第1話 統合司令本部作戦会議で話されるは
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11月25日
午前10時過ぎ
兵庫県伊丹市陸軍伊丹駐屯地内・日本軍統合司令本部
孝弘達のいる魔法軍第一特務連隊を含む旧中央高地方面軍改め東京西部方面軍と、今川中佐のいる西方特殊作戦大隊含む太平洋方面軍がドラゴンと交戦しこれを殲滅した翌日。
首都東京が陥落してから臨時首都となっている大阪の近郊、兵庫県伊丹市に所在する陸軍伊丹駐屯地には、ある作戦に関する最終確認を含むいくつかの議題について話し合う為、日本陸軍・海軍・空軍・海兵隊・魔法軍及び五軍を束ねる統合参謀本部の一同が集っていた。なぜ伊丹かというと、首都が陥落し大阪が臨時首都となってから、軍統合作戦司令本部は伊丹に置かれていたからである。
その伊丹駐屯地内にある大会議室。カーキ色の軍服である陸軍組、季節柄冬服仕様に変わった紺色軍服である海軍組、空を思わせる白色軍服の空軍組、ベージュ色の海兵隊組、そして黒色の魔法軍組が大きな部屋に集まる様は中々に壮観であり荘厳さもあった。
壮観はともかく荘厳さも持ち合わせているのは、各軍及び統合作戦本部のトップがいるからであろう。
各軍トップと統合参謀本部のトップを順に紹介していこう。
「図体のデカい化け物や天使に続いてドラゴンとは。一番下の息子が好きなアニメを空想の産物だからこそ楽しめるよなと笑えんくなったな」
昨日の戦闘詳報に目を通し、目頭を押さえながら低い声で言ったのは、陸軍参謀総長の
「海軍はこれまで役回りが少なかったが、今後のことを考えるといよいよという感が強いようだね。だとしてもドラゴンの存在は受け入れ難いよね。どんどんこの世界が離れた世界に感じてしまう。まあでも、現実は現実か」
とある作戦に関係する書類を見つつ、昨日艦載機部隊が交戦したドラゴンについての速報も読んでいるのは、海軍参謀総長の
「今後ドラゴンと真正面に立つのは魔法軍と我が空軍。魔法軍と並んで替えが効かん我々としては、また一つ頭痛の種が増えたというわけか……。戦闘機にも限りがある事を考えると、配置転換は必須だな……」
戦闘機部隊からの報告に目を通しドラゴンの脅威性とおおよその個体戦力から、会議の前より今後の方策に頭を悩ましているのは空軍参謀総長の
「これまで俺達は常に最前線で戦い続けてきたが、今回は激戦になりそうだな……。海兵隊は兵力が陸よりずっと少ない。が、やらねば機を逃す。今がやらねばならん時だろうよ」
陸軍大将の馬場大将より声が低く、時には熊の唸り声にも聞こえる声で部下と話しているのは、海兵隊総司令官の
彼が激戦において損耗を心配しているのは性格ゆえだろうが、海兵隊自体がこの三ヶ月で陸軍に並ぶ損害を被っているのもあった。海兵隊は定数四二二〇〇人と魔法軍より少ないのに、既に六〇〇〇近い死傷者――予備役から引っ張り出したり新兵教育を早めているから補充は出来ているが、とはいえ約六〇〇〇の死傷者は手痛い――を出しているからである。
「補充が効かんのは魔法軍も同じ。むしろ人材面に限れば魔法軍が最も補充が効きづらい。戦争は才能をいとも容易く溶かすとは先達はよく言ったものだ。決着が早めに着くのならそれが一番いい」
「ああ、全く。互いに悩ましいもんだね」
隣にいた空軍大将の佐々川が同意した発言を出したのは、魔法軍総長の
「統合参謀本部統合参謀総長、
若手士官の声に一斉に反応し、起立する五軍のトップ陣。ネット通信を介して遠隔参加している前線司令部の面々――璃佳もその中にいる一人だった――も起立をしていた。
大会議室の扉が開かれ、現れたのは六〇代初頭の男性軍人。身長は一六〇センチ半ばと男性にしてはやや小柄。髪の毛にも白髪が混じっているが、纏う覇気は五軍トップ陣の誰にも負けてはいなかった。
彼こそが日本軍五軍を束ねる統合参謀本部統合参謀総長、香川高信上級大将であった。
香川上級大将が現れると、全員が敬礼をして迎える。
並んだ長机の最前面、その真ん中に立った彼が敬礼すると、
「総員着席良し。早速会議を始めようかね」
『はっ!』
香川上級大将の一声の後、会議は始まった。
最初の議題は現在の戦況について。世界各国の戦況確認が行われた後、国内についても報告がなされた。
九月末までの苦境から善戦している日本軍は首都東京の近くにまで迫っている。首都奪還は近い旨が話された。
二つ目は新兵器についてだった。席を立って報告を始めたのは、軍技研局長の
彼女が説明を始めると部屋が暗くなり、ホログラムが起動した。
「お手元の画面にある電子資料、三六ページからをご覧下さい。開戦初期から鹵獲していたCTの細胞分析が進み技研及び魔法軍技研の総力を結集して急ピッチで研究開発を行った結果、ようやく新兵器の実験運用段階までこぎ着けました。速やかに人材派遣及び機材提供を快諾して頂いた魔法軍大将中澤大将閣下にご感謝致します」
鮫島少将は中澤大将に頭を下げ、礼を返す意思として中澤大将は軽く右腕を上げる。
「今回の新兵器につきましては戦闘機でも無ければ戦車でもなく、ましてや新型の強化外骨格(パワードスーツ)でもありません。各軍が必ず使用する砲弾薬の中身です。その名を『対CT弾薬』。通称『対CT弾』です」
ホログラム画面に映し出された弾丸や砲弾には目新しさは無さそうに見えた。それもそのはず。鮫島少将が話すように肝心なのは中身だからである。
事前に研究の進捗が耳に入っていた面々に驚きは無く、どちらかというと、ついにか。という期待の眼差しが注がれていた。
「開戦初期においてCTは謎の化け物でした。ゾンビのように食われても友軍がゾンビにならないだけマシという存在でした。しかし、小型はともかく大型CTの存在は厄介極まりないものに変わりはない。そこで我々は早期に前線部隊に鹵獲を要請し、素材を手に入れました。研究を進める初期段階でCTは神聖帝国の魔法科学の産物であることから、魔法技研と合同で細胞分析を行っていました。その結果判明したのは、CTは神聖帝国の魔法科学によって作られた人造兵器であること。細胞の過活性による凶暴化が原因であると突き止めました。ここまでは既に報告は入っているかと思います」
鮫島少将の発言に各々が頷くなどして反応を示す。それを見てから鮫島少将は一呼吸置くと、話を続ける。
「『対CT弾』にはこの研究によって得た、CTを不活化する特殊弾薬を使用します。ただし現段階では量産体制に入ったとしても数が限られる為、導入出来るのは小銃弾のみとなっています。戦車砲弾は現在の威力でも大型までにはある程度通用する点から導入は小銃弾の次に、陸軍ヘリや空軍戦闘機については今の時点でも既存の兵器類で十分な威力があり導入効果が薄いためさらに後です。ひとまず最もCTと相対する歩兵携行のアサルトライフルを優先とします。実験運用分の現地到着は来月初頭と首都奪還作戦に間に合いましたが、第一期大量導入予定は年明け一月の半ば。首都奪還が予定されている年末に間に合わず申し訳ございません」
「構わぬ。実験運用に間に合っただけでも上出来である。ようやってくれた」
「陸軍は上級大将閣下に同意する。大変有難い」
「海兵隊も上級大将閣下に同意である。元々の実験運用時期が年明けだった。一ヶ月早めてくれた事、感謝する」
香川上級大将、馬場大将、高田大将の順に発言し、その内容に鮫島少将はほっとしていた。トップ陣が理解のある人達で良かったと彼女が安心した瞬間であった。
「ありがとうございます。導入予定部隊と納入量は陸軍一個旅団の一会戦分。海兵隊も一個旅団一会戦分です。これ以上は年明けにしか確保出来ませんのでご容赦を」
鮫島少将の言葉に、陸軍と海兵隊の面々は十分だと納得し、魔法軍の面々も自分達の負担が減りそうだと期待の眼差しを送っていた。
「対CT弾の開発完了及び実験運用にこぎ着けた事、技研と魔法技研はようやってくれた。本件については私から国防省に上げ、内閣にも伝わっている。本大戦は人類が滅亡しかねない世界的危機であり、内閣と国会の承認のもと、世界各国に研究内容と製作方法は共有した。米国や欧州など友好国はもちろんの事、大戦前は仮想敵国だった中国にもだ。かの国は大戦が始まるまでは政治的に微妙な国であったが、今は共にCTと戦う同胞である。中国首脳と軍首脳部も『貴国が研究内容の提供をしてくれた事、最大限の感謝をしたい。我々は決して恩は忘れない。必ず恩を恩で返す』と返答があった。過去のいざこざ、開戦前に至るまできな臭い状況があったとはいえ、いがみ合っては互いに滅ぶ。人類存亡の危機を前にして、理性がある国で良かったとも言えるがの」
肩をすくながら言った香川上級大将に、五軍の面々は苦笑いをする。五年前までは中国とは若干ながらも危ない状態になったことがあり、記憶に新しいからだ。
「――それはともかくとして、我々はいつまでもCTなんぞに、異世界からの侵略者なぞに膝を屈するつもりなど毛頭ない。だからこそ、今年末を契機に大規模反転攻勢に打って出る。既に各軍は東京近郊に迫っている。ここで戦力の出し惜しみをするは、愚の骨頂。緩やかに滅びを待つなど、愚者の選択。故に、我等は勝負に出る。統合参謀本部作戦参謀部作戦参謀次長、滝川少将。首都奪還作戦と同時発動される作戦の説明を始めたまえ」
「はっ。――では、お集まりの各々方、電子資料の五〇ページをご覧下さい」
全員が視線を電子資料に移す。
そこには作戦名がこう書かれていた。
『首都奪還オペレーション『反撃の剣』作戦第二段『九十九里南部・白子〜上総一宮方面上陸作戦』』
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