第五話 契約とむかしばなし

5-1

 朝晩と昼の寒暖差が身に染みる十一月の半ば。

 古咲ふるさき汐世しおせは、人知れず悩んでいた。

 普段から表情の変化に乏しくはあるが、よく顔を合わせる人が見ればおや、と思う程度には思いつめた顔つきで、汐世は図書館のドアを潜った。

 その悩みの種ははっきりしている。

 汐世がお盆に司書になると宣言してからしばらく経つというのに、いまだに頼鷹よりたかの口から一切、司書の話題がのぼることがなかったのだ。

 図書館へ向かうたびに、不安と焦燥が胸の内でちりちりと、少しずつ主張を大きくしていった。

 あたしが司書になるって言ったの、ほんとは頼鷹さん……迷惑だったのかな。

 自分からはっきり聞いたほうが良いのだろうかという逡巡、迷惑なんかじゃなくて、きっと話す時期を見計らってるんだという淡い期待。

 さまざまな感情がない交ぜになって汐世から言い出す勇気を奪い、結局季節も夏の盛りから秋、さらには冬の入り口へ移ろうまでになってしまった。

 けどやっぱ、はっきりさせとこう。

 誠意ある人だから、うやむやにして終わらせることはないと信じている。

 けれど、迷惑でなかったとしても、少し天然な面もあるから本気で忘れている可能性も否定できない。

 だから、聞かなきゃいけない。

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