴンから距離を取ろうとする。


『させるかっっ!!』


 無線から聞こえてきたのは選抜二〇名の一人、彦根中尉の声だった。彼は発射直前の二つ首目掛けて初級風属性魔法を打ち込んだ。

 彼の判断は大正解だった。明らかに弱点そうに見える首の部分は二つ首にとって最も魔法障壁硬度の高い部分だったが、法撃そのものの射線を逸らすことに成功。あらぬ方向に火炎弾は飛んでいき、別の隊員がそれを迎撃した。


「助かりました、ウェスタン8《彦根中尉》、ウェスタン11《小垣江少尉》!」


『この程度ならおちゃのこさいさいですよ! 射線そのままはあまりにも危険ですし!』


『あれ当たっちゃまずいですからね!』


 攻撃を邪魔された二つ首は不機嫌そうに唸り声を上げると、牽制がてらの光線系魔法を放つと白河方面に向かおうとする。


「させませんよ!!」


 今川達は加速すると二つ首の針路を妨害する形で割り込み、強引に方向を北西に向けさせる。

 西特大選抜の二〇名は二つ首が放つ追尾式火炎弾を回避しつつ、光線系魔法も魔法障壁が多数割られないギリギリの所で避けながらも法撃を加えていく。

 それでも敵の魔法障壁に大きなダメージを与えられていなかった。両翼の付け根部分の破壊率は三八パーセント。前面部に至っては二七パーセントと全破壊には程遠い。速度も全く低下しておらず、一向に終わりが見えない気配だった。

 これまでのドラゴンなら中級以上の法撃で大ダメージを与えれば事足りていたが、視線が二つある分だけ二つ首にはほとんど隙がなく、強力な法撃を与えられていないのだ。

 こうなると我慢比べになってくる。


『くぅ!! ウェスタン7、至近弾!!魔法障壁全破壊!! フェアル出力急速低下!! 』


「離脱しなさいウェスタン7《小郡少尉》! ウェスタン12《最上中尉》、離脱カバー! アナタも残存魔力が少ないでしょう?」


『くっ……、了解! ウェスタン12、7と共に離脱します!』


 空戦開始から七分。全速力空戦を続けていたツケが出始めていた。魔力の少ないAランク魔法能力者の残存魔力が四割まで減っていたのだ。フェアルの増速はすなわち魔力消費と比例する。本来フェアルはレシプロ戦闘機並の速度が一般的な戦闘速度とされており、音速戦闘が可能なのは一握りである。西特大はその一握りなのだが、かといって無限に音速戦闘が可能という訳では無い。速度一〇〇〇を越える空戦機動はみるみるうちに魔力を減らしていくのだ。

 加えて二つ首の恐るべき攻撃力によって直撃こそ免れたものの至近弾で一名が重傷で墜落。三名が離脱している。いずれも命に別状はないと賢者の瞳が判断しているし救出部隊も向かっているようだが、このままだとジリ貧なのは明らかだった。


(フライエンザリアCTの速度を凌駕し、防御力は地龍以上。西特大単独ではそろそろ厳しいですね……)


『エアゴースト2、フォックス3』


『エアゴースト3、フォックス3!』


『エアゴースト1、フォックス3』


 今川が今日何度目か数えたくなくなるほどの回避機動を取った直後、無線の声が三つ聴こえ、直後レーダーに三発のミサイルが表示される。発射されたミサイルはアクティブレーダーホーミング形式。導入されてまだ五年も経過していない新型国産ミサイルだった。エアゴースト隊はまだ四〇キロ先にいるが、長射程空対空ミサイルだからこそ出来る芸当だった。


(このタイミングはありがたい! 二つ首は四〇キロ先のミサイルまでは探知出来ない。ここまでの空戦からして一〇キロ先は探知するから、そこからなら隙が作られるはず!)


『シーランサー3、フォックス2!』


『シーランサー4、フォックス2!』


『シーランサー1、フォックス2』


 さらなる援軍が現れた。空母艦載機部隊のF-3B三機だ。こちらも先の空戦からなるべく距離を取って一五キロ離れた所から発射をしている。


(よし、これならやれる!)


「総員、各個法撃! 時間を稼いで! 私が中級魔法を多数出します!」


『了解!!』


 二つ首の龍に迫るミサイルは六発。F-3Bが放ったミサイルを探知した龍はすぐさま迎撃の法撃を行い、三発全てが迎撃される。

 が、それだけでは無い。続けて猛速で迫るは機械仕掛けの槍三発。F-35が発射したミサイルだ。

 二つ首はこれを探知すると迎撃。二発は迎撃に成功するも一発は命中した。

 続けて西特大の隊員達が集中法撃。数秒の間だけだが、二つ首に大きな隙がうまれた。

 今川はこれを見逃すはずがなかった。


「――『豪風刃ストームエッジ三十重射出トリアコンタインジェクション』!!!!」


「ゴギャアアアアァァァァ!!!!」


 二つ首の背後に回った今川は両翼の付け根に向けて集中法撃を撃ち込んだ。

 鉄壁を誇っていたダブルヘッドドラゴンも流石にこの法撃は防ぎきれず、背部の魔法障壁が全破壊され、一部の刃はダメージを通していた。

 しかし、二つ首の龍もタダでは済ませるつもりはなかった。


『警告。超高魔力反応。光属性。警告。これまでの法撃を凌駕するものと推定。発射まで八秒』


「まずいっ!! 総員回避!! 回避!! 離れて!!」


 桁違いの魔力反応が二つ首から発生する。

 狙いは散々に自身を叩いてきた今川。彼女は回避機動を取るも、二つ首は狙いを外そうとしない。

 戦闘機隊はミサイルを放つが八秒では間に合わない。西特大の隊員達も離脱しつつ法撃を発射するが攻撃力が足らない。八秒では威力に欠ける短縮詠唱の中級魔法が限界だ。おまけに残り時間からして届く頃と発射がほぼ同時。防ぐことは出来ない。

 それでも、射線を少しでも逸らせるように皆が皆法撃をした。


(お願いっ!! 耐えて!!)


『魔法障壁全力展開!! 前面集中!!』


 あと五秒、四秒。今川は死を覚悟する。これはさすがに厳しいか、と。


『火属性ハイチャージ。目標ロック。……ショット!!!!』


 あと三秒、二秒、そして一秒になった時、龍の左側の首は頭を思い切り殴られたかのような錯覚に陥る衝撃を受ける。

 龍が受けた攻撃は三〇ミリの砲弾。それもただの弾ではなく、衝突の瞬間大爆発を起こした火属性を伴う魔法弾だった。

 想定外の攻撃を受けた二つ首は振り下ろされた鈍器で殴られた後の姿勢のように口部は地上へ向き、直後、今川へ向けるはずだった光属性の太い光線は地上に発射された。

 光線は森林地帯になっている地上にぶつかると、とてつもない爆発音を伴った。まるで大型爆弾が爆ぜた直後のように衝撃波も発生するほどだった。

 二つ首の龍にとっての悲劇はそれだけでは終わらない。


『好き勝手に暴れた代償よ。――『爆雷槍デプスチャージランス二重投擲ツインショット』!!』


「ンギャアアアァァァァァ!!!!」


 続けて放たれたのは中級雷属性魔法。爆ぜる雷の槍は龍の両翼に命中し、魔法障壁のほとんどを破壊した。飛行能力を大きく削がれた二つ首の龍はフラフラと姿勢を崩し、高度を落としていく。


『SA1、SA2お見事だ!! ここからは俺達に任せな!! 遠距離からの精密射撃や法撃は任せたぞ!!』


『了解しました、ノースマジシャン』


『SA2、了解です』


 新たに現れた味方は二〇名。表示されているコードネームは第三戦線にいた彼等達。一八名は二つ首の龍の追撃姿勢に入った。


「た、た、たすかったぁぁぁ……」


 今川の命の危機を救ってくれた二人は彼女の視線の先にいた。

 正体は孝弘と水帆。二人は攻撃が間に合ってよかったと、ホッとした顔つきで、微笑みを今川に向けていたのである。

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