第3話 CT大群大決戦Ⅱ〜綾瀬・小菅防衛ブロック〜

 ・・3・・

 同日午前7時前後

 東京都足立区

 埼玉南東部及び千葉県北西部迎撃・綾瀬小菅急造防衛ブロック


『1st.CRよりDB《防衛ブロック》全隊へ。第一波約二五〇〇〇の内、半数を撃破。ただし第二波約二五〇〇〇が接近中。第二波の本DB到達まであと一時間一五分』


『立川HQより綾瀬小菅DB各隊。現在空軍爆撃機第二陣が綾瀬小菅含む各DBに向けて飛行中。爆撃機隊に同行する戦闘機隊も対地攻撃を実行する。綾瀬小菅DB付近に対する爆撃は一〇分後。衝撃、爆風などに注意されたし』


『セブンスより綾瀬小菅DB各隊へ。このDBに対する爆撃支援予定時刻を〇七一五マルナナヒトゴーに設定。BT2及び攻撃ヘリ部隊は爆撃予定時刻前に当該空域から一旦退避。高所法撃隊は爆撃予定時刻に攻撃を一時中止。耐衝撃態勢を取るように』


 孝弘達新小岩防衛ブロックや今川達のいる葛西防衛ブロックの他、各地でCTの大群と激戦を繰り広げる中で、璃佳達のいる綾瀬小菅防衛ブロックも例に漏れず激しい戦いの最中にあった。

 第一波が襲来して一時間が経過したが、撃破数だけを見れば順調のように見えた。防衛ブロックの外側にはおびただしい数の死体と肉塊が広がっており、わずかな時間に大量のCTを撃破出来ていることを表している。

 しかし、全てが上手くいっているわけではない。


『BTL2よりセブンスへ。何処に撃っても当たる状況なのは予想してましたが、この調子だと早々に携行機関銃は撃ち尽くします。一部の隊員は既に残弾が心許なくなりました』


『セブンスよりBTL2へ。弾は節約しなくて結構。補給ポイントで速やかに弾薬補給をし撃って撃って撃ちまくれ。銃身の冷却だけは忘れるな。弾は用意したけど、替えの銃身はあまり用意出来なかったからね』


『了解』


『魔力残量はどう?』


『効率運用したとしても半日持ちませんね。敵が多すぎます。東京が落ちた時より酷いのでは?』


『言えてる。とりあえずBTは上空からの支援を。ただしエンザリアCTには気をつけろ。埼玉南西部方面から報告が出たし、葛西からも報告が少しだけどあった』


『はっ。全員に改めて共有します』


『お前達の上空支援は心強い。無理しない程度に無理しろ』


『心得ました。なあに、ここ数ヶ月で慣れましたからなんとかしてみます』


『頼んだよ』


 璃佳は高富との通信を終えると、『賢者の瞳』がひっきりなしに警告音を放つものだから、小さくだったが思わず舌打ちをしてしまう。

 防衛ブロックのすぐそこまで接近していた撃ち漏らしの一群に対して、前線指揮を兼ねて高層ビルの最上階に陣取っていた璃佳――魔力消費を鑑みて緊急時を除き茜を召喚することを彼女はしないつもりだったの茜はいない――はロックオンをすると、


「黒の球は触れるものを塵と化す。『闇球分解弾シャドウバレット八十重発射オクタコンタショット』!!」


 短縮詠唱で一挙に八十の闇弾を放つと、現れた数だけ敵が粉々になっていく。ここ二ヶ月の戦闘であればこれである程度は片がつくのだが、いかんせん敵の数はあまりにも多かった。


「だーもう!! 多すぎる!! 熊川、こういうのなんていうんだっけ?! ほら、ダンジョンから無限湧きのやつ!」


「スタンピードですか」


「そうそれ! 本当にキリがない!」


「確かに。この状況、高富の言う通りですね。超大型やエンザリアを優先目標にしない限り、どこに当てても命中しますよ」


(だからこそ、魔力切れを早晩心配しないといけなくなるわけだが……)


 うんざりした口調で言う璃佳にいつものような冷静な口調で返す熊川だったが、内心では少々だが焦り始めていた。東京陥落前の敵密度をも超える今の現況を前にすると、いかに彼であっても数時間後を懸念せざるを得なかった。

 それは璃佳も同じで、早くも一つの決心をする。


「熊川、魔力回復薬の制限を上限いっぱいに緩和するよ。連隊全員を対象に。制限気にして回復薬使用を躊躇してたら命取りになる。なーに、上限いっぱいから五本まではそう酷い副作用はないし、その前に死ぬ方がよっぽどマズイ」


「了解しました。――ベアリバーより連隊各員。魔力回復薬飲用本数を最終制限まで緩和する。魔力の消耗が激しければ躊躇わず飲用するように。ただし、手持ちの残本数には気をつけるよう」


 熊川の通信に各大隊長から返答が来る。声音に揺らぎは無かったが、余裕があるとは言えない様子だった。


「これでさらに五本分の緩和をしましたが、どれだけ持つでしょうか」


「焼け石に水とまでは言わないけど、長く持ちはしないだろうね。ゲームみたく即効性がある訳じゃないし、こんなんじゃ回復量以上に魔力消費するからさ」


「世知辛い戦場ですね」


「ホントね。魔法軍は便利屋になって久しいけど、今日ほど人遣いが荒いと思ったことはないよ」


「同意です。さて、そろそろ爆撃機と戦闘機の編隊が来るみたいですよ」


「助かるね。個人じゃとても対処しきれないし」


『バスター1より綾瀬・小菅DBへ。これよりマップにマークした地点の爆撃を開始します。各員爆風に注意されたし』


「セブンスよりバスター1。攻撃支援感謝する。エンザリアCT注意のため、当空域通過まではそちらに直掩を数人あてる。敵攻撃兆候に要注意するよう」


『バスター1よりセブンスへ。了解しました。支援感謝します。爆撃開始まであと六〇』


「セブンスよりバスター1。了解。――綾瀬・小菅DB各員、爆風に備えよ。爆撃開始まであと五五」


 璃佳が爆撃機と戦闘機の編隊リーダーとの通信を終えるとこのDBにいる各員に連絡を送っていく。

 ほぼ時間通りに爆撃機と戦闘機の編隊は現れた。上空約二五〇〇メートル。エンザリアCTの出現を警戒して相応に高度を上げていた。フェアル部隊の数人は爆撃機護衛のため高度を上昇させていく。


『クラスター爆弾投下まで一〇』


「頼んだよ、爆撃編隊。バケモノ共を吹っ飛ばしてちょうだい」


『五、四、三、二、一、今! 投下!』


 爆撃機のウェポンベイから面制圧用のクラスター爆弾が投下され、対地爆弾を装備していた戦闘機からも対地爆弾をが投下される。


『目標まで三、二、一、命中!!』


 クラスター爆弾に対地爆弾が大爆発を巻き起こすと一帯は爆炎に包まれ、遅れて爆風による衝撃が璃佳達にも伝わる。


「っひゃー! やっぱ爆撃機の攻撃は凄いね! 衝撃がビリビリ伝わってくる! バケモノ共にはいい気味だざまぁみろ!」


「壮観ですね。ですが、どれほど潰せたか」


『1st.CRより各員。解析完了。本爆撃によりDBから一キロまでの敵半数を撃破。撃破数、推定一五〇〇から二〇〇〇。爆撃機部隊に続き、戦車隊及び攻撃ヘリ部隊一斉攻撃。さらに数を減らしています。ただし、第一波の三五パーセントは未だ健在』


「だいぶ減らせたし上等! バスター1、攻撃感謝する!」


『バスター1よりセブンス。それなりの数は焼きましたが、我々はまもなく新小岩や葛西のDBの攻撃を行います』


「頼んだ!」


『了解。ご武運を』


 バスター1は早々に通信を切り上げると航空機にとってはすぐ先である新小岩と葛西のDBに対して支援攻撃を行い始めた。


「さて、これで第一波の六割以上は潰せたわけだけど」


「史上最高レベルで火力を集中させているんですが、それなりに残ってしまいましたね」


「数の暴力は恐ろしいもんだよ。でも、敵は雑魚ばかりだ。第二波到達までに出来るだけ数を減らすよ」


「はっ」


『 1st.CRよりセブンスへ。超大型目標が接近。数は六。距離二五〇〇。この数では通常兵器では対処不可能の模様。連隊員は各所の対処に手一杯だそうです』


「了解。私がやった方が早いね。距離一五〇〇で当てるから誘導させるように伝えて」


『了解。伝えます』


「さーて。私もギアを上げていこうかな、っと!」


 璃佳は闇夜のように暗い魔法陣を出現させると、呪文を紡いでいく。

 彼女達のいる綾瀬・小菅防衛ブロックもまた、今の時点では迫るCTの大群を何とか打ち倒せていた。

 しかし、戦いはまだまだ続く。

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