第328話 ハリウッドの愚か者

「夢の話、聞いてくれる?」

  「どんな夢?」

「ハリウッドスターの夢」

  「へー」


・・・

ここは、

ハリウッドスターの豪邸。


俳優のジョッシュは、彼女とティータイム。


呑んでたのは日本茶だ。


二人は日本文化のファンであった。


そこに、

ジョッシュの付き人が来客を知らせに来た。


「あなたのファンが来ておられます」

  「誰?」

「知らない日本人です」


面会すると、相手は「井上」と名乗った。


しどろもどろの英語だった。


それでジョッシュは告げた。


「日本語わかります」

「どうぞ日本語で」


すると井上の顔が明るくなり

こう言った。


「私はアメリカに来た初日に、夢を見たのです」


「私が大好きな、あなたの夢でした」


「夢の中の声は言いました」

「『知らせに行け』と」


ここから井上の顔が暗くなり、小声で言った。


「あなたはやがて、檻に入るでしょう」

「これは、私の神である『岩』からの伝言です」

  「神が岩なの?」

「そうです」

「岩の『い』が創造主の名前です」

  「ホント?」


井上はしばらく間をおいて、

ジョッシュに訪ねた。


「あの島に行ったのですか?」

  「行ったよ」


しかしジョッシュは、渡航の船上で胃が痛くなり、特別なはからいで引き返す船に乗り移ったと教えた。


それを聞くと、井上の顔が明るく輝いた。


ジョッシュは付け加えた。


  「奇妙だったよ」

  「健康な私なのに」



会話が終わり、井上が帰った後・・・一時間も経たないうちに突如、捜査員が流れ込んで来た。


10人はいただろうか。


彼らのリーダーが叫んだ。


「あなたはエプスタイン島へ行っただろう?」


誰かの声が、後ろから聞こえた。


  「愚か者!」


声も出ないジョッシュに向かってリーダーは続けた。


「連行する!」

「彼女と一緒に来い!」


広大な外庭に出ると、後ろからの声。


「あそこまで急げ!」


遥か彼方に、護送車が見えた。


ジョッシュと彼女はそこまで、芝生の上を走らされた。


ジョッシュの心がぐるぐる回っていた。


「そうだったのか」


日本の神は「い」・・・


それが本物の創造主・・・


走りながら、彼は大声で叫んだ。


青い空を見つめて・・・


「偉大なる岩の神」

「あなたに感謝します」


後ろから来る捜査員は、声が聞こえていたが、「演技をしているのか」とは言わなかった。


ジョッシュは元々、役者だから・・・


その後、

「ハリウッドの愚か者」がどうなったかを、知る人は誰もいない。


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