第9話 大輝と璃佳の召喚魔法、璃佳が喚ぶは空狐『茜』
・・9・・
午前七時前
山梨県甲斐市塩崎駅近く
ショッピングモール付近
作戦開始から中央高地方面軍は、前段作戦として航空攻撃による大規模な火力を塩崎・竜王、御勅使川南岸地域に注ぎ込んでいた。
戦闘機による対地爆弾攻撃や機関砲攻撃、ヘリによるミサイル攻撃や機関砲攻撃など、かつては住宅地だった部分を更地に変えんが如く鉄の火を叩き込む。
飛行魔法による航空攻撃及び地上支援を担当する第一特務連隊第二大隊も同様だった。
携行する軽機関銃による射撃だけでなく魔法による法撃で、各部隊が進出する地点の敵を予め叩いていく。
これらの攻撃であまりCTのいなかった塩崎方面や、御勅使川南岸方面はかなりの数を駆逐。竜王方面にも一定の損害を与えていた。
航空部隊及び魔法航空部隊の活躍もあり、最前方を任されている第一特務連隊地上部隊はあっさりと塩崎方面を奪還。
駅近くのショッピングモールに早速前哨拠点を設置していた。
「いやぁ、航空戦力様々だったね。ここまでは私達の仕事はほとんど無かったもん。熊川少佐、連隊の損害は?」
「航空部隊の第二大隊も含めて軽傷三ですがかすり傷程度です。塩崎方面のCTは元々一個大隊程度。それも友軍の支援で大抵吹っ飛びましたから当然の結果かと。ただ、ここからが本番ですね。作戦開始直後から敵側が勘づいて集結しつつあります」
「じゃあ早々に進発。拠点構築部隊と護衛部隊を残して移動開始だよ。でもその前に、川島少佐と私はアレの準備が必要だね」
「そうっすね。竜王での戦闘中に時間のかかる召喚魔法を詠唱するのは避けたいんで、ここで召喚を済ませましょう」
「そゆこと。私は準備するから先に川島少佐よろしく」
「了解しました」
召喚魔法は召喚する数と召喚する個体のランクによって左右されるが、詠唱と発現に時間がかかる。よって、やむを得ない場合を除いて召喚魔法は基本的に戦闘前に行われるのである。璃佳と大輝が竜王地区で本格的な戦闘に入る前にここで召喚を行うのもその為だ。
召喚士たる大輝は作戦前に受け取った召喚符を五枚取り出すと、数メートル間隔に浮遊させた後に詠唱を始めた。
「主たる我が命ずる。我を守らんが為、友を守らんが為、国を守らんが為。巨躯は敵に拳を下ろし、その体躯で盾とならん。その力を存分に振るえ。今ここに、顕現するは土人形。『
大輝が詠唱を終えると、召喚符を中心に土が構成されていく。
現れたのは、全長三メートルの甲冑を身にまとった
周りにいた連隊の将兵達は、おお! と歓声を上げる。
「っとまあ、俺のはこんなもんですわ。ゴーレム達、頼むぜ?」
大輝がゴーレム達に言うと、彼等(?)は頷き地面を脚で叩くことで答える。威容を感じられる光景だった。
「三メートル級のゴーレムは中々に凄いねえ。しかも五体。これで全力じゃないんでしょ?」
「はい、七条大佐。最大でならもうあと五体いけますよ。今回はひとまずこんだけです」
「いいねえいいねえ。じゃ、私も張り切りますか」
璃佳は軽い口調で言ったが、大鎌を地面に突き立てて魔法陣を展開させた途端に雰囲気が変わる。
詠唱を始めた声は、とても澄んで綺麗だった。
「伏見の地よ。伏見の稲荷の神よ。我に力の一端を与え給え。我の魔力を糧に、
璃佳が詠唱を終えると、魔法陣は眩い程に光り輝く。
光が収まると、現れたのは和装の女性だった。ただし和装と言えども着ているものは大正時代の女性が着用していた部類の袴である。
身長は璃佳より大きく、一六〇センチ程度。白い狐を思わせ神々しさを感じる白髪の頭には狐の耳があった。
何より特徴的なのは腰辺りから伸びる狐の尾。九尾の狐のように九本はないものの、その数は七本。感じられる魔力は尋常ではなく、召喚された者の位の高さをひしひしと感じられる。
この光景を見て、今度は孝弘達が驚いた。明らかに上級召喚魔法を越えている。戦術級に匹敵するだろう。戦術級ともなれば大量の魔力を消費するのだが、璃佳は平然としていた。璃佳が日本で最も魔力を持つ能力者であることを感じる瞬間であった。
顕現した空狐『茜』は瞼を開けると深紅の瞳が露になる。
そして璃佳の方を見ると、『茜』は璃佳を抱きしめた。
『え????』
「喚ばれてみれば璃佳ではないか! 人の時の物差しで言えば久しぶりじゃのう!」
「く、苦しい……。苦しいって茜……」
「む、すまぬの。――空狐『茜』。七条直系の血筋、次期筆頭後継が七条璃佳に
唖然としている孝弘達をよそに、久方振りに親戚の子にあったかのように振る舞う空狐『茜』。連隊員達の様子を見るに、既に知っていて慣れている様子であった。
「ありがとう、茜。かなり大規模な戦でね。貴女の力を貸してちょうだい」
「良い良い。儂は昔も昔より七条と契約を交わしておる。この度に貰うた魔力も美味じゃったし、魔力分を少々越える程度であれば働いてやろうぞ」
顔を綻ばせながら璃佳に言う茜。
対して孝弘達は開いた口が塞がらない。特に同業種の大輝に至っては、
「く、空狐だって……? おいおいマジかよ……。妖狐でも三番目。神に近い存在っていうか、ほとんど神様みたいなもんだぜ……?」
「む……? そちらは見ぬ顔じゃの。璃佳、あやつらは? 相当な
「新しい部下だよ、茜。全員Sランクだから、私と同じ位にあるの」
「ほう。それはそれは頼もしいのう。儂は『茜』じゃ。今後も会うかもしれぬからの。よろしく頼むぞ?」
「よ、よろしくお願いします」
茜の挨拶に孝弘は思わず敬語で返す。三人も同様だった。自身の召喚ゴーレムを賞賛された大輝は放心状態だったが。
「さ、召喚も終わったしそろそろ進発するよ。川島少佐、良かったね。『茜』がここまで召喚術士を褒めることは無いよ」
「うす……」
やっと我に返った大輝は身がひきしまる思いで返答する。
召喚の際にちょっとしたハプニングがあったが、すぐに気を取り直した孝弘達は璃佳達と竜王に向けて進発する。
加速魔法で時速約四〇キロで中央線と中央高速道の間を走っていく。大輝のゴーレムもこの程度の時速なら難なくついていけていた。
途中まで大してCTはいなかったものの、さすがに赤坂台総合公園を越えようとした頃になると雰囲気が変わってきた。
「CTの一団、目視で確認! 数は推定二個大隊規模で約一〇〇〇! 距離約一一〇〇!」
連隊員からの報告が入ると、視界にCTが現れた。富士・富士宮でも確認されたタイプで、一部大型CTも確認できた。
「熊川、中隊統制法撃用意! 距離約六〇〇。属性、中級爆発系火属性!」
「了解! 中隊統制法撃よぉぉい!!」
連隊本部中隊は一旦停止し、CTの集団を迎え撃とうとする。
素早い動きで法撃の準備がなされていき、孝弘達も慣れた様子で詠唱に。
距離約九〇〇の時点で賢者の瞳によるロックオンは終了。
そして、距離約六〇〇。
「撃て」
「中隊統制法撃始めッ!」
中隊統制法撃が行われた。右側方にいた第一大隊も中隊に合わせて統制法撃を始めた。
爆発系火属性の魔法はCTの集団に直撃。多数のCTが吹き飛び肉片へと変わる。
バケモノ達の数は約七五〇まで減るが、前進は止まるはずがない。
「続けて中隊統制法撃用意。距離約四〇〇」
「了解。次法撃用意。距離約四〇〇で始めろ!」
『了解!』
次の法撃までに第二大隊の航空支援法撃が行われるが、CTの前進速度が落ちた程度だった。どうやらCTは続々と増えているらしい。
「CT目視数再び増加傾向。いつものことですね」
「これだから化け物共は困るよね、熊川。新潟で散々慣れたけどさ。さ、距離約四五〇だよ」
「了解。距離約四五〇…………、四〇〇。第二射、放て!」
続けて第二射の法撃。魔法火力を叩き込んでいく。その後も二度法撃を行うが、第二大隊の航空法撃支援があっても約五五〇を残すこととなった。既に一個大隊近くのCTが吹き飛んだはずなのに、明らかに二個大隊規模から増加傾向にあった。これだけ派手な戦闘を行えば仕方ないだろう。
璃佳はいっちょ本領発揮といくか、と呟くと。
「私と茜で同時法撃を行う。その後も数が減らないから一度近接戦闘。後方支援射撃及び法撃と、近接戦闘に別れていつも通りやるよ!」
『了解!!』
「茜、四人に私達の実力の一部を見せてあげよ。補給があるといっても部隊全体の魔力と弾薬もなるべく残しておきたいし」
「うむ。儂の力、発揮させてもらおうかの」
璃佳と茜が会話を交わし終えた瞬間、二人からにじみ出る魔力量がどっと増えた。
この後、孝弘達は璃佳の真の実力を垣間見ることとなるのだった。
そうして、璃佳と茜は詠唱を始めた。
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