第5話 鬼風による国家滅亡

「みんな少し過激じゃないのか?」

  「売国奴~!」

  「お前もお国のために働け」


戦争前夜の日本は、

統率の鬼風(きふう)に靡いていた。


「お父さん、日本が少し変だね」

  「ほら、憲兵が来たぞ!」

  「一言もしゃべるな!」

    「ガチャガチャ」


腰にサーベルをぶら下げ、その音で睨みを効かす憲兵風。


あの頃の日本は、そんな国だった。


「もはや開戦しかない」

「神国の意地を見せてやれ!」


風は御前会議の中にまで吹き荒れ、

反対意見を出す者は飛び去った。


「逆らえば、非国民になる」


しかし、その中で一人だけ、反対を打ち出した人がいた。


昭和天皇だ。


開戦の承認書類が天皇の前に置かれたが、彼は膝の上に置いた手を握りしめて押印を拒否。


そこで部下たちが、無理矢理判子を握らせて押したという。



元々、昭和天皇は陸軍の大陸進出に反対していた。


「大陸には出るな」


ところが、その声は広まらず、軍の先端部が勝手な動きをしてしまう。


陸軍は、大陸での拡大を続けた。


こんな声が聞こえて来る。


「戦争に巻き込まれてやろう・・・と思っておりました」


なぜ?


→ 「鬼の風」だ


これに身を晒すと、いつの間にか危険に踏み込む人になる。


だから嵐を予感したら、いち早く「避難所」に入ること。




  ■「避難所」とは?


伊勢に「女夫岩」があるように、

日本の神は古来、「岩」を象徴とする。


聖書にも、こう書かれている。


→ 「神は岩である」


「鬼風」の時期、神の民は大挙して「岩陰」に隠れるべきなのだ。


しかし、昭和天皇を取り巻く大臣たちは心を風に晒していた。


「鬼畜米英」を相手とする日本が「鬼畜」と化していた。


勇ましい気風が国民を酔わせたあの頃の日本は、戦争による大規模な犠牲を鬼神に捧げる方向へと靡いていたのだ。


風は世界を包んで、あらゆる正論を吹き飛ばしていた。


ここまで来れば、個人の発言も無力。


岩陰に入り、自分の身を守ることだけが策である。



  ■天皇はなぜ残されたのか


占領軍を率いて日本に降り立ったのは「ダグラス・マッカーサー」元帥。


彼は当初、敵意に燃えていた。


米国本土で「天皇処刑」の声が大きく、彼はそれに逆らう意思を持っていなかった。


ある日、占領軍司令部を昭和天皇が訪れる。


「来たか」

「命乞いだな」


ソファーにふんぞり返っていたマッカーサーは、土下座を待っていたのかも知れない。


通訳だけ連れた昭和天皇は、部屋に通されるとこう言った。


「すべては私の責任だ」

「どのような処分も受ける」

「ただ、国民や部下を助けて欲しい」


仰天したマッカーサー。

まっ逆さまに落ちて、頭を打った。


「なんという人だ」

「このような指導者は見た事がない」


衝撃を受けた彼の心境は、出版された回顧録や、天皇とのツーショット写真に残されている。


最初とは打って変わったその態度。

丁重に出口までお見送りをした。


天皇の一言一句に真剣に向き合った彼の決意は


「一人の餓死者も出さない」

というものだ。


早速、本国に要望を送る。


「日本に食料を支援しろ」


もちろん、東京裁判で天皇の責任が議題にならぬよう、辣腕の部下を通じて画策した。


どうしてそこまで?


思い出そう。

昭和天皇が「岩陰」にいたことを。


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