第6話 おねだり
美貌の王子から花の妖精に例えて口説かれたサリーナは、一度恥ずかし過ぎて怒ってますというようにプクっと頬を膨らませてみせた。王子達はそんな姿も可愛いと、微笑ましそうに見ている。
「それはともかくとしてですねっ。ピンクダイヤモンドのことですけど。こんなにも綺麗に発色したピンクな色の宝石ってあるんですねぇ。こんなのサリーナははじめて見ました!」
「そうだろう? 稀少な宝石だからね。中々出回らなくて……でも手に入れられてよかった。君好みの色だろう?」
「あ……もしかしてランシェル様、覚えていてくださったんですか。私の好きな色のことを!?」
「勿論、覚えている」
「まぁっ、そんなにわたしの事、気にかけてくださってたんですね。ランシェルさまって本当、気遣いの出来るお優しい方だわ……」
「君のことなら何でも覚えていたいんだ」
サリーナからうっとりとした尊敬の目を向けられて、まんざらでもなさそうに答えるランシェル王子。
「嬉しいです! それに宝石に合わせてつくっていただいたこのドレスもとってもかわいくってっ。ランシェル様のエスコートで夜会に出席できるだけでも幸せなのに……わたし、夢をみているのかしら」
「フッ、夢にしてもらっては困るな。まあ、夢のようによく似合っているが」
「きゃっ、ランシェルさまったら。さっきから甘いセリフばっかりおっしゃったって! これじゃあ、わたし口説かれているみたいじゃないですか。人前でそんな言葉ばっかり……恥ずかしいわ……」
美少女が照れて顔を真っ赤にしながら、軽く上目遣いに睨んでいる姿はあざとい。
王子もそう思ったらしく、うれしそうにしながら笑って言った。
「ふっ、人前じゃなかったらいいのかい?」
「もう、バカバカっ。女の子をからかわないでくださいなっ。サリーナはそんなこと言われるの、慣れてないんですからっ。特にランシェル様のような格好よくて優しい男の人からそんなこと言われたらもう、どうしていいのか困っちゃう!」
「ははっ、こんなことで困るのか。サリーナは可愛いな。じゃあ、慣れるまで私と練習しようか?」
「そんな、駄目ですよぉ。王子さまがわたしなんかと……」
「いいじゃないか。それともリアン達と、したいのかい?」
それを聞いて、すかさずリアン達が会話に加わる。
「それはいいですね。サリーナ嬢。殿下はお忙しいですし私達と練習しましょう」
「私も協力しますよ」
「そうだぜサリーナ。俺も頼ってくれ」
「まあ、みんなまでそんなこと言って……」
「お前達……言ってくれるじゃないか。だが、サリーナのためなら時間を作るさ」
「ランシェルさま、いいの? うれしいっ。でも、あの……」
サリーナは喜んだが、その後、はっと何かを気にするようにして続きを言いよどんだ。
「うん? どうしたんだい?」
「あの、今さらですけれど、よかったんですか? わたしなんかが今宵、王子様のエスコートをお受けしても?」
「構わないさ。前に一度、公爵家の夜会に参加してみたいって言っていただろう?」
「それは……だって、王弟のランスフォード公爵様が主催されるパーティーって、女の子達の憧れなんですもん! 外国からお客様もたくさんお見えになるし、珍しいお花やお菓子、お料理なんかもあるって!」
「ははっ、そんな可愛らしい理由だったんだ? サリーナが来たがっていたのって。野心がありませんね」
リアンが微笑ましそうにそう言うと、他の三人も同意するように頷いている……がしかし、野心がない女ならそもそも彼らに近づかないはずである。
「へ? そんな理由じゃだめですか。貴族令嬢らしくないって怒られちゃいますかね?」
「いいや。そんなことないさ。君はそのままでいい」
「ありがとうございます、ランシェル様。でも、わたし……一人じゃ心細かったですし、ランシェル様達と一緒に来れてとっても嬉しいんですけど……でも、何だか婚約者のお嬢様達に悪くって……ジョナス様やリアン様、クレイグ様にも申し訳ないです……」
「おや、嫌でしたか?」
「そんな、リアン様。皆が迎えに来てくださって、とっても心強かったです!」
「まあ俺の場合はあいつに必要ないだろ。何しろルイーザは男のエスコートなど必要ないくらいに強い奴だからな」
「ふふふっ。まあ、クレイブ様。そんなこと言ったら、ルイーザ様が可哀想ですよぉ」
「サリーナは優しいな。あいつに随分、キツいことを言われたのに」
「きっとルイーザ様も、その時、機嫌が悪かったんですよ。わたし、気にしてません」
「はぁ……こんなに素敵な子なのに、何故アンジュリーナは君に優しくできないんだろうね」
ジョナスがため息をつく。
「う~ん。ほら、あの方って誰にでもお優しいからストレス溜めちゃってたりするんじゃないのかな? わたしなら大人しいアンジュリーナ様でも、嫌みを言いやすいんじゃないんですかね?」
彼らの婚約者について、持ち上げる振りをしながら落としめている。その事に、ランシェル王子達は気づかず、婚約者の批判を続ける。
「……君の優しさにつけこんでいるってことだろう?」
「えっと……それは」
その問いかけに、返事を迷う素振りをみせたサリーナ。その様子を見て、ランシェルが言った。
「無理に答えなくていい、サリーナ。思い出すのも辛いだろう」
俯いてしまった彼女を、痛ましげに見つめる。
「我々の婚約者が迷惑をかけているようだからね。そのお詫びにと私が望んだんだ。君は気にしないで楽しめばいい」
「ランシェル様……」
サリーナは優しい言葉にソッと顔をあげると、目を潤ませて感激したかのようにランシェル王子を上目遣いに見つめる。
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