第77話 お出かけをしよう!

 原稿も仕上がり、後は朝桐さんのチェックを待つのみとなった。

やっと、肩の荷が降りた感覚である。


「兄さん、お仕事は終わったんですか?」


 キッチンの冷蔵庫からジュースのパックを取り出している紗良が言った。

そんな、甘そうなジュースばっかり飲んでいてよく太らないよな。

ショートパンツから覗く紗良の引き締まった美しい足を横目で眺めて思った。


「ああ、大体な。後は細かい修正点だけだと思うから、もう一段落かな」


 俺はリビングのソファーに身を委ねた。


「じゃあ、もうお仕事は終わりそうなんですね」

「ああ、そうだよ」


 紗良の表情がぱっと明るくなった。


「じゃあ、今週末って空いてますか?」

「ああ、空いているよ」


 今度の週末には特に予定は入っていなかった。

今時の高校生がそれはどうかとも思うが、悲しいことに誰からもお誘いはされていない。


「じゃあ、美味しい物を食べに行きましょう!!」


 紗良は、俺にグッと近づいてくると言った。


「わ、分かった。行こうか」

「はい、約束です!!」


 紗良は満面の笑みを浮かべていた。

その笑顔はずるいぞ。

そんな笑みを向けられたら、クラスの男どもは一撃でノックアウトだろう。

紗良に変な虫が付かないといいが。

まあ、そんな奴は俺が鉄拳制裁してやるがな!!



 ♢



 一週間とは、意外と早い物だと思う。

水曜だと思ったら、あっという間に週末になっていた。


「兄さん、準備出来ましたか?」

「ああ、出来ているよ」


 俺は、白のTシャツに黒のジャケットを羽織っていた。


「では、行きましょう」


 一方の紗良は、薄いピンクのフワッとしたワンピースを着ていた。

肩からは斜めに小さな白いバッグを掛けていた。

本当に、どんな服装をしていても似合うと思う。

今日は、サラサラと流れる黒髪は下ろしていた。

我が妹ながら見とれてしまうほどの美しさである。


「はいよー」


 紗良に連れられるがまま、俺は家を出た。

どうやら駅に向かっているらしい。

少なくとも、電車には乗るのだろう。


「なあ、今日はどこに行くんだ?」


 俺は、隣を歩く紗良に尋ねた。


「新宿です!!」


 紗良は意気込むように言った。


「新宿かぁ」


 そう言えば久しく行っていない。

これも、外に出ない生活を送っていた弊害だろうか。


 俺たちは新宿方面の電車へと乗った。

ここからだと、30分ほどかかるだろう。

ちょっと距離がある。


「兄さんはいつもどこに遊びに行くんですか?」


 電車で隣に座る紗良が聞いてきた。

比較的、中途半端な時間帯からか、電車は普通に座る事が出来た。


「俺は、池袋とかが多いかな」

「確かに、家からも近いですしね!」


 池袋は新宿に行く通り道にある。

なので、新宿によほどの用事では無い限り、池袋でできる用事は池袋で済ませていたのだ。


 そんな話をしているうちに、電車は池袋を通過した。

まだ、ここから10分ほどは掛かるだろう。

しかし、不思議と退屈では無い。

紗良と話していると、時間も短く感じるものだ。



『次は新宿。新宿』


 電車のアナウンスが車内に響いた。


 

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