1-3
わたしはその時のことを多少ぼかしてみんなに語って聞かせた。しおちゃんは話していいって言ったけど、さすがに本人の名前を出すのは気が引けたのだ。
「……ねえ、これって実はホラー?」
わたしの隣でふとんを深くかぶった
「不思議な話のつもりだったけど、怖かった?」
「怖いじゃん。裏の世界にある記憶の図書館って。他人の本読んだら記憶が乗っ取られるんでしょ?てか、ウチらの学年でそんな不思議ちゃんいたんだ」
「その子って、もしかして古咲さん?」
麗実ちゃんがわたしに聞いた。
わたしのクラスの教室でその話を聞いたとは言わなかったけど、そもそもわたしの交友関係なんてたかが知れてる。やっぱりわかる人にはわかるんだなあ。失敗。
「実はそう、なんだあ」
苦笑いを浮かべていたわたしに、麗実ちゃんが身を乗り出した。正確には暗くて見えないけど、気配で身を乗り出してきたのがわかった。
「ねえねえ!その図書館って本当にあるんだよね?行ってみたい。私、思い出したい記憶があるんだ」
「へ?」
意外だ。
麗実ちゃんも割とこのテの話が好きではあるけど、あくまでもフィクションとして楽しんでるタイプなんだと思ってた。麗実ちゃんの本気の視線を感じる。
「どんな記憶?」
「小学校の頃同級生だった男の子がね、前に駅で私を見かけたから会いたいって友達経由で連絡来たの。
小学生の時に何度か話したことあったらしいんだけど、その男子についての記憶があやふやでさあ。実際会うのに当時のことあんまり覚えてなかったってのもホラ、やっぱ悪いじゃん?だから思い出せることなら思い出したいの」
ははあ。
そんなあやふやな状態でも会ってみたいとは、相手はイケメンか。麗実もミーハーだけど明るくて可愛いし、お呼びがかかるのも無理はない。
他のふたりも「えー!運命の再会?」とはしゃいでる。結局女子が集まって一番盛り上がるのはやっぱり恋バナだったらしい。
この盛り上がりだとさすがに先生が様子を見に来ちゃいそうだと思って、わたしは「しーっ」と人差し指を口元にあてた。恐らく見えてないだろうけど。みんなは口々に「ごめん」と笑う。わたしもつられて笑う。ちょっとワクワクしてきた。
「お願い!古咲さんにさ、連れてってもらえないか連絡とってみてよ。楼子ちゃんだってやっぱ興味あるんじゃない?」
麗実ちゃんがぱしんと小さく手を合わせた。確かに想い出図書館のことが気にならないと言えば嘘になる。
「わかった。麗実ちゃんは行くとして……理衣佳ちゃんと智絵理ちゃんは?どうする?」
ふたりに聞くと「うーん……ごめん。ちょっと行くのは怖いかも」「私も。でも行ってきたら報告は是非ともよろしく」と返ってきた。
理衣佳ちゃんは怖いの苦手だし、智絵理ちゃんは面倒なのに巻き込まれたくないタイプなので当然か。
「りょーかい。じゃ、今しおちゃんに連絡してみるよ。もう寝てるかもしんないし、ダメって言われても恨まないでよ?」
麗実ちゃんが頷いた気配を感じつつ、枕元のスマホを引き寄せ、メッセージアプリを開く。
『夜遅くにごめん
今起きてる?』
まずはそれだけ送ると、すぐ既読が付いてぽこんと返信があった。
『こんな時間に珍しいね
今日もろーこ合宿だっけ?』
『そうそう明日で最後
しおちゃんは?』
『読書中』
夏休みで少しは夜更かししてるだろうなと思ってたけど、やっぱりだった。
『実は今友達に想い出図書館のこと話したんだけど
行ってみたいって子がいて
同じクラスの麗実ちゃんなんだけど
わたしもついてくからしおちゃんに連れて行ってもらえないかな?』
今更だけど都合のいい、不躾な申し出に気分を害さないかと不安になる。
「お願い!」と狐のキャラクターが手を合わせてる可愛いスタンプもダメ押しで送信して、どきどきしながら返信を待つ。
今までより返ってくるのに時間が掛かっていた。
『いいよ』
たった三文字だけ、了承の返事が送られてくる。
「……良いって」
わたしは思わず口をぽかんとしながら画面から顔を上げると、みんなは口々に「やったね」と小声で労ってくれた。
その間にまたしおちゃんからメッセが届いた。
『いつがいい?』
わたしは文面をみんなに見えるようにした。
「連れてってもらうんだし、古咲さんに合わせよ」
麗実ちゃんの意見を反映したメッセを送るとまたすぐに返事があった。
『明後日からの課外授業
ろーこたちも参加するでしょ
初日終わったら連絡ちょうだい
くわしくはその時』
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