第6章 旧首都・東京奪還前哨戦編

第0話 軍統合参謀本部情報参謀部作成・世界の現状に関するレポート

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『《乙級機密資料・閲覧可能階級尉官以上》一一月下旬現在における国外動向及び戦況報告』


 ※詳しくは各項詳細を参照のこと。


 1,現在、神聖帝国との世界的大戦において我が国は一〇月の反転攻勢以降やや優位に進められつつある。しかしドラゴンの出現や今後首都東京都心に接近するにあたり敵戦力的密度が上昇すると思われる為、予断は許さない状況にある。また、海外の動向及び戦況は決して無視する事は出来ず、我が国の食糧事情ひいては安全保障に大きく関わる為、ここに国外の戦況等を記録する。


 2,『アジア方面』

 敵の転移門を中心とする拠点はクウェート、インド・ムンバイ、ベトナム・ホーチミン、中国・マカオ、ロシア・ハバロフスク。


《西アジア》

 クウェート起点の神聖帝国軍は暑さに慣れていないからかCT含め侵攻は比較的低調。ただし既にイラクは全土を占領され、イランの西半分を占領。現在は犬猿の仲だったイスラエル・エジプト・サウジアラビアに加えトルコが中東方面多国籍軍を編成し対抗中。特に正面に立たされているイスラエル・サウジアラビア・トルコ軍が奮戦し、戦線は膠着状態にある。ただし各国軍の消耗も目立ち始めている。なお中東方面でもドラゴンが出現したが、新型アイアンドームは一定の効力があったと報告が入っている。

 西アジア方面単独ならば比較的善戦しているがアフリカ方面が絶望的であり、今後エジプトやサウジアラビアがアフリカ方面のCTの対応に追われる可能性が高い。


《南アジア》

 インド・ムンバイを起点とする神聖帝国軍は西アジアと同様に暑さに慣れていないからか比較的侵攻が低調。インド軍・パキスタン軍及びネパール軍が交戦中。アジア方面の転移門拠点と比較して同戦線はCTの数がやや少ない為、戦況は膠着状態となっている。インド軍とパキスタン軍が大動員をかけて戦力を大幅に増強し、それらが整い始めた事も影響している。


《東南アジア》

 ベトナム・ホーチミンを起点とする神聖帝国軍は高湿度の暑さに慣れていないからか比較的侵攻が低調。さらにこの地域はベトナム軍、タイ軍、マレーシア軍、インドネシア軍などがアセアン連合軍を結成し連携をはかっている為、ベトナムの南半分、カンボジアのほぼ全土、ラオスの南半分、タイの東半分(バンコクから東約二〇〇キロ地点)で敵戦力を抑えている。ただし乾季に入って敵は動きやすくなり今までより活発化する為、今後の戦況が懸念されている。


《中国方面》

 マカオを起点とするCT及び神聖帝国軍は中国軍の数で敵を抑える作戦を前に侵攻領域は西南地区南部・中南地区南部・華東南部で留められている。しかしアジア州内で最も神聖帝国及びCTの数が多い為、数が多く質も向上してきた中国軍とて長期戦となれば苦境に立たされるのは間違いないと思われる。なお、自国領土内で生物兵器の使用がなされたとの報告が入っている。戦況が不利になれば核兵器の使用も行われるのではないかと懸念されている。


《極東ロシア方面》

 ハバロフスクを起点とするCT及び神聖帝国軍については、中露国境付近に転移門が開いたこともありロシア軍極東軍管区と中国軍北部戦区軍が交戦中。アジア方面で最も敵兵力が少ないものの、地理的に遮るものがほぼ無いため、大規模野戦を度々強いられている。ただしこれより厳寒期に入ることで敵の侵攻が低調化することが期待されている。※


 ※捕虜によると、ある程度の寒さならともかく厳しすぎる寒さだと動きは鈍くなるかもしれないとの事。ロシア軍の捕縛CT使用の実験によると、厳寒期程度の気温だと夏秋の期間より動きはそれなりに鈍ったとのこと。


 3,『欧州方面』

 敵の転移門を中心とする拠点は、スウェーデン・ストックホルム、ポルトガル・リスボン、ウクライナ・キエフ。


《北欧方面》

 ストックホルムを起点とするCT及び神聖帝国軍はスウェーデンの南半分、ノルウェーの南半分、フィンランドの南半分、デンマーク全土とエストニア全土を侵略し、現在の最前線はドイツ・ハンブルクと、ラトビア北部、サンクトペテルブルク北西一五〇キロとなっている。

 主に対応にあたっているのはドイツ軍、ポーランド軍、ロシア軍、イギリス大陸派遣軍など。

 欧州方面でウクライナ・キエフに次ぐ敵兵力が流れ込んでいる為やや苦戦している。この一ヶ月は善戦しているが、矢面に立つドイツ軍やイギリス大陸派遣軍、ベネルクス各国軍がどれだけ耐えられるかにかかっている。ロシア軍がサンクトペテルブルクから徐々に押している為、ドイツ方面からも反転攻勢が予定されている。先の大戦でドイツとしては長期戦に向かない国土であり痛い目に遭っているからともいえる。


《西欧方面》

 リスボンを起点とするCT及び神聖帝国軍はポルトガル全土を侵略後、スペインのバルセロナ地方を除く全土に侵攻。現在はピレネー山脈を境とした戦線が構築されている。戦況は膠着状態にあるものの国境を接するフランス軍とフランス南部を抜かれると直接対決の当事者となるイタリア軍の消耗が予想より激しく、仏伊両国軍は最悪の場合戦線をリヨン・ボルドー間、リヨン・マルセイユ間に設定する作戦も考えている状態にある。


《東欧方面》

 ウクライナ・キエフを起点とするCT及び神聖帝国軍はウクライナ及びモルドバ全土、ルーマニア北東部、ハンガリー東部、スロバキア東部、ベラルーシ南部に侵攻。現在は主にロシア軍とポーランド軍、ルーマニア軍等が対峙している状態にある。侵攻予定領域の半分以上がロシアと接している為、ロシア軍が軍管区の域を越えて兵力のかなりをここに投入している戦況にある。ポーランド軍は北欧戦線でも出兵しており苦しい展開に。ルーマニア軍も緒戦の損害が大きく、苦戦させられている。欧州はロシアなど一部の国を除いてEU諸国軍として運用・展開されているものの、兵力差は拭いがたく、長期化すればするほど頼りになるのは縦深が取れるロシア軍となる戦況。

 欧州だけで三箇所の敵拠点が存在している上敵兵力が多いにも関わらずまだ戦えているのは、軍の一体運用化と欧州という土地柄魔法能力者が多い上に各国が軍として高度に運用されている西洋魔法の中心地だからである。




 4,『南北アメリカ方面』

 敵の転移門を中心とする拠点は、南米がベネズエラ、ブラジルサン・パウロ州、チリ・サンディアゴ。北米がアメリカ合衆国ボストン、同シアトル、メキシコ・ロスチモス。


《南アメリカ方面》

 ベネズエラ、ブラジル・サンパウロ方面、チリ・サンティアゴを起点とするCT及び神聖帝国軍は南米全体の約半分の領域に侵攻。南米北部地域はほぼ敵の勢力下にあり、辛うじて戦えているチリ軍と来年中なら耐えられるアルゼンチン軍、反攻に出られるだけの力をまだ残せているブラジル軍が中心となり抵抗を続けている。南アメリカの北半分をCT及び神聖帝国に占領されている戦況であり、アフリカ方面より何段階も良い状態にはあるが、アフリカの次は南アメリカではと言われている程に悪化しつつある。早期の戦況改善が必要な状態だ。



《北アメリカ方面》

 アメリカ合衆国ボストン、同シアトル、メキシコ・ロスチモス各地点を起点とするCT及び神聖帝国軍の動きは、メキシコについては同国北部及び北中部まで侵攻を受けており、残す自国域は中部以南となっている。メキシコにおいては南アメリカ方面から迫る敵軍勢力もありこのままでは来年には危機的状況に陥ると予想されている。

 アメリカ合衆国における起点、ボストン及びシアトルについては先日の戦術核起爆による攻撃が一定の効果をおさめているものの決定的な打撃は与えておらず、転移門を破壊している訳では無いこともあり、北米地区に展開するCT及び神聖帝国軍は増加傾向にある。神聖帝国側はワシントンまで約一〇〇キロ、ニューヨーク方面はニューヨークまで約六〇キロまで迫っており、再び危機が迫っており再度の戦術核起爆が危惧される。

 なおアメリカ合衆国に展開しているCT及び神聖帝国軍は他地域と比してかなり多く最大規模である。精強なアメリカ軍とて、我が国のCT及び神聖帝国軍展開数の約一〇倍を相手するのは分が悪いと考えられる。

 補足であるが、直近二週間の米国からの情報が途切れがちかつ断片的になっており、この点も懸念の一つとなっている。




 5,『オセアニア方面』

 敵の転移門を中心とする拠点は、オーストラリア・パース。

 各州の中で最も戦況が良い状態である。オーストラリア軍自体は米露ほど大きな戦力を持っていないものの中堅国家上位程度の軍能力は保有している。また、早期に広大な国土を活用した戦略に方針転換した結果国土の南西部を失陥したが兵力の温存にも成功しており、敵勢力を人口希薄地帯に誘引出来るだけ誘引し、南中部まで引き込んだ上で反転攻勢に出る作戦を立案・準備中。

 なお、オーストラリアにはニュージーランド軍も派遣されている。



 6,『アフリカ方面』

 敵の転移門を中心とする拠点は、ケニア、ガーナ、南アフリカ共和国・ポートエリザベス。


 絶望的な状態にある。既に中央アフリカ国家の多くが通信途絶状態となり、連絡が取れるのは北部アフリカ各国と南アメリカ共和国のみ。翌年中にはアフリカ全土が占領されCTの跳梁跋扈する地獄になると予想されている。

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