第4話 知花が感じる嫌な予感
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【最優先緊急実施作戦・六条千有莉救出作戦】
<概要>
本作戦は吉祥寺駅北方面にて救援通報があった六条本家継承権第二位・六条千有莉並びに同行者四名の救出作戦である。本作戦は緊急性が高く通報が数時間前である為、正式な作戦書面は事後提出となる。
<目的>
・六条千有莉及び同行者の救出
・副次目標として吉祥寺周辺の状況把握
<作戦開始時刻>
一一月一八日・二三〇〇時
<作戦区域>
吉祥寺周辺部
<作戦参加人員:計一〇名>
(救出実行部隊)
・米原孝弘魔法少佐(隊長)
・高崎水帆魔法少佐(副隊長)
・川島大輝魔法少佐
・関知花魔法少佐
・茜(七条璃佳魔法大佐・召喚人物)
(回転翼機護衛部隊)
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(回転翼機パイロット)
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11月18日
午後11時前
吉祥寺西方上空約400メートル
孝弘達が救出作戦を知らされてから数時間後。
可変回転翼機は手配出来なかったものの回転翼機は速やかに手配され、救出部隊はすぐさま編成された。
午後一一時前、孝弘達は既に吉祥寺から程近い地点を飛行していた。
『RH《アールエイチ》01《マルヒト》より、立川HQ《しれいぶ》。現在時速約二六〇で吉祥寺駅西方6キロメートルまで侵入。FACT《エンザリアシーティー》の探知無し。ただし地上部に多数のCTを確認。送れ』
『立川HQよりRH01。了解。目標地点まで間もなくとなる。FACTに警戒しつつ、無線発出地点至近に降下せよ。なお偵察の結果CTとは違う理知的かつ不規則的な動きをしている生命体がいた事から、対象は追手に追跡捜索されている可能性がある。こちらでも引き続き無人偵察機による中高度偵察を続行するが、同行部隊には魔力探知を続行するよう伝達を。送れ』
『RH01より立川HQ。了解。間もなく現着。無線は続行する。終わり』
ヘリの副操縦士である掛川祥一少尉は無線を終えると、孝弘達の方を向く。
「関少佐。無線を聞いておられたと思いますが対象の魔力探知はどうですか?」
「本部から提供された対象の魔力を特定探知してるけど、微弱過ぎて細かい特定が難しい状態かな……。敵の探知に掛からないよう魔力を隠匿しているのなら仕方ないんだけど、魔力を使いすぎて疲弊しているのなら良くない状況だと思います。掛川少尉、相手側の無線応答は?」
「本部が引き続き行っておりますが四〇分前から応答が無いとの事で。離陸が二〇分早まったのはこれが理由ですが、自分も芳しくは思っておりません」
「同意です。偵察の内容が事実なら帝国軍の追手がいるのは確定だけど、魔力隠匿されてるからかキャッチ出来ません。我々は現着次第遭遇戦を視野に入れて行動します。あと、対象が拉致されている可能性も」
「了解しました。よろしくお願い致します」
掛川は知花との会話を終えると、再び無線交信に戻る。
直後、彼女に声を掛けてきたのは、璃佳の予言通り召喚直後に「儂の主は狐使いが荒いのお」と頬をかきながら現れて一同の笑いを誘った空狐・茜だった。
「知花よ、お主は物事を随分悪めに考えるんじゃの?」
「良いに越したことはないんだけど、救出作戦は大抵想定通りにはいかないの。特に今回の場合は嫌な予感のする点が多くて」
「不安定らしいから断続的だったとはいえ、数十分前から繋がらんのじゃったか」
「うん。他にも地上は相変わらずCTがいること。追手が確認されていること。追手が魔力を隠匿していることから、取るに足らない相手では無いこと。さらに救出対象の魔力がキャッチ出来ないこと。好ましくない条件が多いかな」
「ふうむ。と、なるとじゃ。単に救出して終いとはいかなさそうじゃのう。孝弘、お主は降りてからどうするつもりじゃ?」
「降下したらすぐさま無線発信地に向かうつもりだ。ヘリの音で勘づかれるのは間違いないから、敵の規模にもよるけどCTとは別に確実に一回は戦闘になるな。あとはもう降りてみないと分からない。知花の分析のように、対象が拉致されている可能性は十分に入れるよ」
「承知した。何かやって欲しい事があれば言うてくれ。大抵の相手なら赤子を捻るように潰してやろう」
「頼もしいお狐様で何よりだ」
茜が獰猛な笑みを浮かべると孝弘は微笑んで答える。その孝弘、内心では茜がいて心底良かったと感じていた。話に聞いていたより状況が悪くなっている。敵の渦中で救出作戦なのだからCTとの戦闘は元より想定していたが、悪い想定である帝国軍高練度対象追跡部隊との交戦はほぼ確定とみていい。その際に攻撃魔法だけでなく防御魔法や拘束魔法まで使える茜の存在は鬼に金棒。少数人員での作戦だから、オールマイティに戦える味方というのはとにかく頼もしかった。
「米原少佐、あと四〇秒で降下地点です。帝国軍部隊との交戦が想定されます。申し訳ありませんが、上空一五〇メートルからフェアルでの軟着陸でお願いします」
「了解した、浜名中尉。回収ポイントは事前の打ち合わせ通り駅北のヘリポートがあるビルで。当初予定では長くとも二〇分程度で戻る予定だけど、変更があったら必ず伝える」
「了解しました。健闘を祈ります」
「ありがとう。日比野中尉」
『なんでしょう』
孝弘の発言に応答したのは、外でヘリの護衛を担当している班の班長である日比野だ。彼は高富少佐から直に選ばれた三人の内の一人である。
「敵部隊規模次第ではヘリを強襲してくる可能性がある。三人で対処になるから負担が大きくなるかもしれないけれど、よろしく」
『了解。お任せ下さい』
「米原少佐、降下一五秒前です」
「了解。二人共、すぐ戻るよ」
『はっ!』
「さぁ、行こうか」
孝弘は立ち上がり四人に言うと、全員が頷く。既に空いているヘリから全員が降下。茜以外はフェアルを用いて着地し、茜は魔法障壁を器用に使いながら着地した。
目標地点は、やや大きめの面積を持つもののヘリが地上に降り立つには狭い敷地の一軒家。アマチュア無線の局になっていたその家の主はそこそこお金を持っていたらしく、吉祥寺にありながら周りの一般的な住宅四軒分くらいの敷地面積がある家に住んでいたようである。よく見かけるブロック塀に囲まれており、たしかに敵から逃れて隠れたりするにはうってつけであるだろう。
孝弘達は着地してからすぐに加速魔法を用いて走って向かう。幸い、一番近くにいるCTは数百メートル先。すぐには襲来しないだろう。だが全員が遭遇戦に備えて準備詠唱をし終えていた。
『立川HQより、キャスター1。偵察機より敵部隊を捕捉。数は一〇。目標地点前で遭遇戦になります。送れ』
案の定と言うべきか。孝弘の耳に第一特務の戦術分析官である佐渡から一報が入る。
「了解。交戦まで推定一〇秒」
孝弘は返答すると、水帆と茜に攻撃役を。大輝と知花にはその間に目標地点である住宅に突入するよう指示を出す。
『三、二、一、エネミーエンゲージ』
佐渡の誘導のもと孝弘達が曲がり角を左折したのと、敵部隊が現れたのは同時だった。
救出作戦は早速、敵との戦闘で始まった。
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