第4話 CT大群大決戦Ⅲ〜葛西防衛ブロック〜

 ・・4・・

 同日午前8時15分

 東京都江戸川区葛西

 千葉県西部迎撃・葛西急造防衛ブロック


 孝弘達のいる新小岩DBでは第一波の八割五分を倒し、璃佳達のいる最もCTが多い綾瀬・小菅DBでも第一波の八割を倒して第二波の迎撃に移っていた頃。今川中佐達のいる葛西DBでは第一波約一五〇〇〇の九割を倒したあたりで第二波の迎撃となっていた。

 彼女達が担当する葛西DBは南側が海に面しており北側には綾瀬小菅DBや新小岩DBがある関係から、CTの数は三つのDBの中では最も少なく三波合計約四〇〇〇〇を相手にすることとなっていた。

 対して日本軍側は葛西DBに陸軍と海兵隊で一個連隊。魔法軍は西特大一個大隊と、魔法軍特殊部隊よりはやや劣るものの十分精鋭とされている一個大隊の計二個大隊が展開していた。DB単独で増強一個連隊程度、後背には他二つのDBと同様陸軍や海兵隊の本隊が控えており、数的劣勢を跳ね返しながら戦えていた。

 これだけ見れば綾瀬小菅DBや新小岩DBに比べれば敵の数は少ないものの、それはあくまで他より少しだけマシというだけであり、長期は持たないのはやはり他二つのDBと同じであった。


「ウェストウィザードより各隊! 第二波が到達! 数は想定通りの約一〇〇〇〇! 魔力回復薬の本数、最終制限まで緩和をしましたから、出し惜しみせずに撃ちまくりなさい! 葛西が抜かれたら木場方面。東京なんてすぐです! 当地を死守すること!」


『了解!』


『WSB2ndCL《西特大第二中隊中隊長》よりウェストウィザード、距離約三五〇〇に一個大隊相当のCT一団が接近! 申し訳ありません、こちらは手一杯です!』


「ウェストウィザードより2ndCLへ。任せなさい! こちらで対処しますから、第二中隊は今の敵に集中!」


『助かります!』


「本部小隊、統制法撃用意! 私が撃ったら放って!」


『はっ!!』


 今川は賢者の瞳で敵の一団をロックオンすると、詠唱を始める。一秒でも早く撃ちたいからと、威力は多少弱まるが短縮詠唱を行った。


「――風の刃は輪となり切り刻む! 『風刃車輪ウィンドホイール、五重発射(ペンタショット)』!」


 孝弘達や璃佳達と同様に高層マンションに陣取った今川が放ったのは、五つの風刃を纏った魔法の車輪。それらは魔法陣から放たれると地面に着地するかどうかスレスレのところで猛進し、CTの一群をみじん切りがごとく刻んでいく。

 続けて本部小隊の中でも戦える者達が統制法撃を行い、車輪から逃れていたCTを倒していった。一個大隊相当の一群は大方この世を去り、肉の塊を晒すこととなった。

 ピンチを未然に防いだ今川だったが、表情は明るくなかった。


(第一波は余裕で防げましたが、第二波はどこまで被害を最小限に抑えられるでしょうか……。第三波までなら死傷者をなるべく減らせるとしても、この後の四波目までを考えると……。)


 今川は大隊麾下の中隊長達へ的確に指示を出しつつも、孝弘達や璃佳達と同様に、既に数時間後を憂いていた。

 そもそも今川が率いる西特大は璃佳達と同じく昨日の午前中まで激戦続きで、一〇名ほど戦線離脱者を出していた。加えてこの戦闘が始まるまでに回復出来た魔力量は部隊平均で八割弱。決して万全ではない状態でこの戦闘に臨んでいたのだ。

 今川が憂いているのは自部隊だけではない。それはひっきりなしに届く通信と賢者の瞳に入る戦況一覧にも現れていた。


《攻撃ヘリ飛行中隊、ミサイル残弾僅か。機関砲残弾全体平均四〇パーセント未満》


《攻撃ヘリ飛行中隊、予備部隊出動要請》


《戦車大隊、残弾平均約五〇パーセント》


《爆撃機部隊第三陣到着まで二五分》


《ダメージレポート:KIA(戦死)77、WIA(戦傷)168》


《西特大第三中隊中隊長:魔力回復薬の使用を加味し、魔力枯渇域まであと五時間程度と推測。》


《西特大第二中隊中隊長:第二波殲滅後弾薬補給及び小休憩を求む。後背部隊にその間の交代を進言》


(後方部隊は大忙ぎで整えて間もなく前進開始出来るとのことですが、戦域が広いからどうせ数的劣勢は覆せない。せめて弾薬補給と魔力をちょっとでも回復出来る時間さえ貰えれば夕方までは戦えますけど、こっちのカードが早く切れるに越したことはないですね……)


「滝山大尉。上はカードを場に出せるまでどれくらいかかると言ってますか? 戦闘開始前時点では一七〇〇ヒトナナマルマルと来てましたが」


「一七〇〇から変わりありません。暗にそれまで耐えろってことでしょう」


「きっついですねえ……。空軍の支援は? 現況でもカツカツですけど」


「爆撃機はカードの件もあってこれ以上出せないようです。戦闘機隊は築城も飛行隊を出してくれるとのことで、小松は全飛行隊を出してくれると」


「ありがたいです。とにかく火力が足らないですから、戦闘機がいるといないじゃ大違いです。ただまあ、すぐじゃないですよね」


「ええ。築城は一時間後。小松のこれから分は一時間半後です。……訂正。築城は五五分後、小松は一時間十五分後と今入りました」


「来ると分かってるならそれでよしです。なら我々も多少火力を上げてもいいでしょう」


『立川HQより葛西DB、ウェストウィザード。西特大の弾薬補給及び小休憩の間の一時交代部隊は手配完了。攻撃ヘリ部隊、戦車部隊共にそちらに向かえます。到着は一〇一〇ヒトマルヒトマル


 今川と滝山が僅かな合間を縫って今後の確認をしていると、立川の司令部から待ち望んでいた通信内容が入る。この時ばかりは今川も頬が少しだけ緩んでいた。


「ウェストウィザードより立川HQ。手配感謝します。葛西DBの戦車大隊は残弾がそろそろ厳しく昼まで持ちませんでしたから。補給はどうですか?」


『何とか予定通りには。綾瀬・小菅DBの敵があまりに多くそちらが優先の状態です。ただし新小岩DBから、Sランクが四人いるぶん少々余裕があるから葛西に多少回しても大丈夫とのことで』


「ありがたい! 新小岩DBに感謝を伝えてください」


『了解しました』


 立川の司令部との通信を終えると、今川はホッと一息をつくように息を吐いた。


「新小岩の米原少佐達には終わってから直接礼を言わないといけませんね」


「どれだけありがたいことか……。あちらは昨日の午前中に白ローブと接触して交戦までしたというのに、順番を譲ってもらえるのは本当に助かります」


「ええ。なので、我々も頑張らないといけませんね」


 今川は激しい法撃音と砲撃音が時折聞こえてくる新小岩の方角を見て言った。


『3rdCLよりウェストウィザード。ヘルハウンド型を中心とした高速移動CT群が接近中ですが、先程抜かれました! すみません!』


「構いません。撃ち漏らしは私達に任せてください」


『ありがとうございます! ――中隊総員、これ以上DB区域内に敵を向かわせるな!』


 第三中隊の中隊長が言うように高速接近するCTの一群がいた。規模は一個中隊。第三中隊は既に複数のCTを対処していたのだから、抜かれるのも無理はない。

 今川は賢者の瞳で速やかにロックオンを行うと、短縮詠唱で呪文を唱えていく。


「――繰り出すは数多! 空より降り注ぐ風の槍は、何物より早く突き刺さる! 一匹足りとも通しはしません!! 『高速轟風槍ラピッドストームスピア二百重射出ジクタインジェクション』!!」


 今川が放った法撃は、単一であれば中級魔法クラスとはいえ圧巻の一言に尽きた。

 空を覆うかのように多数の魔法陣が現れ、二〇〇もの風の槍は高速で接近するCTを貫き、地面に血の湖を作り上げる。肉は破片と化し、一匹足りとも残さず平らげてみせたのだ。

 これこそがSランク能力者の真骨頂。中級魔法を準戦術級魔法に匹敵する威力として運用するその典型だった。

 葛西DBもまた、今はまだ希望の灯火は強く光っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る