第3話 何日目かの朝。
自分の体だが、まだ一人で満足に歩けないようだ。移動するには、リュガに抱っこしてもらわないといけない。
ただ、その度に魔王の事を「パパ」と呼び「抱っこして」とねだるのは少々恥ずかしい。中身はある程度大きくなった少年なのだ。
お風呂に入れてもらう時も魔王と一緒だし、寝るときも隣にいる。それは本当の親子みたいに。
(皆、僕の事どう思っているんだろ。勇者として期待されてたのに、開始早々に殺されて……魔王の子供になって……)
まだ出会ったばかりの仲間は失望してしまっただろうか。把握しようもない事を不安に思い、リュトはベッドの上で丸まっている。隣では魔王が眠っている。
数年後、自分が大きくなった時。聖剣を手にして魔王の首を取るのは、おそらくこの寝ているタイミングが良いのだろう。決闘と言っていたが、無駄に命をかけたくない。
しかし、殺せるだろうか。
まだ息子となって数日しか経ってないのに、そんな勇者らしからぬ不安があった。
リュガが酷い親だったら難なく殺せただろう。だが、リュガは美味しいものを食べさせてくれるし、うまく仕事と子育てを両立している。リュトからしたら、百点の親だ。
(いや、殺さないと……僕は、勇者なんだ)
リュガの首に手を当て、そう考える。普通の剣で斬ったとてこの身体は直ぐに再生する。
「ん……どうした、リュト。怖い夢でも見たのか?」
触られた事に気付いたようで、その手を取り微笑む。
リュトは慌てて視線を外した。
「あ、いや。なんでも……」
するとリュガは、リュトの体を抱き寄せ背中をぽんんぽんとする。怖い夢を見たと勘違いしているようだ。
「おやすみ、リュト」
いつか殺さねばならないその優しい笑みから目を逸らし、リュトは眠りにつく。月明かりが部屋には入り込んでいた。
差し込む光が月明かりから朝日に変わった頃、メイドの一人が部屋の中に現れた。朝を告げるためだ。
「魔王様、王子様、朝でございます」
「あぁ、うん……リュト、起きろ」
先にリュガが目覚め、リュトを揺らす。
リュトは「んぅ」と唸り、目を薄く開けた。
寝起きの中、真っ先に自分の空腹に気付くリュト。目をこすりながら、子どもよのうに一言だけ漏らす。
「ごはん……」
「はい、只今お持ちしますね王子様」
メイドがにこりと微笑み、部屋を後にする。その後、リュガに抱えられ、子ども用の椅子に座らせられた。ベッドの少し離れた所には、小さめのテーブルがあり朝食はここで食べている。
すぐにメイドが持ってきたご飯を食べる。この前まではパンだったが今日はご飯のようだ。
パンは手掴みだったから普通に食べられたが、箸を使うのは一苦労だ。人間と大差あるように見えないこの身体だが、いざ扱おうとすると勝手が違うような。
あせあせしていると、見かねたリュガが食べさせてくれた。
久しぶりの白米、とても美味しかった。
今日のリュガは仕事がある。朝ご飯を食べるとすぐに身支度をし出て行った。その間リュトは部屋でメイドと遊んでいる。
仕事部屋で、たまった書類の山の前で顔をしかめる魔王。王子が生まれた事で世間は大騒ぎだ。しかし、それが勇者の生まれ変わりで、とある賭けをしていると知っているには一部の城ののみ。部屋の隅で大人しく立っているリュガの側近が、その一人だ。
リュガがため息をついた時、側近が声を掛けてきた。
「魔王様、よろしかったのですか?」
「何がだ?」
突然切り出された話。なんのことだと首を傾げると、側近はリュガに視線をやった。
「リュト様との、元勇者との賭けの話です」
「あぁ」
真剣な表情の側近から、一度目を逸らす。何を言われるか、大体察してしまったのだ。
「魔王様は昔っから、一度愛着を持つと手放せない性格でした。視察用のカメラも、一日で全部息子に使ってしまわれたではないですか」
「中身が勇者である息子と数年の時を一緒に過ごして……きたる時に彼を殺せるのですか?」
相変わらず顔に出ない者だ。しかし、長年一緒にいるおかげで、側近のうちに沸く感情は直ぐに分かった。
今は、イエスともノーとも、断言はできない。
「さぁな」
「さぁなって」
「安心しろジャズ。俺が死んでも苦労しないようにしておくから」
「まず死なないでくださいませ」
なんとも切実な言葉だ。
そう遠くないであろう未来を想い、魔王であるリュガは目を瞑った。
この先どうなることやら。そんなのリュガが一番訊きたい。初めての子育て、その相手は元勇者だ。
魔王子転生 物語創作者□紅創花優雷 @kuresouka
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