第10話 竜王地区市街戦
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璃佳は大鎌を地面に突き立て、茜は左手のうち人差し指と中指だけを立てて呪文を口ずさんでいく。
「闇の底より現れるは、闇の底へと引き摺り下ろさんとする
璃佳が発動したのは上級闇魔法『地獄の黒手大群』。最前面にいたCTは突如として現れた漆黒の手の大群に捕まれ、身動き出来なくなる。それどころか、飲み込まれようとしていた。
続けて茜が平行して詠唱をしていく。
「儂の従者よ、狐の火達よ。
茜が発動した『狐火祭典』は古来より日本に存在する魔法、妖術の類で、現代のランクに当てはめると上級魔法にあたる魔法だった。
多数の狐火が現れると、CT目掛けて飛んでいく。命中したCTは自然発火したかの如くいきなり燃え、呪文通り塵さえ残さなかった。
二人の魔法によって討伐されたCTの数は約二五〇。たった二人で一気にその数を半減させたのである。
これこそが、璃佳が『一人一個連隊の鏖殺姫』と呼ばれる
「ざっと二、三〇〇あたりかな。ま、最初からかっ飛ばしまくるのも良くないしこんなもんでしょ」
「ぼちぼちじゃの。璃佳や、ここからは白兵かの?」
「そうだね。とりあえず前面にいたクソ共は消し飛ばしたし、さっきの打ち合わせ通りで」
「あいわかった」
「さー、お前達! 戦争の時間だぞ! 化け物共に風穴を開けろ! 吹きとばせ! 切り殺せ! 目標、竜王中心街! とっとと制圧するよ!」
『了解ッッ!』
璃佳の命令に、部隊員全体から雄叫びが上がる。
そこからは彼等も本領を発揮していった。
まずは数を減らす為に魔法小銃による小隊単位での斉射。
第二大隊による引き続きの航空法撃・銃撃支援。
瞬く間にCTは数を減らしていく。
しかしCTは数で押していく。本部中隊と第一大隊が前進する間も甲府方面より続々と新手が増えているからだ。
再び現れたCTは二個大隊規模。しかも大型CTが三十数体含まれていた。
「次から次へと本当に飽きないもんだね。」第二大隊、これから市街突入するから上からの支援を続行。手が空いてる分は周辺の突入する化け物を蹴散らせ」
『了解』
「んじゃ近接戦闘に移行しよっか。相対距離も約二五〇程度になってきたし、市街じゃ区画丸ごとぶっ飛ばすのも難しいからね。近接担当総員、
孝弘や璃佳を含む近接要員は吶喊準備へ。遠距離から法撃支援を行う水帆や知花は後方に、ゴーレムを動かしつつ防御支援を行い、自身もある程度近接戦をこなせる大輝は両者の真ん中の距離になるように陣形を変えていく。
そして。
「吶喊!!」
璃佳と茜を先頭にして、孝弘や近接要員は突撃を開始した。
CTは変わらず突撃を続行。ただし大型CTが前面に出始める。
「大輝! ゴーレムを!」
「任せとけ! お前の近くに三体つける!」
「助かる!」
孝弘が大輝の方に振り返って言うと、三体のゴーレムは「俺に任せろ」と言わんばかりに胸を叩いて孝弘の方に向かってくる。これで孝弘は俊敏な動きで食らいついてくるヘルハウンドや、弱いものの数が多い人型に集中出来るようになった。
まず接触したのは、璃佳や茜を追い越して大型CTへと向かった大輝のゴーレムだった。
甲冑のゴーレムは突進しながら鉄よりも固い魔法で組成した槍を発現させると、それを大型CTに一突き。見た目は土の槍だが強度は見た目を遥かに越える槍は、いとも容易く化け物を貫通した。槍を抜くと、絶命した大型CTを蹴っ飛ばし次に迫る大型CTを横薙ぎで首から上を真っ二つにする。
その隣に控えていたゴーレムは、掴みかかって来ようとした大型CTに対してカウンターと言わんばかりに拳を顔面に食らわせ、よろけた所を槍で両断した。
その合間を縫って、孝弘は移動をする。
「大輝のゴーレムは乱戦でも本当に頼もしいな。じゃ、俺はヘルハウンドと人型を殺るか」
孝弘はゴーレムが相手にしにくい小型CTへと目標を定める。早速友軍兵士三人に迫ろうとするヘルハウンド型七体を発見する。人型を何体も相手していることから分が悪そうだった。
「風属性貫通型、
孝弘が短く唱えると、二丁の自動拳銃は緑白色に淡く光る。
「ショット」
兵士達の間に入り、すかさず射撃を開始する孝弘。速度に優れるヘルハウンド型も孝弘の正確無比な射撃に一匹残らず風穴を開けられ倒れることになる。
「助かりました!」
「感謝します!」
「気にしないで。属性変更。無属性魔力弾、射撃」
連隊兵士が倒した先から現れる人型CTを三体、それぞれ孝弘は一体一発で仕留めていく。
「さらに後方、人型十五体。来るよ」
「了解!」
『注意。法撃者高崎水帆。あなたがロックした対象へ照準をロックしました』
「あっ、ごめん訂正。あれすぐに水帆が消し飛ばすみたいだ」
「分かりました! 別に照準を変えます」
「よろしく。俺は別のとこにいくから」
孝弘が言った直後、一五体の人型CTは水帆の火属性魔法で焼かれた。この早さだと短縮詠唱だろうなと思いつつ、孝弘はさらに前方に向かっていく。
そこでは璃佳と茜が大暴れしていた。
「どうしたバケモン共! その程度なのかな? 所詮は雑魚かぁ?!」
「儂の前に平伏せ有象無象共め」
「うっわ、すっごいな。七条大佐は大鎌でばっさばっさと斬っていくし、召喚された茜だっけか。持ってる日本刀って妖刀の類だよなあ」
「おっ、米原少佐じゃん! 悪いけど私から二時半方向の友軍の援護よろしく! 後方からさらに約三〇、ごめん三五! 計五〇でヘルハウンド混じりは一個分隊だとちょっと良くないかも!」
「了解しました! 知花、ごめん。手空いてる? 俺から見て一時方向、味方の先にいる約五〇捕捉。
『分かったよ!』
孝弘が約一五〇メートル先の友軍分隊へ援護に向かう途中、頭上に十数の光属性の矢が飛んでいく。それらは確実にCTを捉え射殺した。
「米原少佐! 助かります!」
「七条大佐からの要請だから。礼は七条大佐にね」
「はっ!」
分隊長は短く礼を言うと法撃を続ける。
「後方のヘルハウンドは面倒だね。ロックオン。属性変更無し」
『ヘルハウンド型、六体ロック』
「ショット」
魔力がこもった銃弾はヘルハウンドを貫通せず、命中した瞬間に爆発する。残りは人型だけとなる。
ここからは孝弘は近距離戦に移行。途中マガジン交換をするが、絶妙な援護を分隊員はしてくれていた。
「これでおおよそ片付いたかな。転戦するよ。よろしく」
「ありがとうございました!」
孝弘は手を振って応え、また別の場所へ。
彼は璃佳より個人で動き各地の援護と自由撃破を命じてられているので、時に璃佳や茜と合流したり、熊川と合流したりして、CTを穿っていく。
途中、残弾が心許なくなる頃には、
『孝弘、そろそろマガジンが少なくなるだろ、スイッチして上がってきた俺のゴーレムに持たせたから受け取れ!』
「ありがとう大輝!」
というやり取りも行い、ゴーレムからマガジンが入った袋を受け取ると味方の兵士の援護を受けながらマガジンポケットに入れていく。
璃佳が大鎌で薙ぎ払い、茜が狐火で燃やし。
大輝のゴーレムが大型CTを斬り飛ばし、時には殴殺し。
密集地帯には水帆と知花の法撃。
連隊員の射撃、法撃、近接戦。
数十分もすれば、流石にCTの戦線にも大きな穴が開き始める。
そこへやってきたのが、後方からやってきた陸軍部隊と装甲車両部隊。適宜航空支援も行われる。
圧倒的な火力と魔法火力。
そうして昼前には竜王駅周辺の中心街区は友軍部隊の勢力下となった。
作戦の第一段階は見事成功したのである。
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