第78話 この行列は?
俺たちは新宿に降り立っていた。
流石、東洋1の繁華街というべきであろうか。
こんな午前中の中途半端な時間でも、人の流れは途絶えることを知らないらしい。
「兄さん、行きますよ!!」
「お、おう」
紗良はどことなくテンションが高い。
よほど楽しみにしていたんだろう。
そんな紗良に手を引かれて俺は、目的地へと連れて行かれる。
「おい、あの子めっちゃかわいくね?」
「確かに」
俺の後ろからそんな声が飛んで来たので、軽く殺気を放っておく。
紗良気安く手を出したら、明日は来ないと思って欲しいものだ。
「ん? 兄さんどうかしましたか?」
そんな俺を不思議に思ったのか、紗良が小首を傾げて尋ねてきた。
やめてくれ、そんな可愛い顔されたら、兄さんは心臓麻痺で死んでしまうから。
「い、いや、なんでも無い」
自分で思っても恥ずかしくなったので、俺は考えるのをやめて歩き始めた。
「人が減ったな」
「そうですね」
新宿も大通りを外れると人が減るもんだ。
それでも、十分多いけどな!
「着きました! ここです!」
そう言って紗良が指差した先には、主に女性の行列が出来ていた。
しかも、割と長い行列だ。
「さぁ、並びましょう!」
紗良は元気にそう言った。
「これを、並ぶのか……」
俺は、行列の類いに並ぶのはあまり好きでは無い。
しかし、その紗良の嬉しそうな顔を見たら断れまい。
こんなに可愛い顔をされて断れる男がいたら、今すぐここに連れてこい。
まぁ、居ないだろうがな。
「これは、何の行列なんだ?」
俺は前に並ぶ紗良に聞いた。
「兄さん、知らないんですか? これです!」
そう言って紗良はスマホの画面を向けて来た。
そこには、ふわふわのスフレパンケーキが表示されていた。
「へぇ、美味しそうだね」
「はい! 最近SNSで人気なんですよ?」
どうやら、若い女性にそのパンケーキは人気らしい。
しかし、残念ながら俺は男だし、SNSも別にそこまで執着してやっている訳では無いのでその存在を知らなかった。
「にしても、並ぶんだな」
「まぁ、お休みの日ですからね」
今日は土曜日。
しかも、時刻は昼を少し過ぎたくらい。
混んでいるのも納得な状況である。
「兄さん、フォロワーさん多いのにこういう情報疎いですよね」
紗良は悪戯っぽい微笑みを浮かべていた。
「仕方ないだろ。同業と仕事先にしかフォロー出してないし」
俺は基本的には同業者と仕事でお世話になった人、リアルであった人しか、フォローを出して居なかった。
回ってくる情報といえば、ラノベの発売日くらいである。
「まぁ、そうですよね」
紗良はニコニコとしている。
「お客様、2名様でよろしいですか?」
店員さんが尋ねてくれる。
「はい、そうです」
「お待たせ致しました。では、ご案内致します」
紗良とわちゃわちゃ話しているうちに、行列の先頭まで来ていた。
紗良と一緒だと、本当に時の流れが早く感じる。
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