第21話 生徒会誌

  生徒会長の舞香は、去年の生徒会誌を春輝の目の前に掲げてきた。


「それ、去年の生徒会誌ですよね?」

「そうだよ。見て、これ。表紙絵はまあ、よく描けていると思うけど、字がゴシック体って」

「はぁ、それで?」

「面白くないじゃないない!」


 舞香が頬を膨らませていた。


「まあ、その、面白くないという意見には賛成だな」

「でしょ! だから、東條くんに書いてもらいたいの!」


 舞香がグッと近づいてくる。


「だから、近いって」


 俺は、舞香の肩を掴み、引きはがした。


「ごめんごめん。ちょっとテンション上がっちゃって」

「それで、俺はなんて書けばいいんだ?」

「えっとね、これを書いて欲しいの」


 舞香が、メモ帳にペンを走らせる。

書き終わったものをちぎると、俺に渡して来た。


「飛翔、ですか」

「あ、今、ありきたりとか思ったでしょ?」

「い、いえ、そんなことは、無いです。はい」

「まあ、いいわ。とりあえずよろしくね!」

「分かりました。とりあえず、何パターンか出してみます。じゃあ、僕はこれで」


 そう言うと、俺は立ち上がった。


「よろしくねー!」

「はいよ」


 生徒会室を出ると、そのまま書道室へと向かった。

書道室に入り、定位置に座る。


「こんにちは」

「「こんにちはー」」

「お疲れ様です」


 俺が挨拶すると、挨拶が返ってくる。


「さて、書くかな」


 準備を整えると、さっきの生徒会長からもらった紙を取り出した。

半紙に『飛翔』と、とりあえず、楷書、行書、草書の3つの書体で書いてみた。


「読みやすくて、素人ウケがいいのは行書だろうな」


 そう思い、俺は行書を中心に練習していく。


「まあ、こんなもんかな」


 一通りの練習を終えると、時計は17時を指していた。

部室を見回すと、残っているのは莉緒だけだった。


「おい、莉緒。俺、もう、帰るぞ」

「お疲れ様ー」

「最近、頑張りすぎじゃないか?」

「ありがとう。でも、まだ、大丈夫よ」

「ならいいが、あんまり無理すんなよ」

「うん……天才には分からないわよ」


 莉緒は、俺に聞こえないくらいの声で言った。。


「何か言ったか?」

「なんでもない」


 それだけ言うと、春輝は鞄を肩にかけ、学校を後にする。

一人で、家までの道のりを歩く。

数十分歩くと、家の前まで到着した。


「ただいまー」


 自分の持っている、鍵で玄関を開けた。


「おかえりなさい!」


 リビングに居た紗良が、顔を出した。


「おう、ただいま。着替えてくるな」

「はい!」


 自分の部屋へと行くと、部屋着に着替え、荷物を置いた。


「さて、飯作るか」


 リビングに降りると、テレビを眺めていた紗良に向かって言った。


「今日は、何を作るんですか?」

「冷蔵庫に、カレーの材料があったと思うから、カレーにしようかと思って」

「いいですね! 私もお手伝いします」


 そう言って、紗良は意気込んでいた。

 

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