第75話 出版に向けて②

 俺は、表紙のイラストレーターにマホガクを描いている方を提案した。


「いいと思います。同じ人が描けば話題性は十分にありますし」


 朝桐さんは案外乗り気だった。


「いけるんですか?」

「正直、微妙かもですけど、笹井さんに聞いてみます」

「お願いします」


 マホガクの表紙イラストを手掛けている方は氷室先生と言って、人気のイラストレーターさんである。

アニメ化も決まり放送中のマホガクのキャラクター原案の方なので恐らく忙しいだろう。


「では、マホガクの氷室先生を第一希望と伝えておきますね」

「ありがとうございます」


 氷室先生に描いていただけたら、凄くいい物が出来上がるだろう。

俺は、心の中で氷室先生に描いてもらえることを願った。


「それと、表紙の題字は先生ご自身でやられますよね?」


 朝桐が聞いてきた。


「え、いいんですか?」

「ええ、せっかくマホガクの題字もやっているんですから、ここは先生が題字で行きましょう」

「分かりました。そっちも進めておきます」


 自分の本の題字を自分でできるとは、思っても居なかった。

これは嬉しいことである。

俺は、やることリストに自分ラブコメの題字を加えた。


「それで、原稿の方はこれで大体おっけーですので、細かい修正点はメールで送っておきますね」

「分かりました」


 そこまで言うと、朝桐は紅茶を一口飲んだ。


「で、次はタイトルね。これは私も考えたんだけど、これで行きましょう」


 そう言って、朝桐は俺の方にタブレットの画面を見せてきた。


『俺は決してシスコンではないはず!!』


 画面にはそう映し出されていた。


「おぉ、いいですね。このタイトル」

「東條先生も気に入ってくれました?」

「はい、いいと思います」


 俺は、朝桐さん案に賛同した。


「じゃあ、今日の打ち合わせはここまでにしましょうか」

「はい、ありがとうございます」


 そう言うと、俺もコーヒーを口にした。


「お礼を言うのはこっちの方よ。こんなに早く原稿を仕上げてくれるとは思いませんでしたから」

「ははは、睡眠時間を削って書いてましたからね」


 俺は苦笑いを浮かべながら言った。


「無理させてしまいましたね。すみません」

「いいんですよ。楽しく書かせてもらいましたから」


 正直、ラブコメに執筆は楽しかった。

日常を文章に落としていく感覚というのだろうか。

それが凄く楽しかったのだ。


「そう言って貰えて何よりよ。ここからはあまり大変な作業ではなくなるから、ちゃんと休んでね」

「分かりました」


 出版社的にも今、倒れられたら困るということだろう。


「じゃあ、今日はこれで終了ということで。お疲れ様でした」

「はい、お疲れ様でした」


 そう言うと、俺たちは喫茶店を出た。

そのまま、朝桐さんを駅まで送って行く。


「わざわざ送ってもらってすみません」

「大丈夫ですよ。家、近いですから。それでは、お気を付けて」

「はい、先生もお気を付けて」


 朝桐さんを見送ると、俺も家に向かって歩く。

今頃、紗良が寂しがっているような気がする。


『打ち合わせ終わったから、今から帰るよ』


 そう、紗良のメッセージに送った。

すると、すぐに既読が付き、『了解』というスタンプが送られてきた。

俺は、スマホをポケットに仕舞うと、家までの道のりを歩いた。



 ♢



「ただいまー」


 家に帰ると、何やらいい匂いが漂ってきた。


「おかえりなさい」


 すると、エプロン姿の紗良が出迎えてくれた。


「おお、晩御飯作ってくれていたのか?」

「はい、最近、兄さんがお疲れの様子でしたのでカレーを!!」


 確かに、カレーの匂いが玄関まで充満していた。


「ありがとうね」


 俺は、紗良の頭を優しく撫でた。


「ふふふ、もう少しでできますから待っていて下さい!!」


 そう言うと、紗良はキッチンの方へ戻って言った。

そう言えば時刻はもう夕方である。

お腹も空き始める時間帯だ。


「じゃあ、お言葉に甘えて待ってますね」


 俺はリビングのソファーに腰を下ろすとテレビをつけた。

そして、録画した番組の中からマホガクの最新話を再生する。


「出来ましたよー」


 半分ほど見終わった頃だろうか。

紗良がカレーをよそって持ってきてくれた。


「妹特製カレーです!! 召し上がれ!」

「お、美味そうだな。いただきます」


 俺は紗良が作ってくれたカレーを口に運ぶのであった。

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