第2話 パパと過ごす一日。
目が覚めると、ふかふかなベッドの上だった。肌触りだけでもこの布団が高級だという事が伝わってくる。
はっきりとした頭脳で昨日の事を思い出した。そう、自分は魔王リュガワールの息子、魔王子リュトワールとして生まれ変わってしまったのだ。そして、今は魔王が提案した賭けの途中。
思考している間にも、リュガの大きな手がリュトの小さな体を包み込んで、そのぬくもりが伝わってくる。目の前で寝ているのは、父親としての彼だ。
(魔王にも温かさはあるんだ……)
そんな事を思い浮かべると、一度覚醒したはずの意識が再び夢の中に沈んでいく。
時間の確認をしようとなんとか目を開こうとするが、眠気が勝った。
リュトはすやすやと寝息を立てる。入れ違うようにリュガが起きたが、こちらもまだ寝たいと目を閉じる。それから一時間ほど経って、メイドに起こされ二人は同時に目を覚ます。
こうして朝は訪れた。親と子はベッドの直ぐそばの机に座り、メイドが朝食を運んでくるのを待つ。その間、リュトはリュガになでなでされ続けていた。
「パパ?」
「んー」
「なんでそんなに撫でるの……?」
「子供はこうすると喜ぶと聞いたのだが」
リュガがそう呟く。
確かに、撫でてもらうのはとても気持ちがいい。こくりと頷くと、その意図は伝わったみたいで、リュガは「そうか」と微笑んだ。
少し待っていると、メイドが朝ご飯を持ってきた。ほくほくのパンとスープだ。パンは自分が食べてきたものと大差ない気がするが、スープは違うものを感じる。見た目はトマトスープのように見えなくもないが、さらさらとしており、そして中央には半熟卵が一個丸まる浮かんでいる。それだけならいいのだが、放たれる雰囲気が異彩だ。
「い、いただきます」
ゆっくり口を付け、まずは一口飲んでみる。
「……おいしい」
意外だった。
このさらさらとした赤色のスープ、ほのかに辛味があるが子どもの舌が拒絶するほどではなく、中の卵も絡まってマイルドに味を和ませている。
「だろ? 俺、昔っからこれ好きなんだ」
「そうなんだ」
パンと一緒にスープを飲む。これは……頬が落ちそうだ。魔族の料理がこんなに美味しいとは。感動しながら朝ご飯を平らげ、リュトはごちそうさまでしたと手を合わせる。
朝ご飯を食べ終わると、リュガは仕事に向かうかと思ったが今日は休みをとっているらしい。育休というやつか。
子育て経験のある家臣が選んできたおもちゃで、リュガが遊んでくれる。といっても中身は結構成長した少年だ。こんな小さな子どもが遊ぶようなおもちゃは少し、いや、かなり恥ずかしい。
まあしかし、案外楽しいかもしれない。もしかしたら精神も子どもになってきているのかもと心配したが、あまり気にしないことにした。
「リュト、お前はどういうおもちゃが好きだ?」
リュガのその問いに、リュトは少し考えてから答える。
「つみきとか」
リュトの視線の先には、つみきのようなおもちゃがある。
「ほう、つまりこういうのだな。わかった色々な種類があるらしいから、手配しておこう」
「ありがとう、パパ」
リュトは気付いていないかもしれない。ありがとうといったその表情が、無邪気な子どもそのものだったことを。
そしてこの時、リュガは初めて気づいた。
「パパ、見て」
「んー?」
「お城!」
無邪気な笑顔で見せてきた積み木の城。
元勇者である息子には積み木の才能があると。
「す、すごいな。ちょっと写真撮るから崩すなよ」
急いでカメラを構え、息子と息子が作った城を画面に収める。
メイドが子育て途中はカメラを身から離すなと言っていたが、こういう事かと納得した。
と、しばらく息子とのオモチャ遊びをしていた際にカメラの残り量領を使い果たした事に気付いたリュガは、もっといいのを買おうと決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます