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 店員におすすめを尋ねると「餃子定食」と言われたので迷わずそれを頼んだ。若者のおすすめも案外的を得ていたらしい。

 すぐに食欲を刺激する油を熱する音が厨房から聞こえ、しばらくしていい匂いとともに餃子定食と冷やし中華がテーブルに運ばれた。

「これが餃子」

 こんがりとしたきつね色の焼き目が見るからに美味しそうな餃子が、行儀よく六つ並んでいる。それにぴかぴかと輝くほかほかの白米、とろみの付いたかきたまの中華スープとお新香が添えられている。

 冷やし中華は麺が見えないほどたっぷりと具材が盛り付けられている。きゅうりに錦糸卵、チャーシューともやし。てっぺんには真っ赤な紅ショウガが盛られ、目にも鮮やかだ。練りからしも器の端にひっそりとあるのも心憎い。たれは王道の醤油ベースらしい。

 口々に「いただきます」と呟き箸を手にする。

 しかし頼鷹の手が止まって、定食と一緒に出された小皿を手にした。

「この小皿は何に使うのですか」

「そっか、わかんないよね。醤油のほかにお好みでラー油とお酢を入れて、餃子に付けて食べるの」

 頼鷹にテーブルに備え付けられていた調味料を示し汐世が答える。

「そうやって食べるのですね」

 頼鷹は納得してさっそく醤油を手に取った。

 汐世は器の端のからしを少し取り、たれに溶いていく。

 最初は見た目を崩さないよう混ぜずに食べる。ちぢれた中華麺に醤油ベースのたれがよく絡んで、それぞれの具材の食感も心地よかった。からしのつんとした辛さが鼻に抜けていく。思わず涙がにじんだが、その辛さがまた美味しい。

「美味しいです……これはご飯がすすむ味ですね」

 頼鷹が餃子のあとに白米を口にして呟いた。

「……初めて餃子を食べたみたいですね」

 若者が麻婆豆腐定食を食べ終え「ごちそうさま」と言ったあと、頼鷹を物珍しそうに見て言った。

「ええ、初めてです。中の餡がたっぷり詰まっていて、大変美味しいです」

「それは良かった」

 頼鷹は正直に答えたが、行きずりの関係だからか若者は結局深く聞くのはやめたらしい。美味しそうに頬張る頼鷹に笑顔で応えた。

 頼鷹がスープを一口飲むと一呼吸おいて、若者に質問を投げかけた。

「ご家族と一緒にお参りするとおっしゃっていましたが、今日はお一人なのですか」

「今年はちょっと。今まで実家暮らしだったんだけど、今年から大学入ってひとり暮らししてるんです。

 もっと早く帰るつもりだったんですけどバイトしてたのと新幹線の切符取れなくて、帰省するの遅れちゃって。で家族はもう墓参り済ませちゃったからたかしげはひとりで行ってこいーって。真っ昼間にひどいですよね。こんなにあっついのに」

「たか、しげ」

 笑って答える若者……もとい隆卯とは対照的に、頼鷹がぽかんとした表情で若者の名を繰り返す。

「あ、そういえばこっちから名前聞いたくせに名乗ってなかったですね、すんません。オレ、狩野かりの隆卯っていいます」

「たかしげさん、とおっしゃるのですか。たかという字は、どういった字を」

「隆起するの隆です。字こそ違いますけど、頼鷹さんの『たか』の音から取ったんだって、ひいじいちゃん言ってました」

 そう言って笑う隆卯に、頼鷹は「そうだったんですね」と目を細めた。

「じゃあ、お先に失礼します。またいつでもお参り来てくださいね」

「ええ。是非また」

 ぐっとお冷を飲み干し伝票を手に席を立った隆卯に、頼鷹は晴れやかな笑顔で応えた。

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