成績やコンクールの結果を競い合うふたりの小学生、くりすさんとのえるさんの学校での日々のお話。
百合です。あるいは、少女ふたりの友情と成長を描いた物語。なにより特徴的、というか読み始めてすぐに注意を引かれるのは、やはり主人公をはじめとした登場人物たちの年齢。小学生。おそらくは高学年かと思われますが、とにかく完全に子供の物語であるところです。
小学校、すなわち子供だけの社会を舞台に、完全に子供の視点のみを通じて描き出された世界。ついつい牧歌的な風景を投影しがちなその光景の中、でも描かれているのは主人公・くりすさんの等身大の葛藤です。そもそもにしてタイトルからしてもう「きらいなあの子」で、つまりお話の筋そのものは結構シビアというか、ゴリゴリのシリアスな人間ドラマです。少なくとも第三者的立場の大人が勝手に見出したがるような、呑気な「きゃっきゃうふふ」みたいな何かはほとんどない、その姿勢に頼もしさのようなものを感じました。彼女たちにとってもまた読者にとっても、これは決して都合のいい世界ではないのだということ。
物語の核、と言いますか、書かれているものは非常にシンプルで、これは劣等感と嫉妬のお話です。きっと誰にでも、それこそ大人にもある(というか大人にこそ合う)醜い感情。まだ確立したばかりの小さな自我に、おそらくは初めて芽生えたであろうそれを、でも必死で乗りこなそうとする主人公の姿。立派というかなんというか、普通に舌を撒きました。えっこの子わたしより大人なのでは……? いや本当にすごい子だと思うのですけれど、でもそれだけに本当にやりきれない。
だってこのお話、誰も悪いことはしていないんです。嫉妬心をうまく制御する主人公含め、劣等感の対象である天才少女のえるさんも、また他のクラスメイトたちも。どこにも、本当に誰ひとり、悪い奴どころか間違った子すらいないのに、でも彼女の大事な日常が崩れていく。当たり前に持っていたものをひとつひとつ、剥がされるみたいにして全部奪われていって、その痛みとハラハラ感が身に迫るかのようでした。不穏さ、というか、いつか主人公が爆発してしまうんじゃないかという不安。
だからこそ辿り着いた中盤の山場、もう本当にほっとしました。焼却炉前、ふたりが直接交わした対話。どうしてもネタバレになってしまうんですけど、最後まで悪いことや嫌な方に傾かず、しっかり耐えて歩き通してくれた。劣等感を乗り越えた先の友情。いや友情なんて言葉では収まりきらないというか、このくりすとのえるだからこその、他に替えのきかない特別な感情。
素敵でした。いがみ合い、そして認め合うふたりの物語。子供の物語ながらも可愛らしいばかりではない、まっすぐな真剣さを感じる作品でした。最初の一行と最後の一行が好きです。