第9話 悪魔の爪マレブランケ

「俺は騎士になるんだ! 騎士になって困っている人々を助けるんだ!」

 騎士カリスと出会ってからアリスは剣の代わりに棒を振り続けた。

「こら! 私のことも相手をしなさいよ!」

 構ってもらえないイリスは少し怒っていた。

「大好きなイリス! 俺は強い騎士になっておまえを守り抜く! だから俺と結婚してくれ!」

「それは断る。」

「ガーン!」

 決してイリスはアリスの求婚には良い返事をしない。

「ワッハッハー! またフラれていやがる。」

「修行して早く強くなることだな。」

 その場にはウリア神父と騎士のカリスもいた。

(まったく女心の分からない奴なんだから。)

 これがイリスがアリスに「はい。」と言わない理由である。アリスはプロポーズは二人きりでロマンチックに花束なんかを用意してしてほしいのだった。

「だいぶん棒を振るのは慣れてきたな。ここいらで剣を持ってみるか?」

 元が空っぽのアリスは努力をすれば成長は早かった。それを指導している騎士も実感していた。

「本当! やったー! これで俺も騎士の仲間入りだぜ!」

 アリスは自分が騎士に近づいていると喜んだ。

「受け取るがいい。」

 騎士が剣をアリスに差し出す。

「こ、これは!?」

「木剣だ。」

「木剣!? なんじゃそりゃ!?」

 騎士がアリスに差し出したのは木でできた剣だった。

「木の剣じゃなくて、本物の剣が欲しい!」

「ダメだ。まだ早すぎる。本物の剣は相手を斬りつけてしまう。木剣で修練を積み重ねて、もっと上手になったら本物の騎士の剣を持たしてやろう。」

「カリスのケチ。」

 不貞腐れるアリスであった。

「こうなったら! カリスに認めてもらえるくらいまで木の剣を振るまでだ! ダダダダダダダッダダダダダダダダッダダダダダダダッダダダダダダダダー!!!!!」

 新たに決意して騎士になるための修行をするアリス。

「どうですか? うちのアリスは騎士になれますか?」

 ウリヤ神父が騎士に尋ねてみた。

「なれますよ。アリスのように純粋に剣を振る人間を王都で見たことがない。きっとアリスは騎士どころか勇者にだってなれますよ。」

 騎士はアリスの剣の修行を努力する姿勢を高く評価し感心していた。

「勇者!? あのアリスが!?」

「将来が楽しみだ。ワッハッハー!」

 この会話をアリスは知らない。

(アリスはがんばっているもの。きっとアリスなら、なれるわ。勇者に!)

 イリスには神父と騎士の会話は聞こえていた。

「なんだよ!? 人が一生懸命に素振りしているのに、自分たちは立ち話で笑いやがって!?」

 まだまだ若いアリスは他人のことを自分勝手に考えてしまうのであった。

「アリス! 今度は上段、中段、下段の順で剣を振ってみろ!」

「はい! カリス師匠!」

 憧れの騎士様に剣を指導してもらっているアリスと師匠の騎士カリスは良い師弟関係であった。


「すいません。この辺りに国から派遣された立派な騎士様がいらっしゃると聞いたのですが、ご存知ですか?」

 アリスたちが帰った後に騎士の元に黒い人間が現れた。

「はい。国から派遣されてきた騎士とは私です。何か用ですか?」

「あなたの命を頂きます。」

「はい? 何を冗談を言っているんですか?」

 黒い人間は爪を伸ばしていく。

「なっ!? 爪が伸びた!?」

 その光景に恐怖するカリス。 

「何者だ!? おまえは!? に、人間じゃないな!?」

「ご名答。僕は悪魔です。」

 悪魔の爪を持つ悪魔マレブランケは爪で騎士を貫こうと突進する。

「早い!?」

 しかし騎士は近くに置いてあった盾を手に取り悪魔の攻撃を防ごうとする。

「カキーン!」

 案の定、悪魔の攻撃は盾で防がれた。

「どうだ? おまえの攻撃を防いだぞ!?」

「甘い。」

 次の瞬間、悪魔は爪で盾をぶつ切りに切り裂いた。

「なに!?」

 予期せぬ盾の崩壊に衝撃を受けるカリス。

「あなたがどんなに優秀な騎士であっても、剣を持つ前に殺してしまえばいいだけのことです。」

「卑怯な!?」

 騎士道精神を重んじるカリスは正々堂々とした戦いには強いが、今回の様な奇襲には弱い。

「はい。僕は悪魔ですから。」

 ニッコリと微笑む悪魔。

(なんなんだ!? こいつは!? 感情がおかしいのか!?)

 騎士は悪魔が理解できなかった。

「デビル・クロー! 騎士のぶつ切り!」

 騎士が着ている鎧ごと悪魔の爪がカリスをぶつ切りに切り裂いていく。

(アリス! 私の意思をおまえに託すぞ!)

 これが騎士が一番最後に願った思いだった。

「たわいもない。これが騎士ですか。もう少し歯ごたえが欲しかったですね。僕はいつまで教師狩りをすればいいんだろう?」

 悪魔も縦社会の中で最高位の魔王の命令に従っているだけに過ぎなかった。

「キラーン。」

 残されたのは使われることのなかった騎士の剣だけであった。

 つづく。

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