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 そういった経緯で私は汐世さんと同じように、維央さんの元で想い出図書館の手伝いをすることになりました。初めて想い出図書館にお世話になったのは十一歳の頃で、それから四年の月日が経ち例の事件が起こりました。

 以前話した通り、一週間ほど図書館にご厄介になったのです。

 十四で高等小学校を卒業し、父はまだ働き盛りだったのでいまだ手伝いの扱いではありましたが、いずれ家業を継ぐべく仕事中心の生活になって一年ほど経った頃でした。思えば、再びの反抗期だったのでしょう。

 詳細はもう忘れてしまいましたが、朝から父と諍いがあったのだと思います。鞄に本や着替えを詰めて行き先も告げず家を飛び出し、慣れた手順で想い出図書館へ向かいました。幼少の頃と直情的になった時の行動が変わらないのが、いかにも若輩ですね。お恥ずかしい限りです。

 ずっと父という重圧に耐えていたその頃の私には、図書館で過ごす時間はなくてはならないものになっていました。だからこそ真っ先に思い浮かんだ逃げ場所がそこだったのです。

「お願いします。二、三日ここに置いてもらってはくれませんか」

「おや、何かあったのですか」

 維央さんに私が事情を伝えると、快く二つ返事で了承してくれました。その時に私は彼からお茶の美味しい淹れ方とお菓子の作り方を教わりました。それが思った以上に面白く、数日だけのはずがもう少し、あと一日だけというやりとりを何度か続けてしまい、いつの間にか一週間が過ぎました。維央さんのその優しさに甘えてしまったのです。


 名残惜しくも暇を告げ元の場所へ戻った私は、久しぶりの家だと暢気に考えつつ家へ戻るため大通りを急ぎました。たまに倒壊した建物を見かけたように思いますが、その時点では不思議にも思いませんでした。すると道中に人だかりがあったのです。

 そこは町の中心部にある交番のはずでしたが、普段と違って異様な光景でした。壁一面になにやらびっしりと貼り紙が貼られているのです。近づいて見ると、それぞれがすべて消息のわからなくなった人の行方を尋ねるものでした。何事かと道行く人に問い質すと、三年前の大地震での尋ね人を貼りだしているのだ、今は大正十五年だというではないですか。それで私が家を飛び出した数時間後に震災が起こったらしいとわかりました。図書館での一週間の滞在が、こちらでは三年も経っていたのです。

 どうしてそんなに経ってしまったのだろう、と私は呆然と立ち尽くしました。私は家出をしたその日に戻れるものと思っていたのです。

 想い出図書館の扉が元の時間まで戻してくれるので、こちら側ではほとんど時間の経過はないはずでした。私が仕事を放って飛び出したのは事実なので、普段なら父の雷が落ちるくらいで済んだことでしょう。けれど三年も行方知れずとなれば話は別です。今更帰ったところで家の敷居を跨がせてもらえないかもしれません。

 立ち尽くす私を迷惑そうにしながらも、多くの人が次々と交番へ足を運び、残念そうに立ち去ってゆきます。いまだこんなにたくさんの人の行方がわからないのかと、途方もなく思えました。ふと、家がこの近所なのだから、私のことも心配して尋ね人の貼り紙を貼りだしているかもしれないと思い当たりました。しかし淡い期待を胸に探したところで、私の名前はついぞ見つかりませんでした。

 もう、見放されてしまったのでしょうか?けれどこれだけで判断してしまうのも時期尚早でしょう。私は逸る気持ちを抑えきれないまま、足早に家へ向かいました。

 程なくして狩野の家に到着し玄関の戸を引いて開けようとしたところ、間の悪いことに鍵がかかっておりました。何か用事があって家族で留守にしているのでしょう。けれど勝手口ならば開いているかもしれない、そう思いぐるりと裏にまわろうとして、途中庭に面した仏間がふと目に入りました。仏壇にはご先祖様の位牌や遺影が整然と並べられております。その中の目立つ場所に私の写真も置かれておりました。

 私の遺影でした。

 ああ、私はもう死んだことになっているのか。そう、ぼんやりと思いました。

 もっと愕然とするものと思っていましたが、先ほどので免疫がついたのでしょう。思ったよりも冷静でした。そして私が次に取った行動が、想い出図書館へとんぼ返りすることだったのです。

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