第13話 夢から醒めない王子様達
「ひどい侮辱だわっ。まるでわたしを……ち、痴女みたいに言うなんて!?」
「え」
「えぇ!?」
とっても心外で傷つきましたという顔をして反論されたが、違うとでも言うつもりだろうか?
思わず白目になってしまうのは許してほしい……だって、あれが痴女でなくてなんだというんだ。
今だってデザインは可愛らしいが、たわわな胸が零れ落ちそうな程に深い襟ぐりのドレスを着て、誘惑する気満々ではないか?
胸元を覆う、ふんわりと幾重にも重ねられたレースのおかげでむき出しでこそないものの、透け感のある素材のため動く度にチラチラと見えそうで見えないあたりが余計に男心を唆るのだろう。あれだと身分に関係なく、どんな男でも敏感に反応してしまいそうだ。
つい先程もランシェル・ハワード第一王子相手に、ベッタリ引っ付き胸を押し付けて愛嬌を振りまいていたばかりだ。
シルヴィアーナ達に見せつけるかのように、思いっきり女の武器を使っておいて惚けるつもりか……。今更、被害者ぶっても無理だろうと呆れてしまう。
「……痴女みたいなお振る舞い、されてましたわよね、皆様?」
「ええ、シルヴィアーナ様。間違いなく。わたくしもこの目でしっかりと拝見しましたわ。別に見たくて見たわけではありませんでしたけれども、目の前で行われましたので仕方なく……でしたが」
淑女としては答えにくい問いかけに、言いにくそうに恥じらいながらも真っ先にダフネが声をあげてくれた。
「わたくしもですわ。ダフネ様がおっしゃるように……その、ご立派な双丘を殿方のお体にムギュっと押し付けられていては見逃しようもありませんもの。思わず顔が赤くなってしまいました」
「まともな神経をしていればそうなりますわ。人前であっても気にする素振りもなく、その……破廉恥で婀娜っぽい仕草をなさいますでしょう? まるで秘め事を見せられているようで、目にするのも恥ずかしくって……」
「他にもありましてよ。いつも悩ましげにクネクネと体を動かされて、その度に大事なところがユサユサとなるのですわ。あまりに勢いよく揺れるものですから、いつかポロリと零れ落ちてしまうのではとハラハラしてしまいましたもの」
サリーナ相手に淑女の嗜みをしっかり守って話していては通用しないと、大人しいアンジェリカさえ直接的な表現を使って援護してくれる。
「皆様、ひ、ひどいわっ。そんなことやってませんってば! どれだけわたしを傷つけたら気が済むの!? 意地の悪いことばっかり言うシルヴィアーナ様達の言葉なんて信じないでくださいっ。サリーナを信じて、ランシェルさま!」
「勿論、信じるよ。そばにいた私が一番よく知っているからね、君が男に慣れていないのは。そうだろう?」
「ううっ、ラ、ランシェルさまぁ……」
「だからほら、そんなに不安そうな顔をしないで?」
「ぐすっ、は、はい。ごめんなさい……」
ハラハラ涙を流しながら上目遣いで切々と訴えてくるサリーナを、相変わらず甘やかし、優しく慰めるランシェル王子。彼女の言葉を鵜呑みにし、盲目的に受け入れている。
もう何を言っても無駄なのかと憂鬱な気分になっているシルヴィアーナの気持ちなど、サリーナに夢中の彼にはどうでも良いことなのだろう。
――まるで大事な花を汚す、害虫を見るような目でこちらを睨みつけてくるのだから……。
(…… 殿下、花は花でもサリーナは毒花ですのよ。もう、全身にその毒が回ってしまわれましたの……?)
悲しくもあり、腹立たしくもある気持ちで向けられた視線を見つめ返す。
「シルヴィアーナ嬢っ。そうやって令嬢たちを手先に使い、扇動するのはやめてもらおうか。どれだけサリーナを侮辱すれば気が済むんだ!?」
「殿下のおっしゃる通りですっ。これ以上、彼女の名誉を傷つけないでくださいっ」
「そうだそうだっ、サリーナはふしだらな女じゃないっ」
「……」
言葉が届いている気がしない。
夢から醒めない王子様達に、いくら客観的な真実を説明しても感情論だけで押し通され、激しく否定されてしまうのだ。
面倒くささに全てを投げ出したくなるが、一応、婚約者としてはここで放り出す訳にもいかない。
「侮辱も何も……ボートン子爵令嬢のお振る舞いをありのままに述べただけですのに」
現実を突きつけたにもかかわらず、認識を改めようとはしない彼らと押し問答になってきた。
そのことに若干イラつきながらも、冷静さを失わないよう注意しながら言葉を返す。
「男性を知り、誘惑することに慣れた方でないと到底考えつきませんもの。貴族令嬢として育てられた者には理解不能ですわ。考えもつかなことを創作出来ようはずがないでしょう? 貴方達が主張するような噂を流すのは不可能です」
「……なるほど。よくわかったよ」
シルヴィアーナの話をじっと聞いてから深くため息をつき、何やら悟ったように言うランシェル王子。
そんな彼を見て、ようやく毒に犯されて鈍った思考が晴れたかと安堵しかけたのだが……。
「貴女が常日頃から彼女を色眼鏡で見ているっていう事がね」
「……」
――全然分かっていなかった。
今の状態の王子に一瞬でも期待したのが馬鹿だった。
「……なんて女だ。信じられない。だから咄嗟に彼女を貶める言葉が出てくるんだね」
またしても自分達に都合のいいように解釈し、勝手に納得しては見当違いの結論を出していたようだ。
ここまで酷いと逆に見事である。
「そうですね。殿下のおっしゃる通りです。追い詰められて、思わず醜い本性を現しましたか? 語るに落ちるとはこのことですね!」
シルヴィアーナに侮蔑するような目を向け、吐き捨てるように言うリアン。
「誰からも愛される彼女への妬みと嫉妬心から虚偽の言葉を重ね、こんなに純真な彼女を追い詰めようとするなど、恥を知りなさい」
「そうだぞっ、か弱い彼女を泣かせて……心が痛まないのか! この悪女め!」
サリーナの言葉だけを信じ、口々に非難する。
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