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 それから汐世が説明して頼鷹が感心するというやりとりが何度かあったが乗り換えも無事に経て、苔樫駅には予定通り十一時を少し過ぎた頃に到着した。

 都内とは比べ物にならない人の多さではあるが、ほどよく栄えた駅のようだ。まわりに緑も多い。夏休みの平日の昼間でも人が絶えず構内を行き来していた。

「やはり……駅自体も、駅のまわりもだいぶ様変わりしていますね」

「お寺はこっちみたい」

 汐世は移動中に頼鷹から聞いていた寺の名前を検索し、地図アプリで道順も調べていた。頼鷹は全てを汐世に委ねることにしたようだ。特に口を挟むことなくついてくる。

 今日も蝉がうるさいほどに鳴いていた。

 電車内は冷房が効いていて寒いくらいだったが、ホームに降りた瞬間、熱気が襲ってきた。駅から出ると、さらに強烈な陽射しがこれでもかと襲いかかってくる。

「頼鷹さんも、これ」

「ありがとうございます」

 汐世がビニール袋から、先ほど駅中のコンビニで買ってきたミネラルウォーターを一本頼鷹に渡した。

 渡した時のひやりとした感覚が心地よく、自分も飲もうと、もう一本買っていたものを袋から取り出す。開けて飲もうとした時ふと視線を上げると、頼鷹がペットボトルを見つめて今日何度目かの不思議そうな表情を浮かべていた。

 蓋の開けかたがわからなかったのだ。

「貸して。こうするの」

 汐世は言って手渡してもらったペットボトルのキャップを、小気味いい音を鳴らして開けてみせた。

「ありがとうございます。それにしても暑さが昔とは段違いですね」

「年々気温が上がってるみたい。ちゃんと日陰に避難して休憩と水分塩分とらないと倒れちゃう。喉が渇いたと思う前に摂って。塩飴も買ったから」

 がさりと持っていたビニール袋を揺らす。

「感謝しきりですね」

 頼鷹が礼を言い、ペットボトルの水をごくりと飲んだ。

 汐世も倣ってのどを潤すと、水分が身体じゅうに染み渡る心地がした。

 それから地図アプリを表示しつつ出発した。ふたり並んでもくもくと線路沿いの歩道を進む。しばらく無言が続き、汐世は少し気詰まりを感じていた。

 図書館であれば本を読むことで沈黙は苦にならなかった。けれど今はふたりで目的地に向かうという、いつもと違う状況だった。

 そう、いつもと違う。

 頼鷹さんと、ふたりで出掛けている。しかも初めて。

 それを意識して、汐世はどきりとする。

 今、自分の表情は変じゃないだろうか。

 自分の片頬に手で触れていると、頼鷹が「暑いですか」と聞いてきた。

「暑いけど、大丈夫」

 つとめて平静に答える。

 大丈夫。普段から何考えてるかわかんないって言われるし。

 喜怒哀楽が表情に出にくいのは自覚していた。

「汐世さんは、強い子ですね」

「なにそれ」

 頼鷹は笑って、ハンカチを取り出し汐世のほうへも風を送ってくれた。

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