第55話 浅草といえば

 紗良は、出来上がったもんじゃを美味しそうに食べている。

その顔を見ながら食べたら、ただでさえ美味しいもんじゃが100倍は美味しく感じる。

やはり、俺はシスコンなのだろうか。


「兄さん、やっぱりもんじゃは美味しいですね」

「ああ、顔見てればわかるよ」


 そう言うと、紗良は両頬を両手で押さえた。


「何でですか!?」

「紗良は、美味しい物を食べる時は幸せそうだからね」


 むぅっとした顔をしたが、その顔ですら可愛い。

もう、とにかく全てが愛おしいのだ。

いよいよ、ここまで来ると妹バカと言われそうだが。


「美味かったなぁ」

「はい。もんじゃって意外とお腹いっぱいになるんですね」

「そうだねぇ」


 数十分した頃には食べ終わり、食後の烏龍茶を飲んでいた。


「さてさて、お会計してくるかね」


 そう言って、宮田さんに挨拶するのと同時にお会計しようとした。


「宮田さん、ご馳走さまでした」

「はい。こちらこそありがとうございました」

「今日も美味かったです」

「それはよかったです」


 宮田さんはいつも腰が低い。

こういう、誰にでも丁寧な接客が評価にも繋がるのだろう。


「それで、お会計お願いします」

「あ、それでしたら明に請求しますので春輝さんからは頂きません」

「でも、そういう訳にも……」

「本当にいいですから」


 結局、宮田さんの押しに負け、請求は親父に行くことになった。

宮田さんは、丁寧なのだが、どこか頑固な所がある。


「では、ご馳走さまでした」

「ありがとうございますた。今後ともどうぞご贔屓に」


 外で待っていた紗良と合流すると、次の目的地へと向かうべく、歩き始める。


「兄さん、次はどこに行くんです?」

「ん? 浅草といばの所だよ」


 少し、人通りも少なくなった道をのんびりと歩く。


「ここだよ」

「ここって……」

「着物屋さん!!」


 やはり、浅草といえば着物だろう。

俺は、紗良を連れて早速中に入る。


「あら、春輝くん。いらっしゃい」


 ちなみに、ここも俺の馴染みの店だ。

イベント等で使う、着物を仕立ててもらっている。


「ご無沙汰しております。美里さん」


 ここの店主である美里さんは着物の事となれば浅草で1番だろう。


「今日は新しいお着物?」

「いえ、今日はこの子の着物をレンタルしたくて伺ったですけど」


 俺は紗良の背中に軽く手を回して、一歩前へと出した。


「よ、よろしくお願いします!」

 

 紗良が軽く頭を下げた。


「あら、可愛い子ね! 春輝くんの彼女さん? こちらこそよろしくね」

「残念ながら妹です」

「妹の紗良です。兄がお世話になってます」


 紗良が挨拶をした。


「あら、こんな可愛い妹さんが居たのね。私はここの店の店長してる奥中美里よ」


 美里さんも紗良に軽い自己紹介をしてくれた。


「で、紗良に着物を見繕ってもらいたくて」

「任せときなさい!」


 美里さんは意気込んでいた。


「あと、俺の預けている着物もお願いします」

「分かったわ。ちょっと座って待ってて。紗良さんはこっちにきて」

「は、はい」


 美里さんは紗良を連れて、奥のレンタル用の着物が置いてある部屋へと入って行った。

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