第7話 援軍に現れたのは白き髪をたなびかせた

 ・・7・・

 孝弘達がエンザリアCTを撃破した直後、背後から迫ったCTの一群と彼等は間髪入れずに戦闘に突入していた。

 中央線を挟んで北側の戦線は若干の前進と防衛線の構築を同時並行で進められていたが、中央盆地以上の敵密度を相手している事もあって四半日もこの調子で相手していたら苦しい戦いに成りうる状態となっていた。幸いなのは本隊第一陣の到着は当初予定より二〇分遅れで済んでいることだろうか。その程度であればいくらでもカバーしきれるのは流石精鋭達と言えるが、だからといっていつまでも続けたいとは誰もが思っていなかった。

 時刻は午前午前八時半過ぎ。

 水帆は自慢の魔法火力を遺憾無く発揮し、大輝はゴーレムを巧みに操り時には魔法障壁を他者に展開して命を救い、知花は光属性魔法で敵を薙ぎ払い討ちながらのサポートを続ける。そして孝弘も、一旦狙撃から遊撃に移って戦闘を続けていた。



 ・・Φ・・

『こちらセブンス。ナレッジフラワー、状況はどう?』


「二個大隊規模に加えさらに一個大隊が後方より合流、現在第一大隊と私達でこれを相手しています。エンザリアCTの出現で攻撃ヘリの支援は慎重にならざるを得ず、戦闘機も同様の状態です。戦闘機はまだ回避出来るでしょうけど、ヘリは一度に数体の攻撃を受けたら回避のは難しいからでしょう」


『了解。どれだけ持ちそう?』


「上空支援の火力密度が低下してしまうと、本隊の遅延が一時間半から二時間を越えると厳しくなるかと。現在遅延は二〇分程度。許容範囲とバタリオンリーダー《川崎少佐》が先程言っていました」


『OK。ただ、現時点での消耗は好ましくないから援軍を送ったよ。あと一五〇で到着予定』


「助かります。本隊到着まで現戦線は維持の形でよろしいですか?」


『それでいいよ。これ以上広げると密度が下がる。上がるのは本隊合流直後からで』


「了解しました」


『健闘を祈るよ。以上』


 知花は璃佳との通信を終えると、援軍が来ることを報告。継戦中の将兵達から安堵の声音が幾つか聞こえていた。

 孝弘達もホッとした心境が声にも現れていた。


「援軍は助かる。水帆、それならもうちょっと火力を上げてもいいかもしれない」


「分かったわ。魔力残量は八割。まだまだ上げられる」


「頼んだ」


 水帆は頷くと、初級魔法での火力を倍近くに増していく。固定砲台役を遺憾無く発揮していた。


「大輝、ゴーレムはまだ大丈夫か?」


「この程度なら問題ねえ。損傷率は二割ちょいだ。硬度を上げりゃ全然やれるぜ」


「よし。フル稼働が続くがあと一時間もしない内に本隊第一陣が到着予定だ。かっ飛ばしてくれ」


「任せとけ!」


 知花から伝えられた情報をもとに孝弘は水帆と大輝に指示を飛ばしていく。見事なフォーマンセルだった。

 大型が混ざっているとてただのCTなら彼等にとっては問題にもならない。それが三個大隊規模だったとしてもだ。第一大隊がいるのなら尚更のこと。

 しかし、一度ある事は二度あるのも戦場の常だった。


「ニューエネミーレポート!! 距離約八〇〇! 魔力検出、エンザリアCTだよ! 数は五体!」


「またぁ?! ったく、休む暇も無いったら! 火力をエンザリア型に集中させるわ!」


『すまねぇな、高崎少佐! 対処頼んだ!』


「了解! アレを使われるなら射線に入った隊員達は退避をさせてちょうだい!」


『おうとも!』


 知花の報告と賢者の瞳のレーダーで再びエンザリアCTが出現したのを見聞きした将兵達に一瞬緊張が走るが、彼等はすぐに対処に移り始めていた。


「高魔力反応検知! 五体同時! 発射まで六秒!」


「無属性魔力弾セット、ショット!」


「ちっ! ――炎槍ファイア・スピア三重射出トリプルインジェクション!」


「二人の攻撃でも間に合わねえ! ゴーレム、すまねえ!」


 孝弘が僅か六秒の間にまずは対物ライフルを一発、水帆がギリギリ間に合わせるため短縮詠唱をして炎槍三発を射出する。

 だが、それでは最大でも四体までしか倒せないからと大輝がゴーレムを盾にして射線の後ろにいる兵士達を守ろうとする。知花は分析と状況把握に集中しており今からでは法撃が間に合わない。

 五体中四体は倒せても一体が倒せないのは仕方ないと四人が割り切り、ゴーレムが守ろうとしているとはいえ万が一に備え退避に移るその時だった。


「『反転術式、鏡面反射きょうめんはんしゃ』」


 孝弘の背後に、今は見慣れた白髪をたなびかせた女性が現れた。璃佳が送った援軍とは、空狐『茜』であった。

 彼女が展開した鏡面は術式の名の如くエンザリアCTの光線系術式を跳ね返し、人型CTに直撃する。ほぼ同時に孝弘の射撃と水帆の法撃がエンザリアCT四体の魔法障壁を貫通。上半身を吹き飛ばすか炎上して動かなくなった。

 さらに。


「行け、狐火達よ」


 茜の周りに浮いていた狐火は轟速で残ったエンザリアCTに迫り、いとも容易く魔法障壁を食い破る。エンザリアCTは燃え、跡形もなくなった。


「くふふ。間に合ったようじゃのう」


 ちらりと孝弘達の方を振り返り微笑む茜。彼女の背後からは射撃音と法撃音に混ざって大歓声が巻き起こっていた。

 あわや損害が出かねない茜が現れるという展開は、将兵達の士気を大幅に上げるには十分だった。

 五体のエンザリアCTを倒してから、地上部隊は攻勢を強め警察署付近を完全に確保。新たに現れた二個大隊規模のCTも茜が加わった事で魔法火力が増したこともあり蹴散らし、背後では着々と防衛線の構築が進んでいく。

 そうしてようやく、待望の報告が通信に入った。


『1stCRより各隊へ。本隊第一陣が応急修理を完了した中央道及び国道より到着。まずは一個連隊です。続けて二五分後に旅団規模。山場は越えました』


「よぅし!! これでだいぶ楽になるな!!」


「ヒヤッとした時もあったけど、なんとかなったわね」


「ふぅ、良かったぁ」


「さすがに五体同時は焦ったけど、なんとかなったね。茜、ありがとう」


「礼には及ばぬ。璃佳が行ってやれと言うておったからの。主の命故に、礼ならば璃佳に送ってくれれば儂はそれで良い良いじゃ」


 孝弘は茜に礼を言うと、茜はくふふと笑いながらそのように言う。

 大輝達は攻撃を続けながらも互いの健闘を称え合い、正直な感想が零れていた。他の隊員達も似たような様子だった。

 本隊が続々と到着してから、連隊の隊員達の負担は格段に減っていった。エンザリアCTに注意しながらも戦車部隊が連隊や海兵隊の前線展開部隊と合流し、戦車砲が火を噴く。

 後方からは榴弾砲の勇ましい砲撃音。魔法が存在している世とはいえ、いつの時代も砲弾さえ尽きなければ安定した火力を提供してくれる砲兵隊は戦場の女神である。

 攻撃ヘリや戦闘機部隊もエンザリアCTに警戒しつつ、特務連隊の手がやや空き始めた事で防御支援を得て再び攻勢が活発になる。戦闘機部隊はともかく攻撃ヘリ部隊にとって、それは何事にも変え難い心強い味方となった。

 こうして関東平野橋頭堡構築作戦、第二戦線たる八王子側の作戦は初日はまずまずの結果を得ることとなったのである。

 一日目の死傷者は本隊を合わせ、一八八人だった。

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