第5話 高尾地区の激戦
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『関東平野橋頭堡構築作戦』で最精鋭として有名な第一特務連隊と共に高尾に降り立った俺達海兵隊第二特殊大隊に待ち受けていたのは、噂以上のバケモノの大群だった。
高尾駅周辺こそ空軍の戦闘機や無人機、陸軍の戦闘ヘリ部隊がある程度ぶっ潰してくれたから良かったが、一キロも遠くに行けば辺り一面バケモノバケモノバケモノの群れ。
能力者達が瓦礫を加工して急場しのぎのバリケードを作ってくれたから俺達は重機関銃を設置して鉛玉をぶちまけたりに迫撃砲をぶっぱなしたり出来たが、それとてキリがねえったらありゃしねえ。後から後からやって来るんだから、その景色はゾンビ映画みたいなもんだった。
だが、ゾンビ映画みてえだなんて俺達が口を揃えて言える余裕があったのも、第一特務連隊のお陰だ。
あいつらすげえんだ。何せ俺達は本隊がやってくる西側方面を完全に押さえつつ八王子方面からやってくるバケモノ共の露払い役に徹する事ができたくらいの大活躍だったからな。
地上部隊は魔法銃や魔法で大型CTでも簡単にぶっ飛ばすし、あっという間に高尾駅周辺一キロ半を制圧域にしてったんだ。フェアル部隊も凄かった。航空部隊と共に的確な航空支援攻撃をしてくれたから、随分と戦いやすかった。
だが、それでもだ。高尾駅周辺の戦闘は俺が戦った戦闘の中でも一番激しかったと自信を持って言える。それくらい、エグかった。
『ある海兵隊曹長の日記』より
・・Φ・・
午前8時過ぎ
八王子市・高尾警察署付近
特務連隊第一大隊展開地域
『関東平野橋頭堡構築作戦』が始まり魔法軍第一特務連隊と海兵隊第二特殊大隊が高尾駅周辺に降り立った直後から激戦となっていた。
海兵隊は本隊が向かってくる西側を速やかに確保し、余力で防衛線構築と第一特務連隊部隊の援護を行っていた。
第一特務連隊は第一大隊が東北東方面へ、第三大隊が東南東方面に広がって橋頭堡の拡大を行い第二大隊の半数は航空支援、もう半数は第三大隊と合流してそれぞれ任務を遂行していた。
本部中隊はというと、まずは海兵隊大隊本部と共同で前線司令部の設置を行い、完了直後に前線司令部付近を守る防衛線の構築に。これが完了すると璃佳は一旦指揮と司令部付近の防衛に集中する為留まり、代わりに孝弘達を敵の攻勢が早くも激しくなっていた東北東方面に向かわせていた。
時刻が午前八時頃になると高尾駅周辺二キロは自軍制圧下となり、本隊のやってくる西側方面の防衛線は確立。さらにはヘリボーン第二陣、陸軍部隊の約五〇〇も到着し、作戦初期段階としてはまずまずの戦果といえる状況になっていた。
しかし、特務連隊第一大隊と第三大隊が展開する最前線ではCTの攻勢がより強まっていた。敵の密度が上がっていたのである。
そのため、孝弘達もいる第一大隊では高尾警察署付近で一度足止めをされる。
孝弘達は第二防衛線として使用される
『前方からさらに一個大隊規模のCT! 小型中心だけど、大型三体もいるよ!』
『大型にはオレのゴーレムを向かわせる! これで五体全部使ってる事になるぞフリーは一旦いなくなる!』
「了解だ大輝! こっちも突っ込んでくるCTにかかりっきりだ! 大型のいくつかは俺が撃つが、撃ち漏らしはお前と関の法撃でも頼む!」
『あいよ!』
『了解だよ!』
「孝弘、前方からまた大型よ。悪いけど私は固定砲台役で手一杯だから狙撃補助は出来ないわ」
「大丈夫だ水帆。賢者の瞳の補助があるから狙撃は問題無い」
「そ。ならいいわ。ったくもう、警察署の辺りまで来たらさらにCTの数が増えるんだから嫌になっちゃうわ。これじゃあ進めないじゃない」
「仕方ないさ。幾ら一個旅団規模を爆撃でかなり削っても、八王子の本命が大挙して押し寄せてるんだ。あと一時間ちょっとは我慢の時間だ」
水帆は短縮詠唱を繰り返しながら砲兵隊の大部隊が如く法撃を続け、孝弘は今回の作戦の為に手配された『二二型対物魔法ライフル』で大型目標への狙撃を行いながら愚痴を言い合う。
ああだこうだと二人で言えるだけ多少の余裕はあるが、第一大隊の多数が孝弘達の左右に展開してしまっており、正面は孝弘達四人と川崎少佐など大隊本部付中隊で対処している状態だった。
『悪ぃな、米原少佐! 佐渡から新情報だ! まーた大型目標だってよ! マッピングは済んでる!』
「了解しました、川崎少佐。距離約一五〇〇なら、見通せる分は潰せます」
『助かる! 航空支援は要請してるが、どこも手が足んないらしくってな! 第二大隊の方も今くらいので限界みたいでよ。いくらか頼むわ!』
「分かりました。自分と水帆である程度はなんとかします」
『すまねえ!』
川崎の申し訳なさそうな声に、お気になさらず。と返す孝弘。直後に一発放った銃弾は大型CTの心臓を正確に穿っていた。
「猫の手も借りたいとはまさにこの事ね。――『
「召喚術士、召喚してもなお手が足りぬ。とも言う状況だな。――ショット」
「レーダーの表示、敵が減るどころか増えているもの。ああ、まだるっこしい! 一気にぶちまけてやろうかしら! 『
「ぶちまけるのは構わないが魔力残量は、大丈夫そうだな……。何度も二桁展開してまだ一〇パーセントも消費してないんだもんな。――ショット」
孝弘と水帆はことわざも交えながら軽口を叩きあいながら周辺確認を怠らず、なおかつ互いの魔力都度確認していた。
水帆は既にこの一時間で艦砲の速射砲よろしくかなりのペースで魔法を行使しているが、オーバーキルにならないよう初級魔法を中心に運用している事もあってか見た目ほど魔力は消費していなかった。魔法は使えば使うほど熟練度が上がり、魔力消費量を抑えて行使することが出来るからだ。効率良く使うことを身体が覚えるといってもいい。
水帆はこの点が非常に優れている。ただでさえ魔力保有量が多いというのに高効率行使が可能なのだから、璃佳が迷わず水帆を固定砲台役に命じたのも当然のことだった。
「初級魔法ばっかり使っているもの。流石に上級を連発するのは今の戦況だと避けたいけれど、初級なら問題なし。――孝弘、一体大型が出てきたわよ。目標の一つじゃない? 距離は約九〇〇」
「助かる。風属性貫通型、
「お見事。あー、でもまだ全然敵が湧いてくるわ。あっちもこっちもまだまだCTだらけ。決めた決めた。ド派手に法撃するの、許可貰うことにするわ。これ以上密度が高くなると、めんどくさくなりそう。一度纏めて減らしましょ」
水帆の決意は固かった。
無線ですぐに前線司令部の璃佳へ属性と効果範囲を伝えて許可を貰うと、情報室を統括している佐渡を経由して各部隊に水帆が広範囲法撃を実行する旨が伝わった。
「孝弘、一分頼んだわ」
「了解。魔法小銃に攻撃を切り替える」
孝弘が対物ライフルから魔法小銃に持ち替え、周辺にいた連隊の兵士数人がサポートに回る。
水帆が口を開くと、彼女が纏う雰囲気と周りの空気が瞬時に変わる。
「雷よ、私に力の一端を与えたまえ。これより繰り広げるは刑の執行。私の目の前にいる者全て、一つとして逃さず
水帆が詠唱を始めてから現れたのは巨大な青白い魔法陣。それは雷光を纏い、雷の火花が散っていた。
彼女が呪文の詠唱を終え、発動した瞬間は凄まじかった。
雷属性上級魔法『断頭落雷』。だが単発ではない。九発同時発動である。
その威力は上級魔法を凌駕し、戦術級魔法に達する。魔法陣から地に落ちた九つの
警察署付近にいたCT約二個大隊規模は一瞬にして黒焦げとなっていた。
一撃で拮抗状態が変わったことで、周りから歓声が響く。
水帆がCTの一群を屠ったことでさあ、前進の準備だとなった時だった。急にアラートが鳴り、直後に無線で慌てた声で知花の警告が入る。
『米原くん達の前方約一〇〇〇から高魔力反応検出! 反応なおも増大! 推定光属性光線系魔法!!』
「今度はなんなのよもう!」
「水帆、とにかく魔法障壁緊急多重展開だ!」
「言われなくたって!」
賢者の瞳のレーダーには法撃予測位置が赤色で示されている。直線上に横数メートルの範囲。典型的な光線系魔法のパターンだった。
『法撃予測、あと五秒!』
『孝弘、高崎、オレの魔法障壁をそっちに出す! やばかったら回避しろよ!』
孝弘と水帆は魔法障壁を多重展開していく。その上で大輝の魔法障壁も加わり、数は計一一枚。アルストルムで光属性光線系魔法といえばかなりの威力だった経験からの判断だった。背後には多数の兵士や兵器、構築中のバリケードもあるから孝弘達は避ける訳にはいかないという事情もあったが。
すぐ付近にいた連隊の兵士達は法撃範囲外に出るか、孝弘達の後ろに回る。自分の魔法障壁より一〇枚を越える魔法障壁の背後にいた方がよっぽど安全だからだ。
魔法障壁の展開、回避などしていれば五秒などあっという間。
知花の警告通り、五秒後に孝弘達の正面で何かが光った瞬間に光線系魔法が魔法障壁に衝突した。
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