第10話 兄妹ですから

 お風呂上りの紗良は、バスタオル1枚を巻いた姿で、立っていた。


「な、なんて恰好してるんだよ……」

「へ? 私たち、兄妹ですから、このくらいは良くないですか?」

「ま、まあ、紗良がそれでいいならいいが。まあ、早いところ服着ろよ。風邪ひくからな」

「はい!」


 紗良は笑顔で頷くと、二階の自室に向かって行った。


「兄さんも、お風呂入ってくださいね。私の残り湯に存分に浸かってください」


 紗良は、悪戯っ子のような微笑みを浮かべて言った。


「そ、そういう言い方するなよ」

「ふふふう、兄さん、可愛いですね」

「兄をからかうんじゃ、ありません!」

「はーい」


 紗良は、自室に入って行った。


「さて、俺も風呂入るかな」


 そう、呟くと、立ち上がった。

パジャマにしているTシャツとジャージ、バスタオルを準備すると、脱衣所で服を脱ぎ、風呂に入った。


「ふう、今日も色々あったな」


 湯船に浸かり、風呂の天井を眺めた。


「紗良が来てから、毎日が楽しいな」


 紗良が、妹としてうちに来てから、春輝の生活は随分とか変わった。

ゆっくりと風呂に浸かり、髪を洗い、体を流す。

一通り、洗い終わると、風呂を上がった。

 バスタオルで、体を拭くと、パンツとジャージを履いた。

そのまま、髪を拭きながら、リビングへと向かった。


「おう、紗良もここに居たか」

「に、兄さん!?」

「ん? どうした?」

「い、いい体していますね……」


 紗良が、俺の上半身に目を向けていた。


「あ、すまん。つい、癖でな。俺も服着なきゃな」

「い、いえ。兄さん、ちゃんと鍛えているんですね」

「まあ、自分の事くらいは自分で守りたいし、守る人が一人増えたからな。鍛えない訳にはいかんだろう」


 俺は、書道の他に、月に何回か合気道の道場に通っていた。


「その、守る人って?」

「紗良の事に決まってんじゃん。妹一人守れないようじゃ、兄としてどうかと思うからな。また、合気道の道場に通い始めたんだ」

「守られる……」


 紗良は、頬を真紅に染め、俯いた。


「どうかしたか? 顔赤いぞ」

「だ、大丈夫です。その、合気道、私もやってみたいです……」

「そうか。じゃあ、今度一緒に行こうか。護身術にはなると思うから」

「はい!」


 紗良は、笑顔で頷いた。


「紗良も、何か飲むか?」


 俺はTシャツを着ると、冷蔵庫に向かった。


「じゃ、じゃあ、オレンジジュースをお願いします」

「はいよ」


 自分が飲む牛乳のパックとオレンジジュースを取り出した。

それぞれ、グラスに移すと、リビングの机の上に置いた。


「ほれ、オレンジジュース」

「ありがとうございます。いつも、すみません」

「兄妹なんだから、気を遣わなくてもいいよ」


 俺もリビングのソファーに腰を下ろした。


「ところで、紗良はいつも何時くらいに寝るんだ?」

「そうですね。学校のある日は日付が変わる前には寝るようにしてますね」


 この時、23時を回っていた。


「おお、偉いな」

「兄さんは?」

「俺は、1時とかまで起きてるかな。色々やることあったりしてな」

「流石は、書の天才高校生ですね」

「俺、そんなに有名なの?」

「ええ、そう思いますよ」


 この時、自分の知名度が割と上がっていることに気づかされた。


「じゃあ、そろそろ寝ますか」

「もう、12時近いですもんね」

「おう、そうだな」


 俺はグラスを片付けた。


「じゃあ、お休み」

「はい、お休みなさい」


 それぞれ、自室に戻ってベッドに入った。


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