第7話 悪魔の爪マレブランケ

「アリスの奴、スライムに逃げられたんだって。」

「ガーン!」

「じゃあ、まだ最弱のままなのか? カッコ悪い。」

「ガーン!」

「アリスって有名人だよな。悪い意味で。」

「ガーン!」

「坊や、あんな大人にはなっちゃダメよ。」

「うん。大丈夫だよ。だって僕は石を投げたらスライムを倒したことあるよ。」

「ガーン!」

 道を歩くたびにアリスの耳には自分のことをいう陰口しか聞こえてこない。

「悪夢だ!? 俺はなにか悪い夢を見ているに違いない!? 本当の俺は柔らかい羽毛布団で寝てるんだ・・・・・・あはは。」

 現実逃避するアリス。

「おはよう! アリス!」

 そこにイリスが現れる。

「おお! まさに救いの女神! イリス! 大好き!」

 アリスは大好きなイリスに出会って下がったモチベーションが復活した。

「男女。」

「ガーン!」

「最弱。」

「ガーン!」

「ストーカー。」

「ガーン!」

 出た。イリスの必殺三段殺し。優しく笑みを浮かべながらイリスは冷たい言葉を言い放つ。

「さ、さ、最後のストーカーってなんだよ!?」

「そのままよ。だってアリスは私のことが大好きなんでしょ?」

「なら、いいじゃない。」

 ニコッと微笑むイリスの顔を見ていると幸せ過ぎて俺は何も言い返せない。それどころか世間の影愚痴なんてどうでもよくなった。

「大丈夫よ。どんなにアリスが変態でも私だけは側にいてあげるから。」

「ありがとう! 宜しくお願い致します・・・・・・って、誰が変態じゃい!?」

「アハッ!」

 笑って誤魔化すイリス。

「今度、オリス師匠に会ったら、もっと空手を教えてもらって、俺は強くなるんだ!」

 アリスはオリスと再会することを楽しみにしていた。


「あなた、空手を教えている先生ですね?」

 黒い人間が現れた。

「はい。ああ~、空手教室の申し込みの方ですか?」

 オリスの空手道場に。

「いいえ。違います。」

「では何のようでしょう?」

「あなたの命を頂きます。」

 黒い人間は悪魔だった。さっそく自慢の悪魔の爪を剣のように伸ばす。

「まさか!? おまえは巷で教師ばかりを襲っているという教師連続殺人の犯人か!?」

「はい。だが気づくのが襲い!」

 そう言うと悪魔はオリスを目掛けて突進する。

「苦しまないように一撃で終わらせてあげましょう!」

 悪魔は長い黒光りする爪を空手家の心臓に突き刺そうとする。

「空手家をなめるなよ!」

 オリスは必死に手を出す。

「なに!? 手を犠牲にしただと!?」

 オリスは片手の平に爪を貫通させることによって、悪魔の動きを封じ込める。

(人間とはなんなのだ?)

 悪魔からすると自己を犠牲にする人間の行動の意味が分からなかった。

「おまえなんか、片手あれば十分だ! くらえ! オリス10連正拳突き! ダダダダダダダダッダダダダダー!」

「ウギャアアアアア!?」

 オリスは片手で激しい連続パンチを悪魔に打ち込む。

「やったー! 連続殺人犯を倒したぞ! 空手は世界最強なんだ!」

 相手が動かなくなったので勝利に喜んだオリス。

「なんちゃって。」

 次の瞬間、悪魔は爪が刺さっていた方の手の平を切り裂いた。

「ウギャアアアアア!? 手、手が!?」

 地面に転がり消失した片手を痛がる。

「残念でしたね。せっかくの空手も片手では威力が半減です。」

 悪魔はほぼダメージを受けていなかった。

「こんな真似ができるなんて!? おまえ、人間じゃないな!?」

「はい。悪魔ですから。」

 質問には素直に答える悪魔。

「悪魔!?」

 人間ではない存在と聞いて衝撃を受けるオリス。

「僕はマレブランケ。」

「マレブランケ!?」

「悪魔の爪を持つ悪魔です。」

 教師連続殺人の犯人の正体は悪魔マレブランケであった。

「なぜ悪魔が教師を襲うんだ!?」

「簡単なことですよ。教師が生徒に戦い方を教えたら、もしかしたら新しい勇者が誕生しちゃうじゃないですか?」

「新しい勇者!?」

 悪魔の目的は新しい勇者の誕生を防ぐために教師ばかりを殺していたのだった。

(アリス。イリス。空手道場にやって来てくれた子供たち。もっと強くなってくれ。そして新しい勇者になってほしい。世界の未来を君たちに託す。)

 自然とオリスの胸に空手道場で空手を教えたたくさんの子供たちの顔が浮かんできた。まるで走馬灯のように。

「そうです。新しい勇者が誕生したら、僕は悪魔なので困っちゃいますよね。だから危険な芽は若い間に摘み取るというのが魔王様からの御命令です。」

「魔王だと!?」

 マレブランケは魔王の命令で教師を殺していたのだった。

「おっと、僕としたことが喋り過ぎたみたいです。それでは死んでください。デビル・クロー!」

「ギャアアアアー!?」

 オリスの断末魔の叫び声だけを残し場面はフェイドアウトしていく。

 つづく。

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