第59話 合気道をやってみたい

いつものように、食事を終えると、紗良との2人でテレビを見たり、他愛もない話をしている。

これも、すっかり日常になってしまったものだ。


「そういえば、明日は何か予定があるんでしたっけ?」


 紗良が尋ねてきた。


「ああ、明日は合気道の道場に行くよ」


 俺は月に2回から3回ほど、知り合いの合気道の先生の元に通っている。

定期的に行かないと腕が鈍ってしまいがちになるので、欠かさず行っている。


「それ、私もやってみたいです!」


 紗良がグッと近づいてきて言った。


「お、おう。いいと思うけど」


 合気道は護身術にもなる。

紗良でも覚えれば出来ると思うし、何より、いざという時に自分の身を守る術を持っているのはいい事である。


「護身術にもなるって言ってましたもんね」

「ああ、まぁ紗良1人くらい守ってやるけどな」


 そう言うと、俺は紗良の頭をそっと撫でた。


「んっ」


 紗良は顔を赤く染めていた。

しばらくして、紗良の頭から手を離すと、少し名残惜しいような表情を浮かべていた。


「とりあえず、師匠に聞いて見るね」


 俺はスマホのメッセージアプリを立ち上げると、師匠にメッセージを送る。


『明日、妹を体験に連れて行ってもいいですか?』


 すると、すぐに既読が付けられる。

割といい歳なのに、スマホを使いこなしている。


『もちろんだよ! 妹さんも連れておいで!』


 そう、師匠から返信が来る。


「いいってさ」


 そう言って、紗良にスマホの画面を向けた。


「やったー! 楽しみにしてます!」


 紗良は小さくガッツポーズをすると、微笑んでいた。

可愛いかよ。


『ありがとうございます』


 師匠に返信すると、師匠からは『ぐっ!』というスタンプが送られてきた。

本当、その辺の高校生くらいにはSNSを使いこなしているのが怖い。


「じゃあ、明日の午前中には行くから」

「分かりました! 何着て行けばいいのでしょう」

「普通にいつもの服装でいいよ」


 道着などは、貸してもらえるはずだ。


「まぁ、飲み物くらいはあった方がいいかもな」

「はい!」


 まぁ、それは道場の自動販売機にも売っているし、別に問題無いであろう。


「9時くらいには家出たいなぁ」

「了解です!」


 紗良は敬礼のポーズを取る。

どんな姿を見てもつくづく可愛いと感じる。


 その日は2人とも、早々に就寝するのであった。


 そして翌日、7時半にかけたアラームで目を覚ます。


「もう、朝か……」


 アラームを止めるとムクっと布団から体を起こす。


「さてと、起きるとするか」


 顔を洗うべく、階段を降りる。

すると、それを追うように紗良も階段を降りてきた。


「おはようございます兄さん」

「うん、おはよう。紗良、階段は歩いて降りてくれ」


 バタバタと駆け下りて来られたら危なくて仕方ない。


「すみません」


 えへへっと笑う紗良。

その笑顔でこの世の全ての争いが解決しそうな笑顔だった。

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