灰となった新宿にて
キリン🐘
少年の手記
テロリスト集団の一員だったと思われる少年の手記が見つかった。
内容は以下の通りである。
三月十五日
人を殺した。
光線銃で一発、ズドンだ。
だけど、俺は間違っていない。
死んで当然だったよ。
あんな、クソ野郎。
四月七日
チヒロが大泣きして大変だった。
わがままも言わずに家のことを手伝ってくれるデキた妹だったが……、
無理がたたって体調を崩したみたいだ。
今はふっと緊張の糸が切れたみたいに眠り込んでいる。
こいつが、安心して暮らせる世の中に、しないとな。
五月十一日
また、人を殺した。
これは、世の中を変えるために必要なことだ。
だけど……、少しずつ、人を殺す感覚に慣れつつある。
俺はこのまま、人を殺すことに何も思わなくなるのだろうか。
怖い。
五月十三日
タカムラさんは言っていた。
俺たちのことを利用しようとする、悪い大人がいるらしい。
利用なんてされてたまるか。
俺は、自分の信念だけに従って生きる。
誰の指図も受けない。
五月十七日
今日は、チヒロの誕生日。
ネックレスを買ってあげた。
綺麗に磨かれた鉄製の輪を紐に通しただけの簡素なものだったが、
チヒロは今までにないくらい大喜びしていた。
この笑顔が見られるなら……。
兄ちゃん、何だって出来る気がするよ。
七月二十一日
夢を見た。
母さんと妹と俺で、食卓を囲んで腹いっぱい麦を食ってる夢。
みんな、待っててくれ。
もうすぐ、悪いやつらを倒すから。
もうすぐ、村を食いもんと笑顔でいっぱいにしてやるからよ。
七月二十二日
自警団のアジトがバレた。
仲間がつけられていたらしい。
母さん、チヒロ、ごめん。ここを離れて東京に行かなくちゃいけない。
でも安心して、すぐに戻ってくる。
だから……、部屋はなるべくそのままにしておいてほしいな。
八月二日
東京に着いた。
どこを見ても、瓦礫の山。山。山。
昔、家族みんなで来たことあったっけ。
あの時は、真新しい高層ビルが、あたり一帯に立ち並んでいた。
また、あの時みたいにみんなで楽しく暮らせるといいな。
それまでは、俺も頑張らないとな。
八月二十八日
東京に来て初めての仕事。
護送車の襲撃。
混乱に乗じて、ズドン。
また一歩、平和に近づいた。
ヤツら、怯えた顔をしていた。
ざまあみろ。
十月四日
地元に残っていたシュウタから封筒が送られて来た。
村が、爆撃されたらしい。
一帯が跡形もなく吹き飛んだみたいだった。
生存者はシュウタと、ほか何人かだけ。そこに、俺の家族はいなかった。
母さん、チヒロごめん。俺は、何もしてやれなかった。
……俺には、もう帰るところがない。
封筒の中には、歪んだ鉄の輪っかが入っていた。
十月二十五日
人を殺した。
後何人殺せばいいのか、わからない。
でも、やるしかない。
世界をこんなにしたクソ野郎、ぶっ飛ばさないと母さんとチヒロが報われない。
十二月二十四日
仲間が殺された。
悲鳴のしたほうへ行くと、タカムラさんがいた。
タカムラさんは俺に銃口を向けて言った。
一言、「見られたか」と。
俺は、足がすくんで動けなかった。
それ以来、タカムラさんは行方をくらませた。
二月二十二日
ラジオで聞いた。
俺たちはテロリストらしい。
みんなのためを思って、みんなのためにやってきたことが、
本当にテロ行為だったとするなら。
俺は今まで何をやっていたのだろう。
俺は、家族を失ってまで、何をしているのだろ。
三月二十七日
俺は自警団を抜けた。
抜け出した、というほうが正しいかもしれない。
どうしてもあいつを問いただしたくて。
タカムラ、さん
●月●日
俺はもうすぐ死ぬ。
腹から、命が流れ出てるのを感じる。
タカムラは、あいつは人の皮を被った悪魔だったんだ。
母さん、とんでもない親不孝者だったよな。ごめん。
チヒロ、育ち盛りのお前に、あまりかまってやれなくて、ごめん。
天国で会えるかな。
会えないかもしれない。
俺は、テロリスト、だからな。
でも、会えるといいな。
――五月二十日 灰となった新宿にて
灰となった新宿にて キリン🐘 @okurase-kopa
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