第6話 エンザリア族CT
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不明目標からの光属性光線系魔法が魔法障壁に衝突すると、非常に激しい音が発せられる。一、二、三枚目までは容易く破壊され、四、五枚目も破壊された。六枚目になってようやく止める事が出来たが、その六枚目もかなりヒビが入っていた。
(一撃で五枚、いや実質六枚も抜かれたか。上級魔法に匹敵する威力だな……。大輝が俺達から一番近い場所に展開した魔法障壁は使わずに済んだが、五秒って短さなら守護者の大盾じゃなくてこっちで正解だったな)
相手の法撃によって生じた粉塵と魔法障壁が破壊された事で視界不良になる中、戦慣れした孝弘でも一筋の汗が左頬をつたった。冷や汗である。
一体どんな相手だ。いつから現れていた。どこに紛れていた。いくらでも気になる事はあるが、孝弘は武装を二二式対物魔法ライフルに持ち替えてスコープは覗かず、リンクだけ繋いでおいて賢者の瞳の視界倍率を高くして法撃先に視線を変えた。
視界が晴れた。先程の水帆の法撃で開けた周辺の先にいたのは、少なくとも地球世界(こちら)では見た事もない生命体だった。
「いた。距離約一〇〇〇。数は、二。大きさと見た目は人型のCTとあまり変わらないけど、……頭の上に黒の輪状で浮かんでいる小物体、あり。背中には、……ボロボロの羽、二枚を確認」
『目標検索。POW《捕虜》レポートと照合。……判明。推定、エンザリア族。推定性別男性』
一キロ先で静かに立つ二体のCTは無名ではなく、エンザリア族であると賢者の瞳の無機質な声は伝える。
「エンザリア族だって? 確か捕虜情報によれば少数種族じゃなかったか? 俺らの価値観なら天使に近い外見で、一地方の宗教の従事者。いわゆる神父だったりシスターだったりの立場の……」
川崎だけではない、孝弘達を含めてこの場にいた誰もが驚いた。
捕虜から得た情報は余程の機密ではない限り前線部隊には伝えられており、特に第一特務連隊のように常に最前線に立つ部隊は細かい情報が伝えられているしミーティングでも共有されている。
その中でもエンザリア族は人数が少ないらしいので、エンゲージする可能性は極めて低いと言われていた部類だった。
捕虜曰く帝国人では無いからもしかしたらCTにされている可能性も捨てきれないが、エンザリア族は光属性の扱いに長けているから属国兵としてなら現れるかもしれない。と。
だが、目の前にエンザリア族はいた。しかも、理性のある形ではなく理性を失ったCTとして。
「情報がどうだろうと現れたからには殺すしかない。CTはCTだし、敵は敵だ」
「孝弘の言う通りね。法撃の威力からしても他とは段違いに危険だわ。法撃準備が終わる前に殺るわよ」
「米原少佐達、あの二体を頼む。後ろからまた来やがったのは俺達で対処するからアレに集中してくれ」
『了解』
水帆は言うが早く詠唱準備を始め孝弘、大輝、知花はエンザリア族に集中することとなった。周りも少数種族の出現による若干の戸惑いはすぐに抜け、態勢を整え始めた。消し飛ばしたCTの代わりに早くも約一五〇〇メートル向こうからCT二個大隊規模が迫りつつあったからだ。
「――『
先行して法撃を行ったのは水帆だった。
八つの炎風を纏った槍が射出されると、凄まじい勢いで二体のエンザリア族CTに迫る。だが、当たらなかった。急に二体は動いたかと思うと、猛スピードで孝弘達の方へ向かってきたからである。
「早っっ!! 時速八〇、いや九〇! カバーを頼むわ!」
「了解」
「任せて」
「おうよ!」
孝弘、知花、大輝の順に答えると、三人はそれぞれの攻撃準備に入る。
最も早かったのは大輝だった。
「土壁よ、行く手を阻め。『
大輝は
相手のスピードが早くこれ以上の展開数は間に合わないと判断した大輝は距離約四五〇の地点に、高さ三メートル越えの五つの土壁を隙間無く並べるのではなく、やや広めの隙間を空けて設置。相手の進路を限定させる。
続けて詠唱した石弾を集中して当てるつもりだった。
だが二体は想定外の動きを見せた。隙間から出るのでは無く、
「マジかよ飛びやがった!」
「左は俺が」
「私は右をやるね」
二体のエンザリア族CTは三メートルの壁を易々と飛び越える。発射の直前ともなると射線の大幅な変更は難しく、大輝とはいえどもいつもの正確な法撃は難しかった。
それでも左側のエンザリア族には右肩部分に、右側のエンザリア族には左腹部に命中させるが致命傷には至らずそのまま着地を試みようとする。
しかし飛翔によって出来た隙を孝弘と知花は見逃さない。
「
「
彼我の距離約四五〇から孝弘の射撃と知花の法撃。
孝弘が放った弾丸は純粋な魔力のみで敵を穿つ無属性魔力弾。対物ライフル弾自体が大型ならともかく人型にはオーバーキルで、魔力弾でなくとも生物は跡形も無く吹き飛ぶ。
知花が放った光子弾も四発同時発射で同じく過剰火力といえる。
ところが二つ目の予想外が起きる。二体のエンザリア族は魔法障壁を瞬時に数枚展開したのだ。
「甘い」
「魔法障壁の密度が薄いね。それじゃあ私の法撃は防げないよ」
が、その程度は孝弘と知花は織り込み済みであった。魔法障壁が展開されようが完全破壊出来る威力の攻撃をすれば良いからだ。
孝弘が放った銃弾は多少威力が減衰するも、元々が対物ライフル弾。孝弘の込めた魔力が魔法障壁を容易く貫通し、上半身が吹き飛んだ。
知花の光子弾はそもそも魔法障壁などなかったのではないかと思える程に威力が衰えず命中。エンザリア族CTの身体に四つ穴を開けた。
べちゃりと音を立てて落ちるエンザリア族CT。さすがに死んだかと周りが思ったが、知花が法撃した方のCTは胴体に穴が開いたにも関わらず辛うじて生きていた。しかも詠唱を始めようとしている。
「『
直後に水帆が風属性魔法を発動。ばっさりと切れたCTは今度こそ死に絶える。
「ったく、しぶといんだから」
水帆が冷たい視線を死体に送る。
突如現れた元少数種族のCT、エンザリア族CTは、いくつかの予想外を繰り出してきたものの危なげなく孝弘達の手によって倒されたのだった。
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