第5話 六条千有莉救出作戦
2021/05/07
タイトルを修正しました。
・・5・・
『三、二、一、エネミーエンゲージ』
「炎の槍は遍く全てを焼き尽くす。『
「行け、狐火達よ」
先手は水帆と茜の火属性魔法だった。
まず水帆の炎風槍が敵の魔法障壁と衝突して爆発を起こし、追撃に茜の放った狐火がさらなる爆発を起こす。
『魔法障壁の完全破壊を確認。エネミー、二人死亡も残りは健在』
「やっぱり追手はそれなりの練度があるな。だが、甘いっ!」
水帆と茜の法撃が着弾した頃には孝弘は敵から約三〇メートル地点まで迫っていた。
佐渡からの報告を聞いて敵が雑魚では無い事が確定するが、孝弘にとっては大した問題ではなかった。
魔法拳銃に魔力を充填させると、彼は黒い軍服を身に纏う敵の中心に突っ込む。それは敵にとって、煙の中からいきなり現れたようなものだった。
「風属性、
孝弘が着地して立っていたのは生きている八人のど真ん中。敵のフォーメーションの中心にいることで、相手は味方を巻き込みかねないからと即時法撃が出来なかった。
この判断が敵にとっての致命傷だった。孝弘は素早くトリガーを押し続け、八人をあっという間に二度と立ち上がらないようにしたのである。いずれも即死だった。
「クリア!」
「儂が外周警戒をしておく!
「了解!」
「感謝するわ!」
茜が家の前に立ち警戒用の狐火を展開させながら言うと、孝弘と水帆は礼を言って敷地内へと入る。敷地の中はそれなりに広い庭と周りに比べると大きく感じる家で構成されていた。
とはいえ、玄関まではすぐである。
孝弘と水帆が入ると、大輝と知花から無線が入る。
『一階はクリア! 二階を捜索中だが…………、クソッタレしてやられた!』
『救出対象四名死亡! サウザンドパッケージ《六条千有莉》は発見出来ず! でも四名は死んで間もないからすぐ近くにいるはず!』
二人の報告は想定される状況の中で最悪の部類だった。救出対象は四名が死亡、最重要対象は拉致された可能性が極めて高いというもの。唯一の幸いは死亡時間からあまり経っていない点であるが、どれくらい距離を離されているかが分からないのが手痛い。
しかし、まだ希望は繋がっていた。
理由は二つ。救出対象が要人として育てられていたからこそ思いつく行動をしていたこと。もう一つは残された僅かな痕跡ですらも拾い、そこから対処法をすぐさま実行出来る知花の実力によるものだった。
『見つけた! 残留魔力をキャッチ。これを、点と点とを線で結んで…………、発見!! やっぱりここから遠くない! 東南東約三キロ地点!』
知花が行ったのはこの家に残されていた七条千有莉の魔力痕跡を起点として、幾つも残されていたごくごく小さい彼女の魔力痕跡を線で繋いでいき見つける方法だった。
魔法能力者の要人は万が一の際にこの方法を行うよう頭に叩き込まれている。分かりやすく魔力を出してしまうと拐った敵に勘づかれてしまうが、ごく僅かなら大抵の相手なら気付かれない。
ただしデメリットはある。ある程度の魔力を残せばほとんどの魔法能力者が気付くが、今回のレベルの残留魔力だと気付く可能性は低くなる。だがそこは情報分析と探知に優れる知花である。たったの数秒で気付く事が出来たのだ。
恐らくこの家に襲撃があったのは十数分前。敵がどうして無人偵察機の目を掻い潜り、知花の魔力探知を欺いて実行出来たのか謎は残るものの、この方法で発見出来たことに違いはない。彼女による大戦果だった。
『よくやったよ関少佐! ウチのアラート要員をすぐさま上げさせるから、君達はすぐさま追って!』
『了解!』
『茜、先行出来る?』
「任せい。ここで任を果たせぬ等、空狐の名折れじゃからのう」
『日比野中尉、君も先行して』
『了解。すぐに追いつきます』
まさか作戦失敗か。からの見出された希望に声を上ずらせながら無線を入れてきたのは璃佳だった。
救出対象がどこにいるのかが分かってしまえば後はやることなど単純明快。追跡である。
先鋒として空からは日比野を、地上からは茜が向かうよう璃佳は命じる。
『浜名中尉、すぐさま離陸。下からの攻撃はウチの二人が守るから即時回収出来るよう待機を』
『はっ』
『関少佐、特定続行は戦闘しながらだと難しいよね。亡骸を放置はあんまりだし現場を残しておきたい。川島少佐と共にそこに残って。迫るCTは川島少佐が蹴散らすように』
『了解! 追跡続行します』
『了解っす! ゴーレムを召喚して対処します!』
『米原少佐、高崎少佐はフェアルで追跡。先行の二人にはすぐに追いつくはずだから。頼んだよ』
『了解。追跡開始します』
『対象は私達で奪還します』
『お願い。援軍もすぐに来るはずだから』
想定外に次ぐ想定外で璃佳も焦っているだろうに、無線から聞こえてくる声は普段通りだった。
孝弘と水帆は返答してすぐにフェアルで離陸。三キロならフェアルであればあっという間だ。二人は知花が地図上にマークしている場所へ高速飛行をしていく。
『目標捕捉。やはり欺瞞していました。時速約六〇で五日市街道近辺を東進。無人偵察機、捕捉。日比野中尉、エンゲージまで約二〇。茜の、エンゲージまで約三〇』
『こちら日比野。目標、視点拡大ですが目視。搭載機関銃で牽制します』
『警告。エンザリアCT一体捕捉、法撃準備。距離約一一〇〇。発射まで八秒』
「日比野中尉、私に任せて!」
『了解!! 高崎少佐、感謝します!!』
エンザリアCT捕捉と法撃の警告が出た直後、射線に入っている日比野の前に割って入ったのは水帆だった。
彼女は短縮詠唱で呪文を唱えると、
「――『
水帆が放ったのは雷槍に加速魔法を付与した複合魔法。水帆が放つ雷槍は一般的なそれに比べて約五割速度が増すのだが、今回は加速魔法を付与した事で通常比約三倍の速度でエンザリアCTに放たれる。
加速すれば当然射程も伸びる。雷の槍は法撃二秒前だったエンザリアCTに直撃し、反応は消失した。
その頃には日比野中尉が放った機関銃の弾丸が敵部隊の牽制の役目を果たしていた。それまで高速で地上を移動していた敵は急停止せざるを得なくなる。
そこへ接近したのが茜だった。敵部隊の数は七人。その中に拘束されていた救出目標、七条千有莉がいた。
「目標捕捉。茜が先行してます」
『取り巻きは茜に任せて米原少佐は救出を』
「了解」
上空にいる孝弘と敵部隊との距離は約七〇〇。孝弘は着地に備えて減速しつつ、準備詠唱と魔力充填を行う。
孝弘が迫る中で、攻撃に移ったのは茜。続けてエンザリア型CTを早々に倒した水帆だった。
「千有莉とやら!! 儂を見るなよ!!」
「へっ?!」
茜は千有莉に大声で言う。千有莉はとっさの事だが、何かが起きると判断して目を
「娘っ子を返せ、下郎共が」
直後、茜の冷えきった声が場を支配した。すると、茜の瞳は真紅に光った。
「『ひれ伏せ』」
それは単なる魔法では無かった。いわば言霊。しかれども神に等しき力を持ち、神とほぼ同格とされる茜ゆえに成せる技。
膨大な魔力を源とする純粋な呪いだった。
いくら高練度とされる敵部隊でも抗えない。対抗する術式を組めば多少はレジスト出来たかもしれないが、彼等はモロに彼女の瞳を見てしまったのである。
効果は絶大だった。拘束魔法を使って千有莉を捕らえていた黒衣の軍服男も含めて強制的に茜の前に平伏したのである。
「米原、今じゃ!」
「了解!」
この好機を孝弘が見逃すはずも無い。千有莉の目の前に着地した孝弘は彼女を抱える。
「きゃっ?!」
「少々手荒くなりますが、我慢してください」
「う、うん……!」
孝弘は千有莉を抱えると、すぐさまバックステップを何度か行い敵部隊から離れる。
そのすぐ後に、風の刃が敵部隊に突き刺さった。法撃を放ったのは水帆だった。
「立川HQ! サウザンドパッケージ確保!」
『よしっ!! よくやった!! 援軍もちょうど到着したからすぐに離脱していいよ!』
「了解。パッケージをヘリに乗せ、帰還します」
上空に待機していたヘリと璃佳が向かわせた連隊のアラートフェアル部隊三人が到着したのは同時だった。
「六条千有莉さん。安心してください。もう大丈夫ですから」
「あ、あ、あ、ああああぁぁぁ…………」
孝弘が千有莉に声をかけると、今までの緊張の糸が切れたのか、彼女は堰を切ったように泣き始めた。千有莉を抱きとめたのは水帆で、彼女は千有莉の頭を優しく撫でていた。
「立川HQ、パッケージの精神はかなり不安定ですが、外傷はあまり無さそうです。かすり傷程度ですが、問題ありません」
『良かったよ。さ、多少ごたついたけど帰投しよう。ちなみに川島少佐と関少佐がいる地点にはウチの部隊五人を合流させたから安心して。川島少佐のゴーレムがCTを蹴散らしてるとこだけど、すぐにあっちも遺体を回収して離脱させるから』
「了解。帰投します」
二人が無事なのは当たり前という認識だが、あちらにも援軍が来ていたことにホッとした孝弘はすぐに六条千有莉をヘリに乗せ、彼等はヘリを離陸させる為に周辺警戒を行う。
ヘリはすぐに離陸。六条千有莉は援軍に来た隊員の一人が保護して車内に乗せたのだが、その時、茜が勘づく。孝弘と水帆も同じ行動を取った。
「ちぃ、タダでは帰れぬとはの! 『鏡面反射』!」
「魔法障壁展開!」
茜は上空数メートル地点から飛び降りながら鏡面反射を詠唱、孝弘と水帆も既に上空へ飛び立っているヘリを守るように魔法障壁を展開させる。ヘリ周辺に控えていた護衛の隊員達も魔法障壁をすぐに展開した。
四秒後、前方より飛来した火属性と風属性の複合属性法撃数発が鏡面反射に衝突。逸れた一発は孝弘と水帆が展開させていた魔法障壁に直撃した。
三人がヘリに当たらないよう展開させていた事で無傷であり、そのままヘリは飛んでいく。護衛の隊員達は孝弘達を援護したいところではあるが、主目標である千有莉はヘリの中。外れるわけには行かず、孝弘達にご無事で。と視線を送るしかなかった。
ヘリには乗らず、その場に残った孝弘・水帆・茜の三人。約一五〇メートル先から現れたのは、孝弘と茜が見た事のある外見だった。
「…………少シ遅カッタカ」
賢者の瞳による翻訳を介して伝わる言葉を放ったのは、白基調で華美な装飾が施されたローブを身に纏う男。ため息をついていた。
「あいつ、甲府の……」
「よもやここで再会とはのお」
「あれが孝弘が言っていた……」
三人の前にいたのは、甲府城の地下で遭遇し戦闘を繰り広げ、そして消えたあの男だった。
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